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2004 [8th] Japan Media Arts Festival Device Art Symposium "How We Create Media Art Works"

Presentation

by Novmichi Tosa (Maywa Denki)

平成16年度(第8回)文化庁メディア芸術祭

デバイスアートシンポジウム「メディアアートはこう作る!」

プレゼンテーション:土佐信道(明和電機)

2005年3月3日@東京都写真美術館

2.4■土佐信道(明和電機):プレゼンテーション

土佐:はい、明和電機社長の土佐信道です……が、今日は後輩というか、筑波関係の皆さん、昔をよく知っている方の前でやるので、なんで自分だけ、こんなコスプレをしているのだろう、と。まるで結婚式に呼ばれて、頑張ってタキシードを着て行ったら、実はカジュアルパーティだった、みたいな気分で、非常に気恥ずかしいのですが(笑)、明和電機として発表したいと思います。

明和電機には今3つのシリーズがありまして、「魚器」シリーズ、「ツクバ」シリーズ、そして「エーデルワイス」シリーズという3つのシリーズをやっています【図1】

。共通するのは、全て「道具」です。人間が使う道具というものをモチーフにして、魚のシリーズと馬鹿馬鹿しい楽器のシリーズ、それから花のシリーズの3つをやっているわけです。

この中で「魚器」シリーズ【図2】という魚のシリーズのことを、まず最初にお話しします。このシリーズは全部で26製品あります。そもそも筑波に住んでいた学生の時、あまりにも暇で、電話ボックスに爆竹を投げて遊んでいたぐらい暇だったのですが、その暇な時に「自分とは何だろう?」ということを考え始めたのです。これは非常に大変な問題で、「脳みそが脳みそを考えて理解できたら、そんな簡単な脳みそで脳みそが分解できるわけがない!」というパラドックスになる。非常に困りまして、ふと思ったのが「自分を魚に置き換えてみよう」と。そこで魚について色々と考えたことを、言葉とかではなくて、手に取れる道具にしていこうと思ったわけです。それで作り始めたのが、この「魚器」シリーズです。 なぜ道具にしたのかと、今思うと、先ほど茶道の茶器が出てきましたが、最初にお話ししたように「道具を使って自分の道を考える」のが日本人は得意だということに後で気がついて……魚(さかな)のことを「魚(な)」と言いますが、いわば「魚道(などう)」ですかね? それをやっていたんだなぁ……と、今になって思いました。

この「魚器」シリーズとはどういうものかというと、一番有名なのが、この魚の形をしたコードの『魚(な)コード』【図3】【図4】です。頭がメスプラグ、尻尾がオスプラグになった、非常に邪魔な電源延長コードですが、これも「魚器」シリーズのひとつです。この「魚器」シリーズとは、そもそもアートとして作りましたから、原則的には一点ものですが、この『魚コード』はそうではなくて、オモチャとして売られています。今画面上にピラミッドの図が映っていますが、明和電機では最初はアートを作るわけですが、最後にはそれをどんどんオモチャに、こういうプロダクツにして、大量生産していくわけです【図5】。『魚コード』は合計5万本ぐらい売れましたから、繋げると富士山よりも高くなる。非常に邪魔なのに……。そういうものを作っています。ほか、『魚コード』タイプの携帯ストラップを作ったりもしました【図6】。

これは『ガチャコン』【図7】・【図8】というテレビのリモコンです。昔懐かしの回転チャンネル式のテレビ・リモコンで、ここを引っ張ると電源スイッチが入って、テレビのボリュームが変わり、ここを回すとチャンネルが変わるという仕組みです。

それから、今僕もしておりますが、これは『ジホッチ』【図9】という腕時計です……が、時間を知りたい時に「117」を回して、いちいち時報を聞くという時計です。ちょっとやってみます(「117」を回す)。「午後6時17分30秒をお知らせします……」。こうやって聞かないといけないので、人前でやると非常に恥ずかしい(笑)。ちなみに他にも色々なモードがありまして、「110」で警察。あと「0」でモーニングコールもかかります。「(録音音声で)モーニングコールを設定します。ご希望の時刻を4桁で設定してください」。これはホテルのモーニングコール予約といっしょですね。で、12時に起きたかったら「1、2、0、0」と回すというわけです。

