7 株の提供と寄託、培養に関する技術

教育研究用にゾウリムシを実費で提供いたします。

Yamaguchi University (YU) Paramecium collection was initiated by Masahiro Fujishima in 1979. This collection involves strains given from collections of Koichi Hiwatashi, Mihoko Takahashi, Tsuyoshi Watanabe, Yoshiomi Takagi, Isoji Miwa, Toshiro Sugai, Nobuyuki Haga, Akira Yanagi, Yuuki Kodama and natural strains collected by M. Fujishima's lab, and began to offer various Paramecium users free of charge. In 2012, this collection was accepted National BioResource Project (NBRP) of the Japan Agency for Mediacal Research and Development (AMED,) and began to collect, preserve and provide paramecia for researches, educations and developmental purposes (http://nbrpcms.nig.ac.jp/paramecium/). NBRP-Paramecium maintains 24 species (P. caudatum, P. jenningsi, P. multimicronucleatum, 15 P. aurelia species, P. nephridiatum, P. bursaria, P. putrinum (P. trichium), P. calkinsi, P. woodruffi and P. duboscqui) and more than 1,000 strains.

 ゾウリムシは真核細胞のモデル材料として様々な研究に使用されてきました。山口大学はゾウリムシリソースの収集・保存・提供」の課題で、2012年に国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST)の中核的拠点整備プログラムの第3期ナショナルバイオリソースプロジェクト (NBRP)に採択され(課題管理者 藤島政博)、2017年度からは第4期NBRPに採択されて事業を継続中です。NBRPは、2015年4月からは文科省から国立研究開発法人医療研究開発機構 (AMED)移管されましたが、2021年4月以降は文科省 (MEXT)に移管となります。

 NBRPは、ライフサイエンスの研究に広く用いられる実験材料としての バイオリソースのうち、国が特に重要と認めたものについて、体系的な 収集、保存、提供体制 を整備することを目的とした国家プロジェクトです。本プロジェクトは、国際標準となる高品質のゾウリムシリソースを整備するとともに国内外のユーザーの希望に応じた株を提供することを目的として、次のような事業を実施します。

 NBRPゾウリムシは、野外から採集されたゾウリムシ属の多様な種を収集し、シンジェン (syngen)、接合型、採集地、特徴などの情報と共に国内外の研究者に提供いたします。多くの研究者がお互いの実験データを共有できるようにするために、標準株と利用推奨株を設定して利用を推進します。

 NBRPリソースの提供に直接掛る実費(約40 mL培養。非営利機関向け 2000円、営利機関向け 4000円、送料)を利用者の皆様に負担して頂きます。これは事業維持のための方策であり、利益を得るためのものではありません。また、支払い方法は、本件の業務の一部を委託している(有)山口ティー・エル・オー(以下「山口TLO」という)の発行する請求書に従い、指定する銀行口座へ支払っていただきます。ご理解の程、宜しくお願いいたします。

 実費での提供は、2012年10月1日から実施しております。株の寄託も受け付けますのでご相談下さい。提供と寄託の詳細は、下記のURLをご確認下さい

 NBRP-ゾウリムシ  http://nbrpcms.nig.ac.jp/paramecium/


 お知らせ 

1.MTA (Material Transfer Agreement) の書類が更新されておりますので、上のURLから最新の書式をダウンロードして下さい。

2.ゾウリムシの発送は土日と祝祭日は行いません。また、8月11日8月17日と12月24日1月6日の発送も行いません。

3.ゾウリムシの受け取り希望日の1週間前までに、ご希望の株名と数をメールでお知らせいただき、提供可能かどうかをご確認下さい。

4. 株をご寄託の際には、所属機関の研究成果有体物に関する取り決めに遵守していることが必要ですのでお確かめ下さい。

5. 培養方法等についてご質問がありましたら、いつでもメールでご相談下さい。

 ゾウリムシ属は、記載種が50種以上存在しますが、現在でも野外から採集されている種や研究者が保存している種は33種です。NBRPゾウリムシでは24種を保存していますNBRPゾウリムシの未収集種は、P. schewiakoffiP. chlorelligerumP. buetschliiP. africanum、P. polycaryum、P. ugandae、P. germannicum、P. brazilianum、P. hungarianum9種です。入手された方は、ご連絡下さいますようお願いいたします。当事業は、ゾウリムシ属の種の保存の機能をも担い、保存種数24と保存株数約1,000株は、世界最大規模です。

 この事業によって国際的に重要なリソース拠点を形成するとともに、これまでゾウリムシを利用した経験がない研究者でも培養の維持を適切に行えるように必要な技術等の提供もいたします。

 質を保証できる細胞をいい状態でお送りし、研究や教育に使っていただきたいと願っております。そのため、仲介人等を経由しないやりかたで利用者に直接発送いたします。第3者への提供の仲介役を果たすことをご計画の場合や販売目的の方には提供できかねます

