cis-platin は大腸癌等に処方される抗腫瘍活性をもつ白金錯体系の薬剤分子です。cis-platin は有効な抗癌剤として用いられる一方、その幾何異性体である trans-platin は殆ど抗腫瘍活性を示さないことは、広く知られています。従来これらの違いは、cis-platin が癌 DNA に二本の結合で cross link できるのに対し、trans-platin は cross link できず、結合力が弱いためであると説明されてきました。しかし、trans-platin と DNA の複合体の存在が、X線結晶構造解析で証明され、この説明には修正が必要な状況でした。
本研究室ではこの問題に対して、相対論的フラグメント分子軌道-分子動力学法(FMO-MD)を用いた解析を試みました。その結果、cis-platin では Cl 配位子周辺の水和水の数が trans-platin に比べ平均 1.4 分子程度多く、DNA と複合体を作る際に必要となる Cl アニオンの解離が起こりやすいことを示しました。
Mori H.*, Hirayama N., Komeiji Y.,
Mochizuki Y.,
Differences in hydration between cis- and trans-platin: Quantum insights by ab initio fragment molecular orbital-based molecular dynamics (FMO-MD),
Comp. Theor. Chem. 986, 30-34 (2012).
doi:10.1016/j.comptc.2012.02.008