顕微鏡の最重要コンポーネントである対物レンズ.様々な顕微鏡メーカーから実に多くの対物レンズが市販されているが,一体何を基準に選べばいいのか.
ここでは,多光子励起顕微鏡に用途を絞って,対物レンズの選び方にフォーカスする.
顕微鏡の最重要コンポーネントである対物レンズ.様々な顕微鏡メーカーから実に多くの対物レンズが市販されているが,一体何を基準に選べばいいのか.
ここでは,多光子励起顕微鏡に用途を絞って,対物レンズの選び方にフォーカスする.
端的に言えば,対物レンズの「倍率」が重要である.より低倍率であるほど広視野な観察ができる.なぜかというと低倍率であるほど,対物レンズの焦点距離が長く,広範囲に励起光を照射することができるからである.視野は対物レンズの「視野数」を「倍率」で割ったものであり,例えば,10倍から20倍程度の対物レンズを使用すると,おおよそ視野1mm程度をカバーできる.
端的に言えば,対物レンズの「NA」で決まる.より高いNAであるほど空間分解能が高く,細かい構造を分解して識別できる.一般的な多光子励起顕微鏡ではNA=0.5~1程度である.例えば,神経細胞の樹状突起や軸索,その先端部など<1 µmの構造を明瞭に観察したい場合などはNA=1程度あれば安心だろう.一方で,直径10 µm程度の細胞体などの構造が大まかに観察したい場合はNA0.5程度でも大丈夫だろう.
視野と空間分解能のトレードオフを踏まえ,「20倍程度」と「NA0.5以上」を両立させられる対物レンズを選定しておくのがよい.実際,NikonやOlympusの多光子励起顕微鏡用の対物レンズのラインナップもこのようなスペックのものがほとんどである.他の考慮すべき点として,以下が挙げられるので,想定するアプリケーションによって絞り込んで行けばよい.
作動距離(Working distance):対物レンズの先端から焦点までの距離.この距離が短すぎると厚みのある試料を見るときに,表面を削り取らなければならないので作動距離は長いほうがいい.作動距離の長さを売りにした対物レンズも最近開発された.
浸液:対物レンズの先端とカバーガラスあるいはサンプルの間をどのような液体で浸すか.
補正環の有無(カバーガラス厚):浸液やカバーガラスやサンプルの屈折率差に伴う「球面収差」を補正するための機構.高NAの対物レンズを使うときには,球面収差による画質の低下が顕著になるので,可能な限り気にしたほうがよい.