化学の究極目標は、物質の電子状態を制御し、その機能を自在に創成することです。21世紀に入り、相対論効果や核量子効果を含む電子構造まで高精度に扱える分子理論が成熟しつつあります。さらに近年では、機械学習や量子コンピュータの進展により、分子設計の可能性はこれまでにない広がりを見せています。
しかし、材料や医薬品などの実用的な機能物質の性質は、単一分子の特性だけでは決まりません。分子が集まった「凝集系」では、分子の電子状態は静的なものではなく、周囲の環境との相互作用によって絶えず揺らぎ、その揺らぎにより物性の本質が形作られているからです。
私たちの研究室では、こうした電子状態の「揺らぎ」を捉え自在に制御可能な設計変数として理論化することを目指し、量子化学・分子シミュレーション・機械学習を融合した「第一原理分子シミュレーション」と「電子状態インフォマティクス」を二本柱とした研究を展開しています。国内外の実験グループとの連携により、理論設計から合成・評価まで一貫した研究を展開することで、地球温暖化・エネルギー問題など、様々な、社会課題の解決に資する持続可能な機能材料の具現化に取り組んでいます。
PacifiChem にて、野上田(D1)・元木(D2)・鈴木(D3)・森が発表予定です。
MRM2025にて、後藤(D3)が、電子状態インフォマティクスと実験の連携によるエレクトロクロミック色素材料のフルカラー化実現に関して口頭発表します。(12/8-13)
燃焼化学シンポジウム(横浜)にて、野上田(D1)が、人工力誘起連鎖反応探索法によるグリーン燃料の燃焼過程に関する研究成果を発表します。(11/5-7)
CBI 学会(東京)にて、元木(D2)が、Beyond Born-Oppenheimer 量子化学計算法の創薬関連計算化学応用に関する口頭発表を行います。
化学工学会秋季年会(東京)にて、前田(M2)が電子状態インフォマティクスと転移学習を連携したガス分離膜設計の試みについて紹介致します。(09/16-18)
現在以下のプロジェクトを推進中です
[1] 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
グリーンイノベーション PJ「LNG未利用冷熱を活用した CO2 分離回収技術開発・実証 (2022-2030)
[2] 科学研究費補助金 基盤研究(B)・分担(代表:不破春彦 教授)
「計算化学が先導する複雑大員環天然物の構造決定と全合成の高効率化」(2025-2027)
分子科学討論会(広島)(09/09-12)にて元木(D2)・野上田(D1)・小澤(お茶大 D1)が発表しました。ご質疑・ご討論、有難うございました。
(09/09-12)
D3 後藤さんによる、黄色発色エレクトロクロミック色素の開発に関する成果が、Chem. Commun. 誌に採択されました。電子状態インフォマティクスによる「色と駆動電圧の同時最適化」を施した色素の開発と、これまでの成果を合わせて、色の三原色 CMY を全て実現しました!(09/10)
理論化学討論会(福岡)にて元木(D2)が、重水素キラルスイッチングに関する Beyond Born-Oppenheimer 量子化学計算的検討に関して発表をしました。ご質疑・ご討論、有難うございました。
(07/22-24)
国府台女子学院高等学校にて出張講義を行いました!(7/17)
AI 設計された最小手数の化学実験でどんな社会貢献ができるか、中央大学で一緒に考えることができることを楽しみにしています!
JACI GSCシンポジウム(東京)にて、前田(M2)・小澤(お茶大 D1)がポスター発表を行いました。大学のみならず、多くの企業の方々に、興味を持って頂くことができました。有難うございました!
(07/15-16)
有明ガーデンにて BBQ を行いました(25/05/18)
D1 野上田 光織 さんが、次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)の研究員に採択されました。量子化学と反応速度論を連携して、次世代宇宙燃料・ハイパーゴリックイオン液体の設計・開発に取り組みます。(25/05/7)
アジア環太平洋理論計算化学国際会議(APCTCC11)にて、森教授が電子状態インフォマティクスによる機能性材料設計に関する招待講演を行いました。
Hirotoshi Mori,
Electronic structure informatics for functional materials design: From methodology to experimental validation(25/04/21-25)
2025年度メンバーが配属され、新年度の活動を開始しました!(2025/04/01)
2年間に亘りNEDO-GI プロジェクトに貢献された Amol 博士研究員が母国インドに帰国されました。今後の母国でのご活躍を期待しています!(2025/03/31)
【論文】D1 元木康平さんの研究成果が英国王立化学会の Phys. Chem. Chem. Phys. 誌に受理されました!オープンアクセスですので、一般の方も無料でご覧頂けます。
Electronic insights into the role of nuclear quantum effects in proton transfer reactions of nucleobase pairs [リンク]
K.Motoki & H.Mori, Phys. Chem. Chem. Phys., 2025, 27, 8898–8902.
