弁護団紹介

意 見 陳 述

平成29年2月2日

東京地方裁判所 民事15部 御中

上記原告訴訟代理人 弁護士 海渡 雄一

弁護士 木下 徹郎

弁護士 川上 資人

1 本件は、平成23年10月17日から平成25年12月27日にかけ、約2年の間、福島第一原子力発電所の事故収束作業を含む放射線被ばく労働に従事した原告が、被ばく労働のために白血病に罹患し、病気から死に至るかもしれないという恐怖等からうつ病を発症した件につき、このような被ばく労働に従事させた原子力事業者である東京電力及び、九州電力に対して損害賠償を求める事案である。

2 原告は北九州出身・在住であったが、福島第一原発の事故が発生する様子をテレビ放送等で目の当たりにし、人助けをしなくてはならないという思いから、福島に出向き、原発事故の収束作業に携わるようになった。収束作業に従事している間に被ばくしたものも含め、原告が被ばく労働に従事していた約2年間での被ばく量は、記録されているだけでも19.78mSvであり、年間10mSvに迫る被ばくをした。原告が従事した作業現場には、放射線管理が杜撰なところもあり、APDが作業員に渡されず、唯一APDを持つ現場監督も、頻繁に鳴るAPDを解除して作業を続ける現場や、放射性物質の飛散する工具の解体作業に半面マスクの着用で従事する現場、鉛ベストが原告含む作業員に行き渡らない現場などもあった。また原告は福島第一原発における作業中、付近に寝泊まりしていたが、その中でも被ばくをしていたと考えられる。このように、原告は、被ばく労働に従事した結果、記録されている以上の被ばくをしていたと考えるべきである。

3 本件においては、原告の被ばく労働と白血病及びうつ病の発症との法的因果関係の有無が大きな争点となると考えられる。

この点、放射線被ばくは、白血病の発症原因のひとつとされているが、医学的・科学的には、多くの場合、白血病の発症原因を一つのものに特定することが不可能である。しかし、法的因果関係は、科学的な因果関係の証明を言うものではなく、本件で問題となるのは、放射線被ばくも一因となり原告が白血病を発症したのか否か、そして白血病の発症によりうつ病を発症したのか否かであって、それは、医学的・科学的な根拠にも依拠しつつ、最終的には社会通念や合理的経験則に照らして判断されるべきものである。医学・科学の現時点における限界のために原告が因果関係の立証において不可能を強いられるようなことがあってはならない。

本件で原告は原発作業により相当量の被ばくをしている。そして被ばく労働を行うようになって約2年で白血病を発症している。放射線被ばくが白血病発症の一因とされていることも併せ考えると、これらの事実自体、原告の被ばく労働と白血病の発症との間に相当因果関係があることを示唆している。

また、労災申請においても、原告の白血病の発症の業務起因性が認められている。これは、単に基準に形式的なあてはめを行って業務起因性を認めたものではない。労基署から厚労省に業務起因性の判断がりん伺され、放射線障害に関する業務上外の検討会における詳細な検討の結果、業務起因性が認められたものである。検討会における検討は、専門家により1年以上に亘り行われ、その間関連する幾多の最新論文が検討されたという。このような検討の末原告の白血病発症の業務起因性が認められたことは、決して軽視されるべきではない。

5 平成26年1月、原告が白血病に罹患していることが判明した。当時原告は39歳であった。3人の息子は小学生もしくは幼稚園生であった。父として、夫としての責任を果たし、社会にも貢献する力が充実するこのライフステージで、死に直面する重病を患ってしまった原告の恐怖と苦しみは、筆舌に尽くしがたいものである。原告はなお白血病が治癒しておらず、うつ病にも悩まされる日々を過ごしている。原告は人生において大切な時期を喪失したともいうべきであり、それに対する応分の補償がされなければならない。

被告東電は、実質的に極めて多額の公的な援助を受けて、原発事故の損害賠償に充てている状態である。このような仕組みの中で、原発事故の収束作業に従事して、身を挺して市民のために働いた原告を救済することこそ、社会正義に適うものである。

以上