From Picture Award Vol.2

おどろ山のふたり 

著者：翡翠雨下

あらすじ
祖父母の家の裏手にある陰気な山、通称「おどろ山」に足を踏み入れた小学生の霧矢は、不老不死の女に出会った。霧矢は女に心を奪われ、山に通うようになる。 成長した霧矢は女に愛を告げ、女もまた霧矢の愛に応えた。そうして二人はおどろ山で共に過ごすようになったが――。 

選者講評

　一見悲恋のように感じさせますが、再びプロローグを読み返すことで純愛の物語であることがわかる円環構造が取れている作品。5000字以内という短い規定の中で、物語性という点で秀逸な作品でした。

　絵から想起されるテーマという点で、今回は非常に難しいテーマだったと思いますが、この作品を起点に描かれた絵となっても違和感が無く絵の構図に負けることの無い物語に組み上がっていたのも見事でした。

とあるミステリーハウスの裏側

著者：けろこ

あらすじ
都内某所にあるテーマパークに新しくミステリーハウスが出来た。 そこに現れる綺麗な幽霊役が話題であるが――？

選者講評

　ホラーをテーマにした作品がいくつかありましたが、その中でも面白さが二段構造になっていたと感じた作品。前振りにあたる部分のエピソードとしても充分面白いのですが、ラストの台詞でホラーとしての怖さを残しつつ、コミカルさを崩さないという構成が今回、高評価となりました。

満月が照らすもの

著者：三峰キタル

あらすじ
失った記憶。毎晩見る悪夢。 AIが生成したイラストが、すべてを思い出させた。

選者講評

　時間ではなく体験としてのループ物として評価しました。生成AIとのやりとりを通して「非現実」を「現実」に落としていく展開は、とても面白い試みに感じました。まるでビデオテープを題材とした「リング」を彷彿させる、印象的な作品です。

　短編ならではという点で、もっとAIを前面に出し、AIとのやりとりは実はベッドの上で夢を見ていた内容だった、あるいは夢かどうかの現実性が最後まで分からない、自分自身がAIと同化して自分自身に対して必死に画像を映し出すといった、答えが見えない物語となっていたら、より作品としての拡がりがあったと思われます。

きれいだったのに。

著者：はじめアキラ

あらすじ
「あそこの家に誰が住んでるか、確かめてみたくなんね？」 　小学生の僕が、クラスメートの沼津くんに誘われて忍び込んだのは、通学路の途中で見かけるボロボロのお屋敷だった。あの家にまだ人は住んでいるのか、いないのか。興味本位で近づいた僕達は、白いワンピースの女の人が裏庭に消えていくのを目撃して……。

選者講評

ホラー系の作品としては一番怖さを感じた作品。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というのは現実でもある話なのですが、その現実の向こうにある「リアル」としての恐怖がまっすぐに伝わってきました。話の展開自体は決して目新しくはないのですが、タイトル、本文、イラストとの組み合わせにより、美しさ、儚さ、醜さ、恐怖といった様々な感情が想起できました。