核酸塩基対における二重プロトン移動は、遺伝子の突然変異(ポイントミューテーション)を引き起こす重要な反応機構の一つとされています。当研究室では、Born-Oppenheimer 近似を超える量子化学計算法 拘束付き核-電子軌道法(cNEO 法; Constrained Nuclear Electronic Orbital)を、自然結合軌道(NBO)解析、非共有相互作用(NCI)解析、さらに反応動力学的検討を組み合わせることで、二重プロトン移動における核の量子効果(NQE)の役割を定量的に解明しました。
古典的な核の取り扱いと比較すると、NQE を考慮することで、シトシン-グアニン塩基対の互変異性体が生成される確率が約 8 倍に増加することが明らかになりました。この顕著な増加は、NQE によって反応部位における軌道間相互作用が強化され、反結合軌道への電子の占有が促進されたことに起因すると考えられます。
本研究は、量子効果が遺伝情報の安定性に与える影響を理論的に明示し、分子レベルでの突然変異の理解に新たな視座を提供するものです。
Electronic insights into the role of nuclear quantum effects in proton transfer reactions of nucleobase pairs [リンク]
K.Motoki & H.Mori, Phys. Chem. Chem. Phys., 2025, 27, 8898–8902.