省エネルギー型スマートウィンドウ、目にやさしいディスプレイ、高透明度の医療用レンズなどを実現する有機エレクトロクロミック(EC)材料は、未来社会を支える重要な技術の一つです。しかし、可視光の三原色のひとつである「純マゼンタ」への透過色変化を示す有機 EC 分子の設計は、従来の量子化学計算や実験手法のみでは極めて困難でした。これは、中性体とラジカル体の双方における複数の電子遷移を最適化する高度な分光設計を要するためです。
本研究では、120万種類のトリフェニルアミン誘導体を対象に、半経験的分子軌道法により得られる電子状態記述子を用いて、無色から純マゼンタへと変化するEC分子の探索に世界で初めて成功しました。この記述子は定性的ながら高速に計算可能であり、大規模な分子スクリーニングを可能にしました。
得られた候補分子について有機合成および分光電気化学実験を行い、実際に期待された機能を有することも実証しました。本成果は、光機能性材料の精密設計に向けた新たな指針を示すものであり、次世代の省エネルギー社会に貢献する基盤技術となることが期待されます。
Realizing Ultrafine Color Tuning of Organic Electronics Materials by Electronic State Informatics
D. Goto, Y. Kanebako, K.Takashima, N.Kuroki, & H.Mori,
J. Phys. Chem. Lett. 2025, 16, 9, 2419–2424.
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