 総合教育センター等で各県の教員の研修にご利用になる場合にも株を提供いたしますが、県内の学校園の先生に分与するご予定の場合は、当方からご本人に直接お送りいたしますので、ご希望の先生方に上記のURLをご覧の上で提供依頼の手続きをするようにお伝え下さい。教育目的でゾウリムシを使用する場合の主なユーザーは小学生から大学生です。当研究室では安全な細菌をゾウリムシのエサに使用していますが、ユーザー間で株の分与を行うことによって有害な細菌が混入する可能性があります。事故防止のためですので、ご理解をお願いいたします。

 提供するゾウリムシの培養にはエサの細菌Enterobacter aerogenes (ATCC35028株)を使用しており、提供時のゾウリムシの外液に含まれています。この株はATCCではバイオセフティーレベル (BSL)1の安全な株ですが、目や口には入れないようにご注意下さい

 NBRPゾウリムシは人に有害な細菌等を除去して培養しておりますので安全ですが、病原性細菌レジオネラ等を細胞内に長期間維持する能力を持つことが明らかになりましたので (Watanabe et al., Scientific Reports 6, 24322 (2016). Doi: 10.1038/srep24322)、野外から採集した株とNBRPゾウリムシとを混合して実験に使用しないようにお願いいたします。

 本件の株を利用した研究成果を公表するときには、謝辞欄に株の提供元 (NBRPゾウリムシ)を明記し、論文の場合にはPDFファイルを藤島にメールの添付ファイルで送って下さいますようお願いいたします。謝辞には下記の文例を参考にしてください。ご協力をお願いいたします。

 参考文例:実験に使用したゾウリムシ株○○○(株名または株のID)は、文部科学省 (MEXT)のナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)の支援によって、山口大学から提供された。 

  Paramecium strains ○○○(strain name or ID)used in this study were provided by Yamaguchi University with support of the National BioResource Project of the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT).

 

 中学校や高校で、NBRPゾウリムシをお使いいただいて各種コンクール等で受賞された場合には下記の情報をお知らせくださいますようお願いいたします。

(1)コンクールの正式名称、(2)受賞の種類の名称、(3)主催者の名称、(4)受賞者名と所属学校名、(5)受賞の年月日


  問い合わせ・連絡先

   〒753-8515 山口市吉田1677-1

山口大学 共同獣医学部 NBRPゾウリムシ研究室

   藤島政博

   nbrparam( )yamaguchi-u.ac.jp   ( )を@に替えて下さい。

   TEL/FAX: 083-933-5712

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培養液の作成法

1.レタスジュースを用いた培養液(NBRPゾウリムシではこれを使用。接合の誘導に適している。

(1)レタスジュース原液の作製

1) ボストンレタスの葉の重量を計る(芯は取り除く)。

2) 水道水で葉を手で洗い、脱イオン水で2回濯ぐ。

3) 葉の酵素類を失活させるために約15秒、熱湯で煮て、その後すぐに氷冷の脱イオン水で冷やす。

4) 市販の果物用ジューサーで葉を約10秒程度破砕する。

5) 8枚重ねのガーゼを使い、手でしぼって濾液を回収する。

6) 脱イオン水を加えてジュースを希釈する。その際、上記1の葉の重量が1kgの場合は、脱イオン水を加えて2 Lになるようにする。

7) ガラス容器 (200-500 mL) にジュースを小分けし、蓋をして、オートクレーブを使用して105℃で10分の間欠滅菌を3日間行う。毎回、滅菌の前後によく撹拌する。その後は使用時まで4℃または室温で保存する。完結滅菌せずに冷凍庫で保存しても良い。

 (注:グリーンリーフを用いてレタスジュース原液を作成することもできる。後述参照)

(2)塩化カルシウム原液の作製と滅菌

  200 mM CaCl2(無水塩)を12 mLずつガラス試験管 (18 x 180 mm)に分注してアルミキャップ(マルエム工業株式会社・M-5)等でフタをしてオートクレーブし、使用時まで室温で保存する。

(3)塩化カルシウムを含まない改変ドリル氏液原液の作製 (50倍濃度、3 L)

 C6H5Na3O7・2H2O (100 mM) 88.23 g    

 Na2HPO4・12H2O (70 mM) 75.21 g

    KH2PO4 (30 mM) 12.25 g

  脱イオン水  メスアップして3 L     4℃保存 (pH 7.2)

(注:改変ドリル氏液は、本来のドリル氏液のNa2HPO4・12H2OをKH2PO4 で置き換えたもの。Kイオンが交配反応活性の発現に必要なことが分かったことによる改変。

(4) 塩化カルシウム無しのドリル氏液の滅菌(2L三角フラスコを使用)

                1.640 L培養液 最終濃度   

1) レタスジュース原液(室温または冷蔵庫保存) 40 mL 1.25 % (w/v)

2) ドリル氏液原液(x 50濃度、冷蔵庫保存)    32 mL

C6H5Na3O7・2H2O の最終濃度 2 mM

Na2HPO4・12H2O の最終濃度 1.4 mM

  KH2PO4 の最終濃度 0.6 mM

3) 脱イオン水                1,568 mL

4) スティグマステロール またはβ シトステロール (5 mg/mL) 100-200μL(入れなくても良い)

シリコン栓とアルミホイルで蓋をしてオートクレーブで滅菌し、室温保存。

                              

