主要な研究分野
主要な研究分野
AUTACs: Cargo-Specific Degraders Using Selective Autophagy, Molecular Cell2019, 76, in press.
オートファジー経路を利用する創薬研究
AUTAC(Autophagy-targeting Chimera) は、S-グアニル化というタンパク質の化学修飾を利用して、細胞が持つ自然な掃除システム「オートファジー」を人工的に制御し、病気の原因となるタンパク質やオルガネラを狙い撃ちで分解する新しいタイプの化合物です。AUTACは、従来の低分子医薬品では標的化が困難だったタンパク質に対して、全く新しいアプローチを可能にします。また、がんや神経変性疾患など、異常なタンパク質の蓄積が原因となる難治性疾患の新たな治療方法として大きな可能性を秘めています。AUTACの特徴は、既存のユビキチン-プロテアソーム系とは異なる分解経路を利用することです。これにより、タンパク質だけでなく、ウイルス、細菌、さらには細胞内小器官まで分解対象にできる可能性があります。当研究室では、このS-グアニル化を起点とするオートファジーの基礎的なメカニズム解明にも取り組んでおり、AUTAC技術の理論的基盤を強化しています。これらの基礎研究と応用研究の両輪により、次世代医薬品開発の革新的なプラットフォームとして大きな注目を集めています。
Elucidation of the Active Conformation of Vancomycin Dimers with Antibacterial Activity against Vancomycin-resistant Bacteria, Chem. Eur. J.
薬剤耐性菌に対抗する新しい抗菌剤の開発
バンコマイシンは、重篤なグラム陽性菌感染症治療の最後の砦として使われる重要な抗生物質です。細菌の細胞壁合成を阻害することで、細菌の増殖を止める働きがあります。しかし、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)をはじめとする耐性菌の出現により、従来の治療法では対処できないケースが世界的に増加しています。これは深刻な公衆衛生上の脅威となっています。当研究室では、この危機に対処するため、バンコマイシンの分子構造を精密に改良した新規誘導体の開発を進めています。これらの化合物は、耐性菌が持つ防御メカニズムを分子レベルで回避できるよう合理的に設計されており、既存薬が効かない耐性菌に対しても有効性を示すことが期待されます。この研究は、将来にわたって感染症治療の選択肢を確保し、持続可能な抗生物質開発に貢献することを目指しています。
線虫を用いた老化・寿命制御メカニズムの解明
線虫Caenorhabditis elegans は、わずか2-3週間という短い寿命や、全身がほぼ透明で観察しやすい構造、遺伝子操作の容易さから、老化研究の理想的なモデル生物として世界中で利用されています。当研究室では、線虫を用いた研究により、オートファジーが寿命延長において中心的な役割を果たすことを明らかにしました。特に重要な発見として、8-ニトロcGMPという化合物がオートファジーの活性化を介して寿命を延ばすことを見出しました。これまでの他の研究においても、カロリー制限(食事量の制限)、特定遺伝子(daf-2など)の機能操作、N-アセチルグルコサミンやスペルミジンなどの化合物投与といった様々な介入方法が、すべてオートファジーの活性化を通じて寿命延長効果を示すことが報告されています。これらの多様なアプローチが共通してオートファジー経路に収束するという発見は、老化プロセスにおけるオートファジーの基盤的な重要性を示しています。特に8-ニトロcGMPの発見は、化学的な介入による寿命制御の新たな可能性を開拓するものであり、複数の手法を組み合わせた包括的な抗老化戦略の開発につながることが期待されます。