2. 活性酸素による遺伝子損傷と老化の促進 ー生体老化の理解をめざしてー
活性酸素による老化の促進と遺伝子損傷
ー生体老化の理解をめざしてー
研究の背景
ミトコンドリアの電子伝達系から漏れ出た電子等から、細胞内の酸素分子が高い酸化能を持った物質(活性酸素)に変化します。この活性酸素が種々の病気や老化の原因になると考えられています。農薬や医薬品、食品添加物の中にも活性酸素の産生に深く関与している物質があります。一方、活性酸素が生体にどのような影響を与えているのかについては、培養細胞を使った研究例も多く、個体レベルの詳しい研究が望まれています。
研究の目的
そこで解析が容易なショウジョウバエを用いて、活性酸素が脳神経系あるいは筋肉に蓄積した場合に、個体の寿命、行動、神経細胞、筋肉細胞にどのような影響を及ぼすのかを明らかにしようとしています。また活性酸素が細胞内のゲノムDNAにも損傷を与えることを明らかにします。
研究の結果
■生体内には活性酸素を除去する酵素(SOD1,SOD2, Catalase等)が存在します。そこでそれらの酵素の発現を組織、細胞特異的に阻害する(ノックダウン)実験をしました。
■活性酸素を検出する蛍光物質を用いると、実際に組織特異的な蓄積が検出できました。
■活性酸素除去酵素を作る遺伝子を全身の細胞あるいは神経細胞特異的にノックダウンしても、寿命の短縮、行動量の顕著な低下が認められました。
■上記の除去酵素をノックダウンすると、脳内の特定の神経細胞が減少することがわかりました。
■筋肉特異的にノックダウンした結果、筋肉細胞内にも変化が表れました。この変化を免疫染色法、電子顕微鏡で解析しています。
■遺伝子が損傷するとp53が活性化します。p53が活性化すると蛍光を発するショウジョウバエの系統があります。これを用いて活性酸素の蓄積によってもDNA損傷が促進されるか検討しています。
研究の応用
■老化マウスの脳内にも活性酸素の蓄積、同じ種類の神経細胞の減少が認められるか検討すれば、老化メカニズムの理解につながります。
■老化マウスの筋肉内にも活性酸素の蓄積、同じような生化学的変化が認められるか検討すれば、老化メカニズムの理解に役立ちます。
■活性酸素除去酵素のノックダウンショウジョウバエは早期に老化するので、これらは酸化ストレス物質あるいは抗老化物質の探索に応用できます。
将来展望
■脳内で活性酸素にとくに感受性が高い神経細胞がわかれば、その知見は痴呆症の臨床にも役立ちます。
■ゲノムが酸化損傷を受けたことはどのように検知され、細胞内に伝達され、損傷が修復されるのかを明らかにすることができます。それらの知見は老化予防に役立つ基礎データになります。