(2025/03/31)
核酸塩基対における二重プロトン移動は、遺伝子の突然変異(ポイントミューテーション)を引き起こす重要な反応機構の一つとされています。当研究室では、Born-Oppenheimer 近似を超える量子化学計算法 拘束付き核-電子軌道法(cNEO 法; Constrained Nuclear Electronic Orbital)を、自然結合軌道(NBO)解析、非共有相互作用(NCI)解析、さらに反応動力学的検討を組み合わせることで、二重プロトン移動における核の量子効果(NQE)の役割を定量的に解明しました。
古典的な核の取り扱いと比較すると、NQE を考慮することで、シトシン-グアニン塩基対の互変異性体が生成される確率が約 8 倍に増加することが明らかになりました。この顕著な増加は、NQE によって反応部位における軌道間相互作用が強化され、反結合軌道への電子の占有が促進されたことに起因すると考えられます。
本研究は、量子効果が遺伝情報の安定性に与える影響を理論的に明示し、分子レベルでの突然変異の理解に新たな視座を提供するものです。
D3 鈴木里麻さんが、理論化学若手セミナー(第五回)にて「任意溶媒環境中の酸性度予測」に関する研究成果を紹介しました。ご質疑・ご討論、有難うございました。
[リンク](2025/03/17)
【論文】D3 鈴木里麻さんの「任意溶媒環境中の酸性度予測」に関する研究成果が J. Phys. Chem. A 誌に受理されました!成果のイメージが論文誌の表紙に採択されました!
Acidity Prediction in Arbitrary Solvents:
Machine Learning Based on Semiempirical Molecular Orbital Calculation
R.Suzuki & H.Mori,
J. Phys. Chem. A 2025, 129, 10, 2612–2617.
[リンク](2025/03/17)
酸を用いるさまざまな応用においては、溶媒効果の非線形性ゆえに、目的に応じた溶媒選択が極めて重要となります。しかし、分子構造および溶媒を体系的に変化させた上での酸性度(pKa)の測定はほとんど行われておらず、任意の環境下で pKa を予測するための汎用的なプロトコルは存在しませんでした。
本研究では、分極可能連続体モデル(PCM)を用いた量子化学計算と機械学習を統合し、任意の環境下における pKa 予測プロトコルを構築しました。本プロトコルにより、水中の生体関連分子や、有機溶媒中の超強酸候補化合物の酸性度を、比較的少量のデータ学習によって平均絶対誤差 1.1 の高精度で予測することが可能となりました。
本手法は、溶媒和による酸性度の非線形的な低下(圧縮効果)も定量的に取り込むことができ、プロトン解離に伴う電子状態の変化が大きい化合物にも適用可能です。その高い汎用性により、創薬や工学をはじめとする多様な分野における材料設計・分子特性評価への応用が期待されます。
【論文】D3 後藤大輔さんの研究成果が J. Phys. Chem. Lett. 誌に受理されました!
Realizing Ultrafine Color Tuning of Organic Electronics Materials by Electronic State Informatics
D. Goto, Y. Kanebako, K.Takashima, N.Kuroki, & H.Mori,
J. Phys. Chem. Lett. 2025, 16, 9, 2419–2424.
[リンク](2025/02/27)
省エネルギー型スマートウィンドウ、目にやさしいディスプレイ、高透明度の医療用レンズなどを実現する有機エレクトロクロミック(EC)材料は、未来社会を支える重要な技術の一つです。しかし、可視光の三原色のひとつである「純マゼンタ」への透過色変化を示す有機 EC 分子の設計は、従来の量子化学計算や実験手法のみでは極めて困難でした。これは、中性体とラジカル体の双方における複数の電子遷移を最適化する高度な分光設計を要するためです。
本研究では、120万種類のトリフェニルアミン誘導体を対象に、半経験的分子軌道法により得られる電子状態記述子を用いて、無色から純マゼンタへと変化するEC分子の探索に世界で初めて成功しました。この記述子は定性的ながら高速に計算可能であり、大規模な分子スクリーニングを可能にしました。
得られた候補分子について有機合成および分光電気化学実験を行い、実際に期待された機能を有することも実証しました。本成果は、光機能性材料の精密設計に向けた新たな指針を示すものであり、次世代の省エネルギー社会に貢献する基盤技術となることが期待されます。
その他にも、森研究室は多数の材料の設計と具現化に成功しています。過去研究の一環として開発された理論的手法は、オープンソースソフトウェア・公開データベースを経由して世界中の研究者・技術者に利用されています。詳細については研究内容をご参照ください。
中央大学 理工学部 応用化学科
理論化学研究室(森 寛敏 教授)
〒112-8551
東京都文京区春日1-13-27
中央大学後楽園キャンパス 5号館 5132 室
Prof. Dr. Hirotoshi Mori
Theoretical Chemistry Laboratory
Department of Applied Chemistry,
Faculty of Science and Engineering,
Chuo University
1-13-27 Kasuga,
Bunkyo-ku, Tokyo 112-8551
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