研究室配属を希望される方は,プロフィールのページにある連絡先にお問い合わせください。助教は直接の指導教員にはなれませんが,火山センターの教員等を指導教員として受け入れ可能です。また,インターンシップなども対応可能です。
共同研究や装置の使用にご興味のある方は,お気軽にご連絡ください。研究者(産官学)だけでなく,大学院生や学部生,高校生からのご相談も歓迎します。大学により共同研究の枠組みが用意されていますので,そのようなシステムを使うことも可能です。
火山ガスは,地下で出来たマグマ(高温の岩石が融けたもの)に溶けていたガスが,火山の火口や噴気から出てきたものです。 例えるなら,火山ガスは地球の「おなら」です1。 おならが,体調や食べたものによって,ニオイや回数が変わるように,火山ガスは,マグマのもとになる岩石の性質(玄武岩や安山岩など)や,岩石に含まれていた火山ガスのもととなる成分の量, また,地下で火山ガスがいた場所の温度や圧力,マグマの量などによって,地上で出てくるときの成分や量が変化します。 この成分や量(私たちの分野では,それぞれ組成や放出率と言います)を測ることで,火山ガスが出来た環境や上昇してくるマグマの量などを推測することが出来ます。 私は,この火山ガスの組成や放出率を調べることで,火山がどのように噴火するのか,噴火は起きそうか,火山ガスが地下のどこからどうやって上昇してきたか,などを調べています。
火山ガスは,噴火とともに出てくるものから,噴火のないときでも絶えず出ている噴煙や噴気として,また,火口にできた湖や温泉とともに出てくるもの,火山の山体から見えない形で染み出しているもの(土壌ガス)までさまざまです(左図)。 マグマから直接出てくるガスは,マグマの温度を反映して高温(500~900℃程度)ですが,地下で上昇中に冷えることで,天水(火山に染み込んだ雨水)や空気が混ざったり, 地下に存在する熱水系(天水とガスが混ざってできた温泉のたまり場)に溶け込んだりして,低温(100~300℃程度)の噴気や温泉になります。 これらの温度の低下や熱水系の影響を受けて,火山ガスの組成は地下でマグマと一緒にいたときから大きく変化します。 日本のような,プレートが沈み込む場所で出来る火山では,火山ガスの組成は主に水(水蒸気)が占めますが,それ以外に二酸化炭素(CO2)や亜硫酸ガス(SO2,二酸化硫黄とも言う),硫化水素(H2S),塩化水素(HCl,塩酸ガスとも言う)などが含まれます。 この組成を測定することで,地下でどのような影響を受けてきたかを知ることが出来ます。
火山ガスには多くの有毒な成分が含まれます。火山ガスによる中毒事故は,日本でも火山や温泉で数多く報告されています2。特に,亜硫酸ガスは低濃度でも喘息や心臓病を持っている人は発作を起こしやすくなります。 また,低温の火山ガスや温泉ガスに多く含まれる硫化水素や二酸化炭素は,火山の窪地や浴室などに溜まりやすく,ニオイがしない(硫化水素は高濃度だとニオイを感じなくなります)ために溜まっていることに気づかず,意識を失う可能性があります。 火山ガスの健康影響などの詳細は,IVHHNがまとめていますので,ぜひご確認ください(リンクはこちら,言語選択から日本語を選んでください)。
人工衛星には,様々なセンサーを搭載したものがあり,私たちの目には見えない赤外線(サーモグラフィやリモコンに使われています)や紫外線(お肌の大敵!)を使って,宇宙のはるか上空から地球を見つめています。これらのセンサーを利用すると,大気中に放出された火山ガス(に含まれる二酸化硫黄)や火山灰の量を推定することができるほか,火山の表面の熱異常(溶岩や火砕流,噴気などによって高温になっているところ)をモニタリングすることができます。
わたしたちのグループでは,日本が打ち上げた「ひまわり」や「しきさい」,ヨーロッパの打ち上げたTROPOMI,韓国の打ち上げたGEMSなどのセンサーを使った,火山活動のモニタリングを行っています。また,今後は海底火山の変色水の観測なども実施していく予定です。詳しくは観測のページから,RealVOLCのウェブサイトを参照してください。
火山ガス組成の観測は,以前から,噴気でガスをアルカリ溶液を入れたボトルに直接サンプリングし,実験室に持ち帰って分析することで行っていました。 いまは,Multi-GAS(マルチガス)と呼ばれるガスセンサーを複数組み合わせたシステムを使用することで,危険な噴気に近づくことなく,安全に観測を行うことができるようにもなっています(左図)。 また,このシステムを自動で動かしたり,ドローンに積むことで,研究者みずからが現地に行かなくても,観測ができるようになってきました。
わたしたちのグループでは,Multi-GASによる自動観測を国内のいくつかの火山で実施しています。 2018年4月の霧島硫黄山(宮崎県・鹿児島県の県境にあります)の噴火では,噴火の2ヶ月ほど前に,亜硫酸ガスと硫化水素ガスの濃度の比が,1ヶ月間で約100倍にもなるような急激な変化を記録しました。 これは,熱水系にマグマ由来の火山ガスが急激に加わるようになったことを示しており,この噴火の要因を火山ガスから直接明らかにすることができました。
このほかにも,ドローンに積むことができるようMulti-GASを小型・軽量化し,繰り返し観測を行ったり,紫外線の分光計を利用したDOAS(Differential Optical Absorption Spectroscopy)法による二酸化硫黄放出率の観測を行ったりしています。また,このような観測装置はまだまだ研究者の手作りのものも多く,そのような電子工作なども行っています。
火山の山体からは,目に見えない形で火山ガスがしずしずと放出されています。これを土壌ガスや拡散放出(実際の放出機構は拡散ではなく移流です)と呼んでいます。主に,二酸化炭素やラドンなどの貴ガスが,場合によっては硫化水素や炭化水素,ガス状水銀なども放出されています。これらのフラックス(単位面積あたり・単位時間あたりの放出量)は山体表面で時空間的に大きく変動することが知られており,空間的には地下にある断層や割れ目などの亀裂構造を反映し,時間的には火山活動の推移を反映していると考えられます。
わたしたちのグループでは,土壌二酸化炭素フラックスの繰り返し観測・連続観測(左写真)を通じて,火山体の地下構造やその時間変化,火山活動の推移を解明しようとしています。また,土壌ガスの組成の測定も実施しています。
CC-BY: Masaaki Morita, 2025