講義情報

三者共通講義

QCDがもたらす多様な世界

初田 哲男 氏(理化学研究所 仁科加速器研究センター) 講義スライドはこちら

物質世界の基本構成要素であるクォークとグルーオンがもたらす様々な状態(ハドロン、原子核、クォーク・グルーオン・プラズマ、カラー超伝導など)、およびそれらが実現する舞台(加速器実験、宇宙初期、高密度天体など)を、近年の理論・実験・観測に基づいて概観する。カバーするテーマとしては、

1.標準理論とQCD

2.QCDの摂動的および非摂動的側面

3.QCDに基づくハドロン構造とハドロン間相互作用

4.高温高密度におけるQCDの諸相

5.重イオン衝突実験とクォーク・グルーオン・プラズマ

6.中性子星の観測とクォークマター

素粒子論パート

[場の理論]

格子QCDシミュレーション入門 -- パソコンの上で格子場を楽しむことを目標に

中村 純 氏(広島大学 情報メディア教育研究センター)

数値シミュレーションについて経験は無いが、場の量子論の基礎は学んだという人を対象に、格子ゲージ理論について解説する。

以下の内容を予定している:

1) モンテカルロシミュレーション

2) 1次元量子力学のシミュレーション

3) 格子場の作用

4) 格子上のゲージ変換

5) Lattice Tool Kitの使い方

[現象論]

階層性問題と標準模型を超える物理

林 青司 氏(東京女子大学)

素粒子の標準模型は非常な成功を収めた理論ではあるが、 ヒッグスのセクターには理論的に解決出来ていない、いくつかの 重要で基本的な問題点が存在する。特に階層性問題は、その解決の試みから 「標準模型を超える物理」の代表的シナリオが誕生して来たという意味でも重要なものである。この講義では、標準模型を超える理論の代表的なシナリオを解説 する。また、対称性に基づいて階層性問題を解決しようとする一見異なるシナリオの間に、実は緊密な関係が存在する事も議論したい。

[弦理論]

行列模型による超弦理論の非摂動的定式化

土屋 麻人 氏(静岡大学)

この講義では、まず非臨界次元の弦理論が確か に行列模型によって非摂動的に定義されることを見る。特に、そこでのDブレーンの効果の見え方や時空の出現について説明する。さらに、行列模型における時 空の出現の例として、ラージN還元や行列模型におけるコンパクト化や行列模型と非可換空間上の場の理論の対応などを解説する。次に、超弦理論の非摂動的定 式化を与えると考えられている行列模型を導入し、超弦理論との対応を解説する。最後に、この行列模型における3+1次元の膨張宇宙の出現についての最近の 結果を説明する。

原子核パート

高エネルギー原子核衝突を用いた極限状態の実験的探究

志垣 賢太 氏(広島大学)

宇宙は開闢直後に膨張冷却に伴い様々な対称性を自発的に破りながら現在の物 質状態に辿り着いた。この歴史を実験的に遡って、対称性が存在した極初期宇 宙状態を再現し、上記のシナリオを実証(あるいは反証)可能だろうか。その おそらく唯一の現実的可能性が、高エネルギー原子核衝突を用いたクォーク・ グルーオン非閉込相の実験研究にある。

2000 年稼働の米国 RHIC 加速器にお ける成功と 2009 年稼働の CERN LHC 加速器における初期成果を踏まえ、カイ ラル対称性回復現象探索、高温非閉込クォーク挙動、超高強度磁場生成など、 幾つかの話題に焦点を当て技術的側面を含めて議論したい。

有限温度・有限密度QCD入門

北澤 正清 氏(大阪大学)

QCDが記述する物質は、超高温・超高密等の極限的な環境下において、幾種類もの相転移をはじめとした多様な物性現象を持つことが予想されています。こ れらQCDの物性的性質は、理論的な研究の成果に加え、相対論的重イオン衝突実験や、格子QCD数値シミュレーションによる数値実験の進展に伴い、 近年急速に理解が進んできました。

本講義では、まずQCDや有限温度場の理論等の基本概念を解説したうえで、 QCD物性に関する理解の現状を、リアル及びバーチャルな実験の現状や、 冷却原子系等物性物理との関連などに注目しながら概観します。

中性子魔法数の破れと変形共存現象

木村 真明 氏(北海道大学)

地上には安定に存在しない不安定核の研究が進展し、 それらが持つ驚くべき性質が明らかになりつつあります。 講義の前半では、こうした実験から得られる様々な観測量から、不安定核がもつ特異な構造に関してどのような知見が得られるのか、またそれらは理論模型によってどのように求められるのかについて、初歩的な内容から説明を行います。

また、後半では中性子魔法数の破れと変形共存現象に注目し、 現在得られている実験情報と理論研究の結果から、どのような不安定核の構造が浮かび上がってくるのか、その現状と将来の展望に関して解説します。

高エネルギーパート

大型二重ベータ崩壊観測実験の近況

古賀 真之 氏(東北大学ニュートリノ科学研究センター(RCNS))

Ge-76やXe-136といった特定の原子核においては、エネルギー準位の都合上ベータ崩壊が禁止される為、稀な確率で二重ベータ崩壊が起こることにな る。ニュートリノがマヨナラ粒子であるならば、二重ベータ崩壊で生じた2つのニュートリノが対消滅する可能性があるため、1960年代からニュートリノの マヨナラ性を検証する実験としてニュートリノの放出を伴わない二重ベータ崩壊の探索が行われてきた。本講義では、Xe-136を用いたカムランド禅実験 等、国内外の二重ベータ崩壊観測実験について説明する。

国際リニアコライダー計画 ~目指す物理、計画概要と現状~

山下 了 氏(東京大学素粒子物理国際研究センター(ICEPP))

国際リニアコライダー計画(International Linear Collider: ILC)は世界が協力して技術開発と計画推進を進めてきた電子と陽電子のエネルギーフロンティア実験です。ヒッグス粒子あるいはその性質を帯びた新粒子が 陽子コライダーLHCで発見され、いよいよ素粒子物理の新しい時代が始まりました。ILCがヒッグスファクトリー、トップクォークファクトリー、ダークマ ターを始めとする新粒子・新現象探索で目指す物理と、そのための装置(加速器・測定器)、計画の概要を、 その実現を目指す国内外の状況を交えながらお話いたします。