中屋敷量貴氏インタビュー
中屋敷量貴氏インタビュー
――中屋敷氏が語る、スタディツアーの意義と日本の課題
サンフランシスコを拠点に、生成系AI技術を活用した知識共有プラットフォーム「Glasp」を運営されている中屋敷さん。AIに特化したアクセラレーターInception Studioの第1期生であり、On DeckやUC Berkeley SkyDeckといった起業プログラムにも参加されてきました。現地でのネットワークや起業経験を積み重ねる中で、日本企業や学生がシリコンバレーに学びに来る意義について、鋭い視点を持たれています。今回は、中央大学ビジネススクールのスタディツアーに関連して、参加者にどのような価値があるのか、また日本社会が直面するイノベーション上の課題について伺いました 。
インタビューではまず、日本人MBAや社会人学生がシリコンバレーに来る意義について語られました。中屋敷さんは「単なる見学ツアーにするべきではありません」と強調されます。GoogleやNVIDIAを訪問するだけでは現地の本質に触れることは難しく、むしろ実際のピッチイベントを見学したり、自ら英語でプレゼンテーションを経験することにこそ価値があるといいます。
一方で、現地で起業を本気で志す人は少数であり、多くは日本企業に戻って新規事業に携わる立場になることも事実です。そのため「日本とシリコンバレーをつなぐインターフェースとなる人材の育成」が大切だと指摘されました。
中屋敷さんは、シリコンバレーに根ざす日本人起業家コミュニティの運営にも関わってこられました。その方針は明確です。「本気で現地で活動する人にしか時間を割かない」ということです。
「以前は『会ってほしい』という依頼に応じていましたが、99%以上が一度帰国するとそのまま就職してしまい、継続的なつながりにはなりませんでした。だから今は、現地で本当に挑戦している人だけを支援するようにしています」と語られます。
この姿勢は、シリコンバレーの厳しい現実を物語ると同時に、挑戦する人材への温かい応援でもあります。
話題は最新のAI動向にも及びました。中屋敷さんは「2025年はAIエージェントの年になる」と語り、Workdayなどの人事システムを例に、これまで人手に頼ってきた細かな業務をAIが肩代わりする未来を描きます。プロシューマー向けの個人利用からB2Bへの展開も進み、AIが業務基盤に深く組み込まれていくと見ています。
最後に、日本のイノベーションに関する課題について伺いました。台湾、韓国、中国、インドと比べて、日本は「頭脳循環(ブレインサーキュレーション)」が進んでいないと指摘されます。背景には司法や規制の参入障壁、既得権益、意思決定構造の硬直性、そして「ぬるま湯的な快適さ」が挑戦意欲を削ぐ文化的要因があるとのことです。
「世界の広さを早く知ることができれば、人生の選択肢はもっと広がります。だからこそ、学生や社会人が現地で刺激を受け、日本に持ち帰ることには大きな意味があります」と中屋敷さんは語られました。