ドル売り円買い介入は実現するかも!
米国債に連れ安の日本円には、むしろ中規模以下の為替介入が効果高い
2022年4月25日(月)アナリスト工房
先週21日ワシントンDCで開催された日米財相会談では、過度の円安状態を懸念する鈴木財務大臣が、ドル売り円買いの協調介入をイエレン財務長官に打診した。米連銀FRBがすでに量的緩和を終え引き締めでのドル防衛に転じるなか、前FRB議長のイエレン氏は米連銀勢のドル売りを伴う為替介入にはもちろん否定的。
とはいえ、日本円急落の根本的原因が「米国債利回り連動型のドル円相場(図表*)」にあるなか、アメリカは米国債保有高が海外首位の日本と市場で従来どおり緊密に連携を続けることを合意するしかなかったのが実情(As Yen Craters, Japan Begs US For "Coordinated Currency Intervention", Is Rejected By Yellen、為替問題で日米「連携」、従来のコミットメント確認-財務相会談)。
NY市場終値に基づき作成
1998年6月以来のドル売り円買いの為替介入がまもなく実現する場合には、アメリカの容認(あるいは暗黙の了解)のもと日本の単独介入が想定される。前世紀の協調介入では米連銀勢の介入規模が乏しく付き合い程度だったことから、今世紀も日本の単独介入で規模的には十分のはずだ。
日本の通貨当局(財務省と日銀)のドル売り円買い介入では、為替市場で売る米ドル資金は外貨準備の米国債などを売却してまかなう。もしも1000億ドルを超える特大規模の介入が実施された場合には、米10年債利回りとドル円がほぼ完全連動状態(上図)のなか、米国債のさらなる価格急落(利回り急上昇)とともに円安がいっそう加速する危険が高い。介入が実施されるときは、その規模は300〜600億ドル程度の中規模以下と予想される。
▼アナウンスメント効果発揮のために、日銀マンネリ緩和を終える大きな意義
2008年12月から量的緩和をずっと続けてきた日本のドル売り円買い介入が中規模以下で十分な理由は、介入実施に先立ち、長年にわたる円安要因だった緩和策を終えなければならない状況がつくられるからだ。
日本の為替介入は財務省が決定し、その指示のもとで日銀が市場業務を実施する。為替レートの過度の変動に歯止めを掛け経済への悪影響を防ぐ通貨当局の意志が為替売買の行動とともに市場へしっかり伝わると、大多数の市場参加者たちはひとまず当局の意志に反する売買を中断し、過度の為替変動が是正されてゆくケースが多い。このように通貨当局の意志が市場参加者を動かし為替を是正する”アナウンスメント効果”がしっかり発揮されることが大切。
そのために介入の市場業務を担う日銀の正反対な円安促進策については、足元の指し値オペ(日本国債10年物の利回りに0.25%の上限設定)を直ちに終えるとともに、マンネリ量的緩和終了への道筋を明確に示す必要がある(例えば、量的緩和は段階的縮小のうえ8月末終了へ)。
日本がドル売り円買い介入に踏み切ることは、主要先進国の引き締めラッシュのなか意義をすっかり失ったまま継続中のマンネリ緩和をきっぱり終える良いきっかけであり、日本単独の中規模以下の介入でも大きな為替是正効果を発揮できるでしょう。
アナリスト工房 2022年4月25日(月)記事
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*)米10年債利回りとドル円は、R2乗値(相関係数の2乗)が極めて高水準であることから、相場連動性が非常に高い。その理由は、投資対象の米債の利回り変化に基づく価格変化に応じて、日本の機関投資家たちが為替ヘッジの金額を次のとおり増減させていくことによる。
・米国債が利回り低下(価格上昇)したときは、ヘッジのドル売りが増え円高へ
・米国債が利回り上昇(価格下落) したときは、ドルが一部買い戻され円安へ
→円高時のドル売りと円安時のドル買いが、為替差損を積む自虐的仕組み
このように投資家にとって自虐的な仕組み(米国債利回り連動型のドル円相場)による利回りマイナスの被害続出は、大量のジャパンマネーを海外へ導いた日銀マンネリ緩和の典型的な副作用だ。