(注:植物性脂質のスティグマステロールやβ シトステロールは100%エチルアルコールに溶かして室温保存する。

   後者のβ シトステロールが安価。)

(5) 完成版培養液の調整

1) (4)の滅菌ドリル氏液に、クリーンベンチ内で2)の滅菌CaCl2液 (200 mM, 12 mL)を混合 (CaCl2の最終濃度 1.5 mM)。

(注:CaCl2液とドリル氏液を混合してから加熱するとリン酸カルシウムの沈殿ができて白濁するので、別々に滅菌して、完成版培養液調整時にクリーンベンチ内で混合する。)

   2) クリーンベンチ内で、エサの細菌 (Enterobacter aerogenes 株ATCC35028、Biosafety lebel 1)を2 Lフラスコ内の滅菌ドリル氏液に植菌し、25℃で1晩放置すると細菌が増殖して白濁する。これをゾウリムシの培養液として使用する。細菌を植えてから3日間位は使用しているが、それより長時間経過するとpHが変わる可能性がある。

   3) エサの細菌の培養は、一般細菌用の寒天培地を使用して、別途、培養する。

(6) エサの細菌用寒天培地の作成と植菌の方法

1) 寒天粉末 (Difco Nutrient Agar、品番213000) 5gを、500 mLのガラス三角フラスコの200 mLの脱イオン水に混合し、湯煎や電子レンジで溶かす。(注:寒天培地は一般細菌用ならなんでも良い。)

2) 寒天が冷えて固まる前に、分注器やコマゴメピペットでガラス試験管 (18 x 180 mm) に5 mLずつ分注する。 (注:試験管の内壁に向けて注ぎ入れると泡が立たない。後でオートクレーブするので、この段階では無菌操作を必要としない。使用済みの分注器などは寒天が冷えて固まる前に洗浄する。)

3) 試験管の口をシリコン栓や綿栓で栓をして、薬包紙で包んで、輪ゴムでとめる。

4) ステンレス試験管立てに試験管を立ててオートクレーブする (121℃、20分)。

5) 寒天が固まる前に試験管立てを斜めに倒して室温で1日以上放置し、斜面培地を固める。

6) 固まった斜面培地は、使用時まで室温または冷蔵庫で保存する。

7) Enterobacter aerogenes 株ATCC35028は、クリーンベンチ内で寒天斜面培地に植え継いだ翌日には十分量増えているので、クリーンベンチ内で滅菌ドリル氏液を滅菌済ピペットで1-2 mL程度吸い取って、寒天斜面培地に吹きかけて3-4回ピペッティングして細菌の懸濁液を2 Lフラスコ内の培養液に加える。翌日には、培養液は白濁して使用可能となる。


レタスジュース培養液を用いたゾウリムシの継代培養

試験管培養 (18 x 180 mmとアルミニウムキャップを使用)

 乾熱滅菌した試験管に2 mLの新鮮な培養液を分注し、100-200 μLの定常期培養を植継ぐ、増殖が早いP. caudatumなどの場合には、翌日から毎日、4、10、10 mLの培養液を加える。増殖が遅いP. bursariaなどは、2、4、4、6、6、6 mLぐらいを加える。前日に加えた培養液で濁っている場合には、エサの細菌を食べ尽くしていないので、新たに培養液を添加する必要はない。最後のエサを加えた翌日(以後、定常期1日目と呼ぶ)に培養液が透明になっていれば、細胞は適度な飢餓状態になっていて交配反応性高い。この時の細胞周期は大核も小核もG1期になっている。P. caudatumでは定常期3日以降は飢餓状態になりすぎるために接合型がE型の細胞は、試験管内の一部が性転換してO型の表現型になり、同一試験管内のE型細胞と交配反応して接合対(自系接合対)を形成し、子孫がとれるので注意を要する。そうなると均一遺伝子型のクローンではなくなるので、細胞のクローニングが必要になる。培養は23-25℃の静地培養で行う。

 対数期の細胞が欲しい場合には、定常期1日目の細胞にほぼ等量の培養液を加えて食胞の形成と細胞分裂の同調分裂を誘導する。25度で9時間位に分裂細胞の低いピークが出現する。

大量培養(2L〜5Lの三角フラスコや、10 Lのポリカーボネートタンクを使用

 細胞分画等で大量の細胞を必要とする時に行う。オートクレーブした培養液が冷えてからクリーンベンチ内で滅菌済CaCl2とエサの細菌を加えて1日放置する。翌日、細菌が増殖して白濁したことを確認後に、試験管培養の定常期1日目の培養を適量加える(2 L三角フラスコの場合は、試験管1本、5Lフラスコには試験管培養2本、10 Lタンクには5本位入れると数日で培養液が透明になり定常期になる。大量培養では負の走地性で培養液の上部に濃縮した細胞を分散させるために、朝夕1回は手で2-3秒容器を揺らして混合する。細菌は一般細菌用の斜面寒天培地で培養すると便利である。大量培養の細胞の濃縮には、100mL遠心管を使える低速遠心機 (180g程度)や連続ローターを取り付けた高速冷却遠心機を使う。ろ紙や、15 μmのポアサイズのナイロンメッシュ*2でろ過して濃縮することもできる。遠心で濃縮する場合には、遠心後に細胞が泳ぎだして上に移動する事が防げる先端の形をした遠心管が必要になる。細胞を冷やしてもかまわない実験に使用する場合には細胞浮遊液を冷やせば繊毛運動を抑えることができる。

