かねやま「村の肖像」プロジェクト

金山町(福島県大沼郡)に暮らしながら地域の映像遺産を発掘するプロジェクトです。

2019年3月、このプロジェクトをまとめた写真集『山のさざめき 川のとどろき』(金山町教育委員会)が完成しました。写真集の購入をご希望の方は、金山町教育委員会にお問い合わせください。また、金山町中央公民館図書室(福島県大沼郡金山町川口字谷地393)では、これまでにプロジェクトで行ったワークショップの記録ファイルを公開しています。

かねやま「村の肖像」プロジェクトについて

金山町の各地には、厳しい豪雪地帯の自然の中に暮らす人々の姿、日々の生活や労働の様子、四季を区切る数々の民俗行事、只見川のダム建設をはじめとしたこの地域の変化などを写す、極めて貴重な文化遺産「村の肖像」写真が数多く残されています。

これらの写真・映像は、単に文書等から知ることのできない20世紀初頭以降の金山町の姿を伝えてくれるだけではありません。これらの写真・映像は、金山町の各地に暮らす人々が、自身の暮らしをどのように捉え、何をどのように残そうとしたのかをも教えてくれます。また、金山町に残る映像は、近代になってうまれ、社会を大きく変える力を持った映像メディアと、日本各地に住む多様な人々がどのように付き合ってきたのかということを知る上でも、示唆に富んだ資料であるといえます。つまり、金山町の写真・映像は、この地域だけでなく、広く映像メディアと社会の関係を考える上でも、重要な資料であるのです。

かねやま「村の肖像」写真発掘プロジェクトは、こうした金山町の写真・映像を未来に引継ぎ、教育・産業・まちづくりなど、様々な分野で活用するための基盤づくりを目指す事業です。金山町の写真および映像は現在、その多くが個人の努力によって保存されています。もちろん、『広報かねやま』や『奥会津こども聞き書き百選シリーズ』(奥会津書房)、『写真アルバム 会津の昭和』(いき出版、2009年)などを通じて、一部の写真はこれまでにも紹介されてきました。しかしこれらは、撮影者や所有者、被写体となった人々のものの見方や写真・映像との関わりについて、金山町の地域全体を網羅的に捉えることを目的としたものではありません。そしてなにより、紹介した映像について、今後の長期的な保存や活用を見すえた活動は全くなされてきませんでした。

こうした状況に対して、私の参加する新潟大学地域映像アーカイブは、玉梨で戦後60年以上にわたって撮影されてきた角田勝之助さんの写真・映像について、整理・デジタル化を行い、新潟・金山の双方で展覧会を開催して今後の活用に結びつけるべく活動を行ってきました。この試みは次第に、玉梨地区の戦後の生活の変遷、映像活用のあり方、角田さんが地区の生活に向けた視線のあり方を明らかとしつつあります。また、2016年にリニューアルオープンした金山町の温泉保養施設「せせらぎ荘」では、玉梨温泉の歴史を紹介するために、この角田さんの写真の整理・デジタル化資料の一部が活用されました。地域映像アーカイブでは今後も、研究成果をさらに地域で活用するとともに、活用事例から新たな発見を得るための体制づくりに取り組んでゆく予定です。しかしなお、金山町に残る写真・映像の多くは、ごく僅かな周囲の人々の間に知られるにとどまっています。

角田勝之助撮影、昭和40年代

高齢化と人口減の続く金山では、このまま何もしなければ、これらの写真・映像の多くは経年劣化や世代交代によって、確実に失われていきます。また、撮影当時のことをよく知る人々を通じて、詳しく当時の様子を聞くことができる時間には、限りがあります。写真に写る生活の様子、仕事、行事には、すでに失われたものも多く、今現在残るものも時代につれて変化しています。このような変化のなかで、金山町の20世紀を、金山に暮らした人々自身が残した映像によって次世代へと伝えるためには、できるだけ早く活動を始める必要があるのです。

かねやま「村の肖像」プロジェクトは、金山町の各所で写真を囲むワークショップを開催することを通じて、金山町のどこに・どのような写真・映像があるのかを金山に暮らす皆さんから教えて頂くこと、写真について当時を知る人々から思い出話とともに伺うことを目的としています。また、それぞれの写真について、今後どのような保存・活用の方法がありうるかについても、地域の方々と探ってみたいと考えています。

金山町の暮らしを、金山の人々自身が生み出した写真や映像とともに後世へと引き継ぐ作業に、ぜひみなさまの手をお貸し下さい。どうぞよろしくお願い致します。

榎本千賀子(新潟大学・にいがた地域映像アーカイブ研究員)