なぜこのような『ガチャコン』とか『ジホッチ』を作ったかといいますと、今は回転チャンネルというものがテレビからなくなって、全部ボタン式になってしまった。電話器も、こういうダイアル式がなくなって、全部プッシュ式になってしまった。こういった可愛いインターフェイスがなくなってしまうのはいかがなものかと思いまして、それらを懐かしむ意味で作ってみました。

他にも、これはクワクボ君と共同で作った『Bitman』【図10】です。さっきクワクボ君が説明しなかった、文字入力モードを、ちょっとやってみましょう。この『Bitman』、32の文字を入力して表示することができるのですが、キーボードなどは付いていないので、どうやって文字を入力するかといいますと……これが文字入力モードで、本体を傾けると表示される文字がスクロールして、(傾きを戻して)止めて、[Enter]を指定する。で、こうやると小文字変換ですね。これはクワクボ君と色々なアイディアを侃々諤々しながら形にしたもので、文字入力をどうするかという部分でも、面白いデバイスができたと思いました。

また明和電機は色々と個性的な楽器も作ってきましたので、その楽器を作る過程で得たノウハウを、オモチャに落とし込んだのが、この『ノックマン・ファミリー』です【図11】

。それぞれ一個ずつが、ひとつの音を出します。出し方もそれぞれ変わっていて面白いのですが、例えばこの『ノックマン』は頭を叩きます。イギリスのMTVが勝手に『ノックマン』を使って番組のジングルを作って「どうだ!」って送ってきたものがあるので(笑)、それを観てみたいと思います【MTV Jingle movie - Knock Man -】。次の『チャチャ』、これはシンバルですね【MTV Jingle movie - Cha Cha -】。じゃあ最後に『コロン』、これはギターですね。赤ちゃんをあやすガラガラを使ったオモチャです【MTV Jingle movie - Colon -】

この『ノックマン・ファミリー』を作っていて思ったのは、すごくシンプルに作りたいということです。楽器の動きとキャラクターがいっしょになっている。それで思ったのが、生きているのか死んでいるのか分からない、この無表情な顔は「ハニワ」だなぁ、って思いました。あと、部屋の中に置くと非常に可愛いのです。昔で言う「こけし」のポジションにぴったりとはまる。だから意外と(この『魚コード』もそうですけれど)いわば「置物」ですので、明和電機のやっていることは、割と目新しいことではなくて、例えば工芸とか民芸とか、そういうものをポップにやっているのかもしれないな、と思いました。

なぜ、楽器を作るのが面白いかというと、やっぱり人間が触る道具だからでしょう。最近凝っているのが人工声帯。これに非常にハマっていまして、ちょっと出してみましょう(作品を舞台中央に出す)。この方、『セーモンズ』【図12】と言うのですが、ここのところにゴムでできた声帯があります。人間はここに2枚の声帯という器官があって、そこに空気を送って襞を動かして音を出しているのですが、それをゴムで作りまして、空気をふいごで送ると、それが鳴る。あと、ここにネックレスのようなものがありますが、これが首を絞める装置で、それを

使って声帯を引っ張って音程を変えるわけですが、この楽器の特徴で一番面白いのは、しくみがそもそも「音痴」だ、ということです。

楽器というのは「ド」を弾いたら、必ず「ド」の音が出るようにできた装置なのですが、この楽器は音を出すまで自分が何の音を出すか分からない。だからここに耳(マイク)が付いていて、音を出した瞬間、自分が何の音を出したかすぐ判定するわけです。で、「ド」の音を出したかったのに「ミ」の音が出てしまったら、すぐに直すというような制御をしています。

それではこの方といっしょに演奏をして、本日のプレゼンテーションのシメとさせていただきます。僕は普通の楽器で伴奏します。児玉さん、このスタートボタンを押してもらってもいいですか?(笑)「はい!」と言ったら、押してもらえると……これで「ポチっとな」と押すと、スタートしますので。僕はそのクリック音を聞くわけです(『セーモンズ』と土佐氏で合奏【図13】)。

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