株の長期保存

 ゾウリムシは細胞分裂回数に依存して老化するので、株の長期保存は低温 (10℃)で約1ヶ月毎に2倍濃度のレタスジュースを使った培養液を加え、細胞分裂速度を低下させて維持する方法で行う。この方法で数年は良い状態での保存が可能である。家庭用冷蔵庫(約4℃)でも長期保存できるが、庫内の場所によっては、冷えすぎて凍結するので注意が必要である。凍結保護材非存在下で凍結すると細胞は死滅する。

 P. caudatumは、低温に置いても細胞分裂回数に依存して老化し、約700回の細胞分裂後のクローン死は避けられない。ゾウリムシ属の凍結保存技術は2018年から山口大学で実用化され、フリーザー (−80℃)や液体窒素(−196℃)での特定株の凍結保存が可能になっている(藤島等、投稿準備中)。





ゾウリムシの培養液に使用可能なレタスの種類について

Boston lettuce. サラダ菜やチシャの商品名で呼ばれ、ゾウリムシの培養液に適している。東北大学の樋渡宏一教授が作成したオリジナルのレタスジュース培養液はこのレタスを用いる。また、オリジナル法ではレタスジュース原液を100℃で5分の間欠滅菌(1日1回を3日間)をした後に室温で保存するが、この方法で使用できる旧式オートクレーブの入手が困難なので、105℃で5分のオートクレーブ(1日1回を3日間)をした後に冷蔵庫で保存している。


Green leaf lettuce, Lactuca sativa. グリーンリーフの商品名で呼ばれ、ゾウリムシの培養液に使える。山口大学の藤島政博考案のレタスジュース培養液ではこれを用いる。このレタスは、西日本では、年中、安定して安価に入手でき、細胞の増殖、接合能力、形態には、ボストンレタスを用いた培養液と違いがない (Fujishima et al, Zool Sci, 7, 849-860, 1990)。原液は、間欠滅菌せずに−20℃か−30℃で凍結保存し、使用時に解凍してキムワイプ2枚で濾過してろ液を使用する。

注意;Red-tip leaf lettuce (Lactuca sativa var. crispa、商品名サニーレタス、葉の先端が赤い) は、ゾウリムシの増殖が悪く、培養液には適さない (藤島、未発表)。

2.ワラの煮汁を用いた培養液(昔から電極を刺す実験に使用する細胞の培養に使われている) 

(1)乾燥したワラの茎を数センチの長さに切り、1 Lの蒸留水に約10 g加えて15から20分煮沸する。

(2)室温まで冷却後に、脱脂綿やろ紙等で濾過し、濾液を再度煮沸か、オートクレーブで滅菌し、室温まで冷えてからエサになる細菌を移植して、翌日、培養液として使用する。

 煮沸後の(1)液をワラが入ったまま、細菌を移植して培養液に使用することもできる。ワラに付着していた枯草菌の胞子が発芽して増殖すれば、それがエサの細菌となるが、寒天培地で培養したKlebsiella pneumoniaなどの細菌を(2)で移植する方が確実である。

.セロフィールを用いた培養液(欧米ではこの培養液の使用者が多い) 

(1)Cerophyl grass powder (Cerophyl Coporation, Kansus City)を蒸留水 1 Lに2.5 g加えて5分間煮沸

(2)脱脂綿等で濾過し、濾液をオートクレーブで滅菌し、エサの細菌を移植して翌日使用

4.青汁を用いた培養液

4-1 元金沢大学 浩氏の方法

(1) 山本漢方製薬株式会社 大麦若葉 100%粉末(3g X 56包、スティックタイプ)を準備

(2)上記粉末を 1 Lの三角フラスコに、15g/500 mL(脱イオン水)で懸濁してオートクレーブ後に、フラスコを斜めにして上澄のみを滅菌した容器に回収。これを青汁原液として、小分けして4℃凍結で保存(青汁原液濃度3%)

(3)脱イオン水で青汁原液を100倍に希釈し、オートクレーブ滅菌した後に室温に冷えてから、エサ細菌を使用前日に植菌して培養液とするスティグマステロールやβシトステロールを添加しても良い(レタスジュース培養液を参照)(青汁最終濃度0.03%)


4-2 静岡大学 道羅英夫氏の方法

(1)大麦若葉 100%粉末10g を脱イオン水200 mLに懸濁し、オートクレーブ

(2)6,000 g で10分遠心後、上清を脱脂綿で濾過し、青汁原液とする(青汁原液濃度は5%)

(3)青汁原液40 mL、リン酸バッファー原液(Na2HPO4・12H2O 25.07g、K2H2PO4 4.08g、DW で 1Lにメスアップ)16 mLを混合し、DWを加えて800 mLにしてオートクレーブ

