植物免疫を制御するシグナル物質

病原体の感染を感知した植物体内では、その危険がシグナル物質により全身に伝えられ、その結果、後から侵入してくる病原体に備える免疫機構(誘導抵抗性)が全身で発動して身を守ります。ストレスに対して機能する植物ホルモンであるサリチル酸とジャスモン酸が主なシグナル物質として働いていますが、サリチル酸が働く誘導抵抗性は農業で利用されています。また、このような免疫機構の発動が準備(プライミング)された状態にするために、植物の根に共生する細菌エンドファイトや菌根菌のような共生微生物が重要な役割を担うことも分かってきました。プライミングされた植物は、病原体の感染に速やかに応答して免疫機構を稼働させることができ、農業での利用が期待されています。


私たちは、共生微生物によるプライミングや誘導抵抗性の制御に機能する新規シグナル物質の発見と作用機構の解析を行うことにより、免疫機構の分子メカニズムの解明と活用技術の開発を進めています。仲下英雄

<左図 菌根菌の定着> イネの根に感染して細胞の中で増殖しているアーバスキュラー菌根菌の菌糸が染色されています。

<右図 植物の免疫機構の仕組み>赤い矢印は病原体に対する抵抗性を誘導するシグナルを示し、青い矢印は微生物との共生関係がプライミングを誘導するシグナルを示しています。