私たちの研究室では、電荷・スピン・軌道・副格子などの多様な自由度が絡み合う強相関電子系を舞台に、理論的手法を駆使して多彩な機能的物性現象を開拓します。具体的には、螺旋磁性や交替磁性などのスピン・電荷結合系、磁気スキルミオンや磁気モノポールなどのトポロジカル磁気構造、チャーン絶縁体やディラック・ワイル半金属などのトポロジカル電子状態を対象に、線形・非線形応答理論による電気伝導度や光学伝導度の計算、熱平衡状態及び非平衡ダイナミクスのシミュレーション、第一原理計算に基づく新規材料設計などを行います。
物質中の諸現象をモデル化し、解析・数値的な計算手法によってその系の物性を紐解きます。
実験グループとの共同研究にも積極的に取り組み、理論提案した物性を実験において実現することを目指します。
磁気スキルミオンは、代表的な2次元トポロジカル磁気構造であり、面内のスピン流によって駆動されるスキルミオンホール効果を示すことが知られています。トポロジカルに保護された安定性と、極めて低い電流密度で駆動できることから、磁気スキルミオンは不揮発性レーストラックメモリとしての応用が期待されています。
私たちは、ドイツ・カールスルーエ工科大学のMarkus Garst研究室との共同研究により、3次元的な構造を持つスキルミオン紐の電流駆動に関する研究を行いました。磁気スキルミオン紐に沿った方向にスピン偏極した電流を印加すると、磁気スキルミオン紐が不安定化するということを明らかにしました。この縦スピン流が誘起する並進ゴールドストーンモードに起因した不安定性は、磁気スキルミオン紐を螺旋状に変形させ、最終的には破壊していまいます [1]。私たちは、同様の不安定性が周期的な磁気スキルミオン結晶においても現れることも示しました。
(a) 磁場H に沿って現れる孤立した磁気スキルミオン紐と(b) それに平行なスピン流vₛ によって引き起こされる磁気スキルミオン紐の不安定性についての実時間発展。
磁気モノポールは、真空中では未発見の素粒子の一つですが、量子物質中において実現しうると考えられています。(反)磁気ヘッジホッグは、3次元的なトポロジカル磁気欠陥であり、その創発磁場によって有効的な(反)磁気モノポールを形成します。この磁気モノポールと反磁気モノポールは、ディラックの弦の一つとしてみなされる磁気スキルミオン紐によって繋がれており、このような構造は磁気トロンとも呼ばれます。
私たちは、磁気ヘッジホッグ格子を通して、磁気モノポール結晶の物理を理論的に開拓してきました。まず私たちはカイラルな遍歴磁性体において、磁気ヘッジホッグ格子がゼロ磁場かつ基底状態で安定化することを初めて見出しました。また、磁場下において、磁気モノポールと反モノポールの対消滅による多段トポロジカル転移を発見し、非単調なトポロジカルホール効果を引き起こすことを明らかにしました [1]。さらに、最近では、空間反転心を持つ遍歴磁性体においても磁気ヘッジホッグ格子が現れることを示し、磁気モノポールが発現する材料探索のプラットフォームを広げる提案を行っています [2]。
(a) 磁気スキルミオン紐で繋がれた磁気ヘッジホッグ(モノポール)と反磁気ヘッジホッグ(反モノポール)が形成する磁気トロン。(b) 創発磁気モノポール結晶としての磁気ヘッジホッグ格子。磁気単位胞内に8つの磁気モノポール・反モノポール対を含む。
ワイル状態は、線形なバンド分散とカイラリティを有する3次元的なトポロジカル電子状態の1つです。物質中に現れるワイル準粒子は、波数空間における磁気モノポールとしてみなすことができ、異常な量子輸送現象を示すことが知られています。光と物質の相互作用を用いてワイル状態を生み出し制御することは、重要かつ挑戦的な研究課題となっています。
私たちは、フロッケエンジニアリングの考え方を用いて円偏光を照射した3次元ディラック半金属の振る舞いについて調べてきました。その結果、円偏光が誘起するディラック・ワイル転移において、カイラルゲージ場と1光子共鳴という2つの異なる機構が存在することがわかりました [1]。私たちは、東京大学大学院理学系研究科の島野研究室との共同研究において、3次元ディラック半金属であるCo₃Sn₂S₂ [2]やBi [3]に対する実験と比較しながら、それぞれの機構がもたらす光誘起異常ホール伝導度についての理論的な検証を行いました。
(a) 3次元のmasslessなディラック半金属を、(b) 周波数Ωの円偏光(CPL)で周期駆動したとき、2つの異なる機構によって現れるフロッケ・ワイル状態。
カイラル磁性体は、空間反転対称性と時間反転対称性を同時に破ることから、多彩な非線形応答現象を発現する舞台として注目を集めています。特に、ミクロな磁気構造が示す巨大な非線形光学応答は、非従来型の太陽光電池や光学センサといった次世代の光学エレクトロニクスデバイスへの応用が期待されています。
私たちは、伝導電子と結合したコニカル磁性に対して非線形応答理論を用いることによって、光起電力や第二次高調波発生といった電場の2次の光学応答が現れることを提案しました。このカイラル磁性体における光起電力は、ワイル半金属に匹敵する巨大な応答を示すだけでなく、磁化や光の周波数に対して符号変化まで含めた高い操作性を持つことを明らかにしました [1]。
コニカル磁性における光起電力。2つの直線偏光電場 E(ω₁) と E(ω₂) = E(-ω₁) に対して、dc光電流 I(ω₁ + ω₂) = I(ω = 0) が生成される。