(4)(3)が室温まで冷えてからエサの細菌を植菌し、0.4% β-sitosterol (溶媒 100%エチルアルコール)を160 μL添加(青汁最終濃度025%)

 

5.カロリーメイト用いた培養液(元 宮城教育大学 見上一幸氏の方法)

(1)缶(液体)のカロリーメイト (何味でも可)を蒸留水で1,000倍 (0.1%)に希釈し、培養液として

   使用する。カロリーメイト1 mLで約 1 Lの培養液を作ることができる。缶のカロリーメイトはプ

   ラスチック容器に小分けして凍結保存しておく。

(2)細胞が飢餓状態になった培養に、(1)の培養液を少量加えて、翌日、増殖を確認する。

ゾウリムシの濃縮法

 下記のような先端を狭くした遠心管と、15 μmのポアサイズのナイロンメッシュを接着剤で取り付けた手作りろ過器 が便利です。

 写真の遠心管は、左からパスツールピペットで作製した遠心管、10 mLの丸底遠心管を業者に依頼して加工したもの、油分離用遠心機用の100 mLの遠心管です。左の2種の遠心管は手回し遠心機で使用し、右端の遠心管は油分離用遠心機化卓上遠心機で使用します。

 大量培養(10-40 L)の細胞を集める時には連続ローターを高速冷却遠心機に取り付けてローターの内容積の1 L程度まで濃縮し、次に写真の遠心管で細胞のペレットや高密度の濃縮液を得ます。

 ポアサイズ15μmのナイロンメッシュ (品番:HC-15、http://www.tanaka-sanjiro.com/meshtech/)は、プラスチィック製の試薬瓶や50 mL遠心管を輪切りにして、その切断面に耐水性の接着剤で貼りつます。細胞はメッシュの上に濃縮されて残る。細胞の濃縮だけでなく、細胞外液を他の液に置き換える時にも使用できます

 使用前に、脱イオン水を洗浄瓶で膜面に吹きかけて濡らしておかないと培養液をはじきます。使用後は、超音波洗浄機などで膜の汚れを除去してから乾燥させて下さい。

ゾウリムシの細胞密度の調整法

 一定の細胞密度の細胞浮遊液を調整するには、培養をフィルターで濾過したり、遠心で濃縮し、その濃縮液から一定量 (100 μL)を取って細胞密度を測定し、ドリル氏液等で希釈して、細胞密度を調整する(例、2,500 cells/mL)。フィルターは、穴径15μmのナイロンメッシュ(TANAKA SANJIRO CO.LTD.・品番HC-15など)が使用できる。 ナイロンメッシュが無い時は、10 mLのガラス遠心管(先端に約400 μLの溜まりがある特注品)や油分離用遠心管(10頁の写真参照)を使って細胞を濃縮する。  濃縮した細胞浮遊液から100μLをメスピペットやイエローチップで取り、水をはじくプラスチックシャーレに少量の水滴に分けて置き、その上に飽和ピクリン酸を滴下して細胞の固定と同時に細胞を黄色に染色して実体顕微鏡下で各水滴内の細胞数を数える。サンプリングエラーを防ぐために、これを3回行なって平均値を出し、ドリル氏液で濃縮液を希釈して、特定の細胞密度に調整する。慣れると15分位でできる。高い細胞密度で長時間おくと酸欠で細胞が弱る。

クローニングによる細胞の洗浄

(1) クローニングに必要な道具など  マイクロピペット、ガラスビーカー(500 mL)、電気コンロ、実体顕微鏡 (接眼レンズ10倍、対物レンズ1倍)、滅菌済み3穴デプレッションスライドガラス(東新理興・プレス型血液反応板・商品コードT16-R013)または滅菌済み24穴プラスチックプレート(住友ベークライト・マルチプレート24F・MS-80240)、新鮮な培養液、滅菌済パスツールピペット(9インチ)、滅菌済試験管 (18 mm x 180 mm・リム付き)とそのアルミキャップ、試験管たて
(2) クローニングの方法 実体体顕微鏡の下でマイクロピペットを使って1細胞をピペットの先端に吸い取り、新しい培養液をいれたデプレッションスライドガラスの1枚目の左端の穴に移す。 使用したマイクロピペットを電気コンロの上のビーカーの熱湯で消毒し、1枚目のデプレッションスライドガラスの2番目の穴の液を少量吸い取り、次に1番目の穴の細胞を吸い取り、その細胞を2番目穴に押し出す。これを繰り返して、3穴のデプレッションスライドガラス3枚を使用して細胞を9回洗浄する。 9回目の洗浄後、マイクロピペットで細胞を2 mLの培養液を入れた滅菌済試験管に移して培養する。培養は20〜25℃で行う。数日で、培養液が透明になり、細胞数が増えたことを確認できたら、4 mLの培養液加え、その翌日以降は、10 mL、10 mLを毎日加える。最後の10 mLをl加えた翌日に、100〜200μLを滅菌したパスツールピペットで取って新しい滅菌済試験管に入れた2 mLの培養液に植継ぎ、これを繰り返す。増殖速度gは遅いP. bursariaは、2、2、4、4 mLの培養液を毎日加える。デプレッションスライドガラスが無い場合は、24穴のプラスチックプレート(滅菌済み)が使える。24穴のプラスチックプレートはサランラップで包んでクリーンベンチ内のUVで一晩照射して殺菌する。

