DAS06_1Iwata_j

デバイスアートCRESTシンポジウム

オーバービュー「デバイスアートにおける表現系科学技術の創成」研究:岩田洋夫

2007年5月18日@秋葉原UDX4F:アキバ3Dシアター

1.1■岩田洋夫:プレゼンテーション

岩田:科学技術振興機構のCRESTプロジェクトの中で、私たちは「デバイスアートにおける表現系科学技術の創成」というテーマで研究を進めておりまして、代表が私、筑波大学の岩田でございます。

1.1●デバイスアートとは

まずはこの「デバイスアート」という言葉について、簡単に説明いたします。これを定義するならば、「メカトロ技術や素材技術を駆使して、テクノロジーを見える形でアートにしていく、一種のメディアアート作品」と言えると思いますが、さらにこれには大きく3つの特徴があります。

1番目は「デバイス自体がコンテンツである」ということ。普通はツールがあって、そのうえでコンテンツを作るのが一般的なのですが、デバイスアートの場合、そのデバイス自体がコンテンツでもあるという特徴があります。さらに2番目の特徴として「作品がプレイフル=非常に楽しめる」ということ。だから「積極的に商品化が行なわれる」という特徴もあります。そして3番目の特徴が「道具への美意識といったような、日本古来の文化との関連性が強い」という点です。

では、このデバイスアートという概念をどうやって導き出したかと言いますと……実はこのCRESTプロジェクトの申請があった時、エイヤっと私がつけた名前なのですが、その背景には、日本のインタラクティブ・アート作品が世界的に非常に高い評価を集めているという事実があります。例えば《SIGGRAPH》とか《Ars Electronica》のように、世界中のインタラクティブ作品が集まる場において、近年必ずといっていいほど日本人の作品が大活躍しています。で、その特徴を整理すると、だいたいこの3つに集約されるのではないか、というふうに導き出したわけです。また、これらの特徴は、いずれも従来の西洋の芸術には見られなかったということで、世界的にも注目されつつあるわけです。

1.2●CRESTプロジェクトのめざすもの

そして、このプロジェクトのめざすところは……これは平成17年度の後半からスタートして、平成22年度までの約5年をかけてやっていくわけですが、今のところ2つの達成目標を設定し、掲げております。まず第1の達成目標は「デバイスアートにおける技術体系を明らかにする」ということ。そして2番目は「デバイスアートの制作・評価の方法論を構築する」ということ。

これらの目標の“狙い”としては、従来から様々な優れたデバイスアート作品があったわけですが、このままでは散発的な発表で終わってしまう怖れがある。だから、この動きを世の中にしっかり根づかせようと考え、そのために必要な基盤技術とは何なのかを考えていくのが、このデバイスアート・プロジェクトなのです。

1.3●研究項目とチームメンバー

こういった目標をめざしたチームメンバーを構成しています。より具体的な研究項目として、大きく3つの設定があります。まずは「先端的インタラクティブガジェットの開発によるデバイスアートの高度化」ということで、新しい高度な作品をどんどん作って技術的なレベルを上げていこうというのが、第1の目標。

2番目、これが基盤技術と大いに関係するのですが、「デバイスアートにおける機能モジュールの開発」というテーマがあります。これは作品の根底をなす技術をモジュール化して、再利用可能な形にすることで、生産性や信頼性を向上させようという狙いがありまして、そうした「機能モジュールを作る」ことが、当プロジェクトのひとつの重要なポイントになっています。さらにデバイスアートの特徴として「積極的に商品化する」という点があることは、先ほどもお話ししました。だからそれもプロジェクトの中に取り入れていて、製品化のためのプロトタイプを作っていくことも目標にしています。

そして3番目には「デバイスアートの客観的評価手法と制作のための方法論の構築」という目標を挙げています。これは鑑賞者の側を見て観察するのみならず、色々なセンサーを用いて生体計測を行ない、鑑賞者の反応や行動をも分析しようという研究テーマがひとつ。それからデバイスアートという概念自体の調査研究も併せて進めております。

こういった研究項目を担当してもらうチームメンバーとして、工学と芸術にまたがる素養をもった研究者でチームを編成しています。アーティストもいれば、大学の研究者もいて……バックグラウンドはそれぞれですが、様々な人がこの3つの研究項目に相互に関わる形で進めています。

電通大の稲見昌彦先生、同じく電通大の児玉幸子先生、そして明和電機の土佐信道さんには、主に[研究項目1]を担当してもらっています。ちなみに土佐さんは、作品の製品化も同時に進めております。

それから、アーティストのクワクボリョウタさんは「アーティストのための基盤技術の研究開発」という活動をずうっと前からやっておられて、このプロジェクトでも『Pri/Pro』と呼ばれる機能モジュールの開発を進めています。あと、筑波大の矢野博明先生……彼は私のパートナーですけれども、機能モジュールの開発と、鑑賞者の生体計測の面で色々と頑張ってもらっています。それから「ペットワークス」の八谷和彦さん。彼はもちろん色々な作品を作っていますが、同時に当プロジェクトの中で、製品化を前提としたプロトタイプの開発をも進めてもらっていますので、後でまたその話題が出てくると思います。それから大阪大学の前田太郎先生……前庭刺激の方で色々な発想をされている方ですが、先端的インタラクティブガジェットと、それから生体計測の面で参加してもらっています。そして、特に[研究項目3]の調査研究に関しては、早稲田大学の草原真知子先生を中心に研究を進めていただいています。ですから今日はこの順番で、後で1人1人にプレゼンテーションをお願いする予定です。

1.4●ガジェットリウム

当プロジェクトの最終的なアウトプットとして、こうしたデバイスアートの基盤技術を活かしたフレームワークを作ることを目標にしています。私が今、考えていますのは(「ガジェットリウム」という名前をつけたのですが)研究室と展示室とベンチャービジネスを有機的に結合させたフレームワークです。つまり、研究したものを展示して、展示によって一般体験者のフィードバックを得て、どんどんブラッシュアップをして、それを機能モジュール化して、一般化する。なおかつ、作品や機能モジュールの製品化もどんどん進めていく。そういう形で、最終的にはこの3つが有機的に結合したフレームワークを作ることをめざしています。

それでは、皆さんのプレゼンテーションに移ります。最初は稲見先生、よろしくお願いします。

次の講演へ