Research/研究内容

有限量子多体系の自己組織化現象 

原子核は2種類のフェルミオン(陽子と中性子)が複数集合することで構成されます。多体効果により発現する量子的な運動を支配する原理と、また創発される新秩序を探索していますこのような秩序は、従来の原子核構造の理解を大きくかえる可能性があります。主に以下の3つの核構造研究を推進しています。

Zr同位体の基底状態は球形から突然変形状態になる量子相転移が起こっていると考えられ、注目を集めています。 また、中性子過剰32Mg近傍核でも同じく、突然に基底状態が球形から変形な状態になることが知られていますが、その原因未解明で。 最近の実験研究では、これらの領域では基底状態と異なる形状をした励起状態が準安定的に混在する 変形共存現象が生じていることが分かってきました。この変形共存や、その生成機構を明らかにしていきます。 

原子核内では、2個の核子がスピン・パリティ0+のペアーを組み、超流動状態が実現しています。 このようなペアーを作る相互作用を対相関と呼びます。この対相関の密度依存性を、不安定核で 調べることで、中性子星の内部の記述する方程式の解明に挑んでいます。また、このような相関は、最近発見された2陽子崩壊の機構解明に繋がります。2陽子崩壊はα、β、γ崩壊に次ぐ 第4の放射線として注目されています。陽子崩壊核45Fe、48Ni原子核の質量を、原子核センターで開発した手法で測定します。

原子核に膨大な角運動量を加えていくと、遂には遠心力がまさって核分裂を起こすと考えられます。その様な状態は、 我々が知る核力と、角運動量による力が拮抗する領域であり、したがって、極限状態化での核力を研究することになります。

その様な極限状態として、原子核が大きくラグビーボール型に引き伸ばされて高速回転している、ハイパー変形状態が 1980年代に予想されましたが、まだ発見には至っていません。反応によって例え生成されたとしても、その生成率は ごく小さく、他の状態から分別することができないためと考えられます。そこで、我々は、効率よく回転状態を作るために、半減期31年で、16+という高スピンを持ち回りつづける178m2Hf状態を 人工的に大量に作り、それを標的とすることで、より高速回転状態を選択的に生成し、ハイパー変形状態探索を目指す ことにしました。理研AVFサイクロトロンから供給される大強度4HeビームをYb標的に8時間照射し、178m2Hfを0.01 ng 生成することに成功しました。標的、およびビームタイムを長くすれば、実験に使えるマクロな量になることは確実です。 さらに究極的には、将来には究極の変形状態ともいえるトーラス型(ドーナツ型)原子核の生成を目指します。




核反応ダイナミクス

人類が最初に行った核反応は、低エネルギー中性子の原子核照射でした。低エネルギー中性子反応で主要なチャンネルである中性子捕獲反応の微視的な理解は100年経った今でも確立していません。これら低エネルギー反応は、融合反応や前平衡過程と呼ばれ、非常に長い時間(~10^-19秒)かかると考えられています。この、不確定原理が働く極微の世界での動力学を理解し、学際研究に役立てようとしています。

2019年より、SAKURA Projectを始めました。

 

鉄よりも重い重元素は、r過程とよばれる中性子捕獲とbeta崩壊の連鎖を爆発的に繰り返して、一気にウランまで合成すると考えられています。長年、超新星爆発がその天体であると考えられてきましたが、現在の核データを元に元素合成過程を計算すると、必要な中性子密度がどうしても不足し、さらには、そもそも爆発するエネルギーが核反応より供給されず、元素の起源は長い間謎となっています

重力波による中性子連星合体観測では、それに引き続いたランタノイド系列の吸収スペクトルから重イオン生成が示唆され、長年の謎が解決しそうだということで、俄然盛り上がっています。一方で、中性子連星合体は宇宙初期には起こりえないにもかかわらず、金属欠乏星と呼ばれる初期天体でr過程生成での残留核が観測され、やはり重元素の起源は謎のままであり、核データの重要性が増しています。特に、中性子過剰核の中性子捕獲反応断面積の理論値は、実験データが皆無のため、二桁を超えています。我々は新しい実験手法を開発し、 2019年からr過程が生じた環境を微視的に決定する、中性子過剰核の中性子捕獲反応断面積評価実験プロジェクトを開始しました。 2020-21年の130Snの中性子捕獲反応断面積測定実験を目指し準備を進めています。 

原子力発電などで生じる高レベル放射性廃棄物の処理・処分の問題は、日本のみならず世界的な問題です。 この問題を根本的に解決できる有力な方法として、長寿命放射性核種を短寿命もしくは安定な核種に変換させる方法(核変換)があります。 この技術の確立を目指して、我々は、その基盤を支える核変換反応のデータを取得しています。

核変換で生成される核種は、反応を起こす粒子の種類やエネルギーに大きく依存します。したがって、多種多様な核変換データを取得し、効率的な核変換法を模索する必要があります。 理化学研究所のRIビームファクトリー(RIBF)では、長寿命核種をビームとして生成することができます。 さらに、我々が開発したRIビーム減速・収束装置「OEDO」の導入により、光速の約10%から70%までの幅広いエネルギー領域でビームを制御できるようになりました。 これにより、今後、多種多様な核変換データを取得していく予定です。 2017年には、長寿命核分裂片79Seの中性子捕獲反応評価実験、107Pd, 93Zrの陽子誘起反応断面積を測定しました。