抗生物質を使用した細胞の洗浄

(1) 抗生物質処理に必要な道具  0.5% (w/v)カナマイシン硫酸塩原液(脱イオン水で溶解)を100 mLの三角フラスコに50 mL入れ、4重のアルミ箔で蓋をしてオートクレーブで滅菌し、冷蔵庫に保存)、滅菌済パスツールピペット(ピペットマン等のマイクロピペットと滅菌済イエローチップでも可)
(2) カナマイシン処理の方法  カナマイシン硫酸塩原液は、オートクレーブで滅菌しても失活しない。最終濃度が約0.02% (w/v)になるようにクリーンベンチ内でカナマイシン原液を雑菌などが混入した培養2 mLにパスツールピペットで3滴加える(1滴が約30 μL)。ピペットマン等を使用しても良い。翌日から毎日、4 mL、10 mL、10 mLの新鮮な培養液を加えてカナマイシンを希釈する。カナマイシンは原核細胞のタンパク質合成を阻害する。ゾウリムシのミトコンドリアのタンパク質合成も阻害するので、ゾウリムシの増えも悪くなるが、気にせずに培養液を加えて希釈する。雑菌が除去できたら培養の濁りが無くなる。この試験管培養の上部の細胞密度が高いところから100〜200 μLを滅菌したパスツールピペットで取り、新しい培養液を2 mL入れた試験管に植え継ぐ。翌日以降は、4 mL、10 mL、10 mLの新鮮な培養液を加えて細胞を増やす。この過程でゾウリムシの増えも回復する。カナマイシンの代わりにペニシリンやテトラサイクリン等の抗生物質も有効である。カナマイシンはカビや藻類などの真核性微生物に効かない。これらの除去には(3)に記載した別の抗生物質を使用するか、またはクローニングで洗浄する。
(3) 準備中

ゾウリムシの野外採集

準備する物

・ 500 mLぐらいの容器2個(プラスティックのビーカーのような口が大きくて軽い容器がよい)・ 直径9 cm位のプラスチック製ロート1個・ キムワイプ・ ろ紙(直径9 cm以上の規格No. 1)・ 50 mLプラスチック遠心管(スクリューキャップ付)・プラスチックシャーレ1枚・マイクロピペット(軟質ガラスのパスツールピペットをガスバーナーで引き伸ばして、先端が3 cmぐらいの長さに引き伸ばしたピペットを作ります。ピペットの先端の太さは外径1 mm以下にします。このピペットでゾウリムシ1細胞を吸い取って回収します。ゾウリムシの洗浄とクローニングにも使用します。・1 mLのゴムキャップ(マイクロピペットに取り付けて使用します)・約1 mLの3穴デプレッションスライドガラス(オートクレーブで滅菌して使用)。24穴のプラスチックプレート(滅菌済み)も使えます。

1.採水場所

 池などの水の流れがほとんど無い場所や小川のよどみの水を500 mL位の容器とります。ゾウリムシは池の真ん中よりも岸の水草が生えているところや落ち葉が沈んでいるような場所を好みます。紫外線に弱いので、日陰や水草で日光が遮られるような場所の水をとって下さい。プランクトンネットより、ビーカーをゴム手袋を付けた手で持って水を採るのがいいと思います。水草が入ってもかまいません。ゾウリムシは水草や枯葉や枯れ枝の近くを好みます。細菌や微細藻類をエサにしていますので、それらが多そうな少し濁った水を探します。しかし、ミドリゾウリムシは、キンギョグサが生えているような透明な水を好みます。

2.天敵の除去

 容器にとった水には、ゾウリムシの天敵のミジンコ等の甲殻類や、ゾウリムシを好んで補食する繊毛虫のディディニウムや小魚が混入している可能性がありますので、できるだけ早く、できれば採水場所でロートとキムワイプ2枚でろ過してろ液を回収します。甲殻類や小魚はキムワイプを通過できませんが、ゾウリムシは通過して濾液に出てきます。

3.濃縮

 水を運搬する時には濃縮して体積を減らしておいたほうが便利です。また、ゾウリムシを実体顕微鏡で探す時にも、水を濃縮しておいたほうが効率がいいので、2の水を濃縮します。ロートにNo.1のろ紙1枚をとりつけてろ過します。ゾウリムシはこのろ紙を通過できません。ろ紙の上に残った水を50 mLのプラスック遠心管(スクリューキャップ付)に入れ、遠心管の外部にマジックなどで水をとった地名と年月日を記入しておきます。酸欠を防ぐために、遠心管内の液量は40 mL以下にします。  野外採集場所で、ろ過や濃縮する時間がない場合には、研究室にもどってからすぐに行ないます。天敵が容器の中にいると食べられてしまいます。

