職業奉仕とは

(2014 年 5 月 1 日 初稿、2020 年 4 月 25 日 最終改訂 文責:鈴木一作)

現在の「職業奉仕」の公式定義

 職業奉仕の歴史を概観していく前に、先ず現在の「職業奉仕」の定義を明確にしておきたいと思います。それは、下記の標準ロータリークラブ定款「第6条の2」(2019年)です。

<2019 年 標準ロータリークラブ定款(Standard Rotary Club Constitution)>

第6条 五大奉仕部門

2.奉仕の第二部門である職業奉仕は、事業および専門職務の道徳的水準を高め、品位ある業務はすべて尊重されるべきであるという認識を深め、あらゆる職業に携わる中で奉仕の理念を実践していくという目的を持つものである。会員の役割には、ロータリーの理念に従って自分自身を律し、事業を行うこと、そして自己の職業上の手腕を社会の問題やニーズに役立てるために、クラブが開発したプロジェクトに応えることが含まれる。


 但し、「こんなものは、職業奉仕ではない」と主張する先輩ロータリアンも少なからずいます。しかし、「標準ロータリークラブ定款」の記載である以上、ロータリアンもロータリークラブも受け入れざるを得ないのです。受け入れられないのなら、ロータリアンを辞めなければなりません。もちろん、標準ロータリークラブ定款を規定審議会で変更することは可能です。しかし、少なくとも変更されるまでは、尊重遵守しなくてはならないのです。

職業奉仕の歴史

 職業奉仕の森について語る前に、 ロータリーにおける職業奉仕の歴史 について概観しておきましょう。 右の表は、ロータリーの職業奉仕 を理解する上で、重要な項目だけを 挙げたつもりです。これから職業 奉仕を学ぶ人には、ぜひ参考にして いただければと思います。 職業奉仕を考える上で留意して 欲しいのは、誰もが「道徳律(職業 倫理訓)」や「決議 23-34」などの 大きなトピックに目がいきますが、 実は、①1910 年から 1912 年の 間に起きたこと、②1927 年の四大 奉仕の分割、そして③1987 年から 最近までの流れが重要なのです。

ロータリーとは?

 2017~18 年度のRI会長イアン・ライズリー氏は、「ロータリーとは?」を自らの心に問いかけるようにという要望を、世界中のロータリアンに出しました。そして、それに対する回答を「ロータリーは、何をしているか」で考えて欲しいと述べたのです。それは、自らのロータリー観を省みることによって、明日からのロータリアンとしての活動を意義あるものにして欲しいという想いからでしょう。 

では、「ロータリーとは?」、そして「ロータリーは、何をしているか?」を考えてみましょう。もちろん、100 人いれば 100 通りの回答があるでしょう。それでも、多少は表現が異なるかも知れませんが、日本のロータリアンなら誰もが共感してくれる回答は、下記のようなものではないでしょうか。

<ロータリーとは?>

  1. ロータリアン同士の親睦を基盤に

  2. 立派なロータリアンを育てながら、

  3. 価値ある奉仕を通じて、社会に貢献する世界的な団体である。

「価値ある奉仕」の中で、最も重要なもの“職業奉仕”である

 「価値ある奉仕」のうち、最も重要な奉仕とは何でしょう。もちろん、それは 職業奉仕です。なぜなら、我々ロータリアンの一日の活動のうち、その大部分は「仕事」に従事 している時間だからです。すなわち、仕事を通じて社会に奉仕(貢献)する「職業奉仕」の時間 こそ、我々ロータリアンの生活の大部分だということです。しかも、それによって、家族や職員、 関連業者なども含めて、生活の糧を得ているのです。

もちろん、ロータリアンである以上、充実した職業奉仕をしなければなりません。しかも、職業奉仕が充実していなければ、利益どころか事業の継続さえ困難になってしまいます。そうなれば、職業奉仕以外の「価値ある奉仕」に携わることさえ困難です。だからこそ、職業奉仕は我々ロータリアンにとって最も重要な「価値ある奉仕」なのです。

職業奉仕は難しい?

 「職業奉仕は難しい」という言葉をよく耳にします。なぜでしょう? 理由は色々あるとは思いますが、大きな理由の一つは、ロータリーの大先輩達による職業奉仕の説明が、人によってかなり異なるからではないでしょうか?

 ある大先輩は、職業奉仕は「シェルドンの考えそのものだ」と言います。また、「職業倫理そのものだ」と言う人、「ロータリーの目的の第2が全てだ」と言う人もいます。さらには、「道徳律(職業倫理訓)」や「大連宣言」を説く人、「四つのテスト」を説く人もいます。ところが、前述したように、現在の職業奉仕の公式定義は「標準ロータリークラブ定款 第6条の2(2019 年)」なのです。これでは、聞いている方が混乱するのも当然です。

 これらに共通する特徴は、「職業奉仕は一本の大木」であるかのような説明でしょう。

なお、四つのテストは、1943 年、国際ロータリー理事会が「職業奉仕プログラムの一つの構成要素とする

The R.I. Board in January 1943 made The Four-Way Test a component of the Vocational Service program.

と決めたものであり、あくまで職業奉仕の良いプログラムの1つ(に過ぎない)であることに留意してください。

職業奉仕は「森」である

 私は、ロータリーの歴史をそれなりに広く深く学んできて、「職業奉仕は一本の大木ではない」と思うようになりました。むしろ、「職業奉仕は森である」と考えています。

 森は、高い所、低い所、陽のあたる所、陽があたりにくい所など、各々の場所で生えている木々は違いますし、また互いに影響し合って生えています。しかし、それら全体で森なのです。ですから、例えば高い所に生えている木だけを説明しても、その森の全てを語ったことにはなりません。それと同様に、「職業奉仕に対する考え方は、歴史上、間違いなく幾つもある。すなわち、職業奉仕という森には、異なる様々な木々が生い茂り、互いに影響し合って育っている。だから、それらの木々全部を対象にして、はじめて職業奉仕が理解できるようになる」と、私は思うのです。

「職業奉仕の森」の概要

 それでは「職業奉仕の森」 にはどのような木々が生い茂っているの でしょう? 私は図に示したように、職業奉仕の森は、 大きく分けると6つの木々群(そのうちの3つ は Arthur Frederick Sheldon の奉仕理論) からできていると思います。そして、最初に 生えてきた木々が「職業倫理」です。