1. 細胞増殖に関する分子細胞発生生物学的研究 ー細胞がん化、ダウン症の理解をめざしてー

細胞分裂に関する分子細胞生物学的研究

―細胞がん化の理解をめざしてー

研究の背景

細胞が増殖する際に、ゲノムを運ぶ染色体は正確に均等分配されます。これに対して癌細胞は悪性なものほど分裂のたびに染色体数が変化する傾向があります。細胞分裂を制御する遺伝子の中から、細胞癌化の鍵を握る遺伝子が発見されています。したがって新規の細胞分裂遺伝子の同定、それらの機能の解明は、発がんの理解に不可欠です。

研究の目的

細胞分裂の制御遺伝子は、生物種間で保存されています。そこで遺伝子の操作が容易な昆虫(ショウジョウバエ)をモデルに、新たな分裂制御遺伝子の同定と機能の解析をおこなっています。このため、染色体、微小管、細胞膜、核膜成分、ミトコンドリアやゴルジ体などのオルガネラの動態を生きた細胞中で同時にモニターできるマルチカラーイメージング法を構築します。次にその方法を用いて、分裂期において上記の細胞内構造が異常となる突然変異体を分離します。さらに突然変異をおこした原因遺伝子の同定、それらが作るタンパク質の細胞内局在、生化学的機能の解析をおこないます。最後にヒト相同遺伝子の同定、発がんとの関連調査につなげます。

研究の結果

■ショウジョウバエの雄減数分裂細胞はサイズが大きく、観察しやすい。そこで、この分裂過程をライブ観察可能な実験系を構築しました。

■染色体、微小管、核膜、細胞膜、ミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体の構成タンパク質に、蛍光タグGFP、RFP、CFP、YFPをそれぞれ付与したタンパク質を減数分裂細胞で同時発現させしました。

■すると、各細胞内構造が緑、赤、青、黄色の蛍光を発します。蛍光をタイムラプス観察することにより、減数分裂期を通して細胞内構造の動態を観察できます。

■減数分裂細胞特異的に遺伝子をノックダウンできる実験系を構築し、新たな分裂制御遺伝子を多数同定しました。

■分裂期微小管の構築を阻害すると、染色体分配、細胞質分裂、ミトコンドリアの伝達、小胞体構造の構築をも影響を受けました。これらの細胞内構造の分配が微小管の制御下にあることがわかりました。

研究の応用

■細胞分裂をモニタリングできる観察システムを用いれば、抗癌剤等が細胞分裂に与える影響を調査したり、作用機序を明らかにしたりできます。

■新たな細胞分裂制御遺伝子のヒト相同遺伝子も単離して、癌、ダウン症などの遺伝病との関連を明らかにすることもできます。

将来展望

■昆虫モデルによる観察システムを発展させて、癌細胞やマウスの雄減数分裂における異常をモニターできるシステムの開発

■ヒト相同遺伝子が癌関連遺伝子であることが証明できれば、悪性度を診断できる有用マーカーの開発にもつながります。