4.水の発送

 ゾウリムシの回収を他の研究室で行う場合は、3の濃縮した水を入れた遠心管を、発泡スチロールに箱に詰めて発送して下さい。真夏の気温が高い時には冷蔵で送るか、アイスノンのような物を入れて発送します。凍結するとゾウリムシは死にます。夏に車中に長時間置くのは危険です。

5.ゾウリムシの回収

 濃縮した水からゾウリムシを見つけて回収するには、次の手順で行います。50 mL遠心管から10 mL程度ずつプラスチックシャーレの底か蓋にに移して、倍率の実体顕微鏡下でゾウリムシを探します。みつかった場合には、1細胞を細いピペットで吸い取って、前述の「クローニングによる細胞の洗浄」の方法で洗浄とクローニング行い、綺麗な培養液を2 mL入れたリム付きガラス試験管 (18 x 180 mm)に移して20-25度で増殖させ、前述の「レタスジュース培養液を用いた継代培養」の方法で培養し、数細胞を普通顕微鏡で観察すると、細胞のサイズ、形、小核の数などの特徴から種名を判別できます。

ミドリゾウリムシの共生クロレラ除去法と感染法

 ミドリゾウリムシ (Paramecium bursaria) の共生クロレラの除去は、恒暗条件下で1ヶ月以上培養したり(Karakashian,1963)、タンパク質合成阻害剤のシクロヘキシミド(Kodama, Fujishima 2008; Kodama et al. 2007; Weis 1984)や、光合成阻害剤で処理(Reisser 1976)や、除草剤 (Hosoya et al. 1995)で処理することによって除去できる。クロレラ除去細胞(白化細胞)は、共生クロレラを保持した状態と比較すると分裂速度はやや低下するが(Gortz 1982)、増殖能力も生殖能力も維持している。クロレラ除去細胞を、ミドリゾウリムシのホモジネートから単離した共生クロレラと混合すると、クロレラは細胞口から食胞に取り込まれた後に、大部分は食胞内で消化されて細胞肛門から排出されるが、一部のクロレラは消化を免れて細胞内共生を再開する (Karakashian, 1975; Siegel, Karakashian 1959; Kodama, Fujishima 2005)。ミドリゾウリムシは、大量の細胞に同調して真核細胞どうしの細胞内共生(真核共生)を再誘導できる唯一の実験系である。

 シクロヘキシミド (CH)で共生クロレラを除去する方法は下記の手順で行う (Kodama et al. 2007)

1.CHストック液の作成

  10 mg/ml(脱イオン水に溶かして小分けして冷凍保存)


2.ミドリゾウリムシの2-4 ml 程度の細胞浮遊液を、恒明条件下 (蛍光灯の1500-2500 Lux位の明るさ)で、最終濃度10 μg/ml (培養液で希釈)のCHで10日前後処理する(恒明条件下で行うことが必要)。この濃度のCHは、宿主のミドリゾウリムシのタンパク質合成は阻害しないが、共生クロレラのタンパク質合成を阻害する。CH処理によってPV膜(perialgal vacuole membrane、宿主の食胞膜由来のクロレラを包む膜)が同調して膨潤し、宿主リソソーム融合阻止能力を失って内部のクロレラが消化される (Kodama et al. 2011)。

 ミドリゾウリムシの株によって、CH耐性が異なるので、10 μg/mlの前後のCH液でも処理したほうが確実である。

3.クロレラを失った白化細胞が出現するので、実体顕微鏡下でマイクロピペットを使って白化細胞をCHを含まない通常の培養液でクローニングし、増えのいい白色株クローンを作り、継代培養する。クロレラは直径が約5 μmもあるので、光学顕微鏡でクロレラの有無は容易であるが、蛍光顕微鏡を使えば、クロロフィルの自家蛍光(赤色)の有無でもクロレラの有無を確認できる (Kodama, Fujishima 2011)。


参考論文

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 共生クロレラを感染させる方法は下記の手順で行う (Kodama, Fujishima 2005)

1.共生クロレラ保持株を手回し遠心機や15 μmのポアサイズのナイロンメッシュを使って濃縮する。

2.1 mL位のテフロンホモジナイザーで濃縮細胞をホモジナイズし、生細胞の有無をスライドガラスにホモジネートを一滴乗せて実体顕微鏡顕で確認する。生細胞がなくなるまでホモジナイズする。クロレラは直径5 μmで小さく、細胞壁が硬いのでこの操作では破壊されない。

3.ホモジネートにドリル氏液または脱イオン水を加えて遠心し、宿主細胞の破砕物を含む上清を捨てる。この操作を2-3回行なってクロレラを洗浄する。クロレラは沈澱するので、適切な遠心機がない場合には自然落下させて上澄を除去しても良い。宿主から単離したクロレラを恒暗下に24時間おくと再感染時に宿主食胞内で消化されるので、長時間保存の場合には光合成可能な環境に置く。

4.予め共生クロレラを除去した非共生宿主株(白色株)と3のクロレラを混合する。一定の細胞密度で一定時間混合し、15 μmのポアサイズのナイロンメッシュで滅菌したドリル氏液で洗浄して外液に残ったクロレラを除去すると、食胞に取り込まれたクロレラの計時的な変化を追跡することができる (Kodama, Fujishima 2005)。食胞に取り込まれたクロレラは45分後には食胞膜の出芽で1個づつが細胞質に脱出し、宿主の細胞表層直下のミトコンドリア外膜に接着して安定化し、再共生を完了する。混合からここまでは恒暗条件でも行われる。クロレラの細胞分裂は25度で24時間後に始まり、以後のクロレラの増殖には光合成可能な光を必要とする。5000ルックス以上の光量は葉緑体にダメージを与えるので、2500ルックス程度で培養する。


 Perialgal vacuole (PV) 膜 (クロレラ包膜)付きの共生クロレラの単離は下記の手順で行う。

 準備中


ゾウリムシの子孫の作成法

1.相補的接合型の生細胞を混合して接合対を誘導する方法

1) P. caudatumの場合は、定常期初期の交配反応活性が高い相補的接合型細胞をデプレッションスライドグラス等の容器を使用して当量混合して、交配反応による性的細胞凝集反応を誘導する。試験管のような空気との接触面積が狭い容器を使用して高細胞密度で混合すると酸欠になるので注意が必要である。2500 cells/mLから5,000 cells/mLが望ましい。試験管培養の定常期初期に試験管上部に集まった細胞密度程度で良い。

2) 25度で約45分経過すると、細胞の先端で接着したHoldfast unionが形成され、さらに45分経過すると細胞口付近まで接着したPaoral unionが形成される。この時期に小核は減数分裂前DNA合成期に入り約1.5時間後に複製を完了し、直ちに減数分裂期に入る。交配反応は相補的接合型細胞の細胞口側繊毛膜に露出して存在する接合型物質同士の接着によって誘導され、相補的接合型細胞間に特異的な反応であるが、接合対は、接合型に非特異的に形成されるため、O型同士、O型とE型、E型同士の3種の接合対が形成される。どの接合対でも子孫が取れる。Holdfast unionは物理的刺激で簡単に離れるので、子孫を作成する時には相補的接合型細胞を混合してから3時間以上経過したParoral unionをマイクロピペットで回収し、ドリル氏液を入れたデプレッションスガラスの中に1接合対づつ移す。

3) 接合対は15-16時間後に離れて接合完了体となるので、各接合完了体をドリル氏液を入れたデプレッションスガラスの別び穴に移す。接合完了体を48時間以上飢餓状態にしないと受精核由来の大核原基の成長が不完全となり、旧大核の断片が復活して大核を再生する現象(大核再生、Macronuclear regeneration (MR))が高率に生じる。そこで、48 時間後に、接合完了体を新鮮な培養液に移して増殖させる。

4) 各接合完了体は4個の大核原基と1個の小核を分化させて、大核原基は細胞分裂時に娘細胞に分配され、小核は核分裂を経て娘細胞に分裂されるので、接合完了体が2回の細胞分裂後に4細胞になると、各細胞は新大核1個と新小核1個をもった細胞となる。この細胞をカリオナイドと呼ぶ。カリオナイドをクローニングして作成したクローンをカリオナイドクローンと呼ぶ。接合完了体をカリオナイドに分けずに増殖させたクローンには、大核原基からの大核分化に失敗したMR細胞が含まれる可能性があるので、接合完了体が4細胞になってからクローン化した方が良い。

5) カリオナイドクローンを試験管培養して飢餓状態初期ななったら、植継ぐ前に、一部の細胞を成熟期の相補的接合型細胞(親細胞)と混合して、交配反応の有無を確認し、交配反応が起こったクローンはMRなので廃棄する。これをMRテストと呼ぶ。MRテストは飢餓状態が不十分であった可能性を排除するために翌日も行うのが良い。交配反応が起こらなかったクローンは正常な子孫のために未熟期の細胞と考えることができる。この細胞は新しい試験管い植え継いで継代培養し、植継の度に MRテストを行い、接合がたを発現する成熟期になったことを確認する。通常、 カリオナイドクローンを18 180 mmの試験管を使用して培養した場合、5-7回の植継で成熟期になる。未熟期や成熟期の各段階の培養を10度で保存すると同じ株を長期間使用できる。

 6) ゾウリムシは細胞分裂回数に依存して老化して稔性が低下するので、若い時期に交雑して子孫の作成をしなければならない。P. caudatumの場合には、接合後、約700回分裂で老化し、クローン死する。P. caudatumは1日で3回分裂するので、寿命は7-8ヶ月であり、クローン死する。稔性が高いのはその前半であることに注意しなければならない。


2.交配反応活性が高い生細胞とその相補的接合型の死細胞を混合して自系接合を誘導する方法

   準備中

3.交配反応活性が高い生細胞とその相補的接合型の繊毛等を混合して自系接合を誘導する方法

  準備中

4.交配反応活性が高い一種類の接合型細胞に化学薬品で自系接合を誘導する方法 (MIYAKE Akio の方法)

準備中

5.交配反応活性が高い一種の接合型細胞にメチルセルロースで自系接合を誘導する方法 (YANAGI Akira の方法)

1) メチルセルロース100を脱イオン水に溶かして2.5% (w/v)の原液を作成し、冷蔵庫に保存する。

2) メチルセルロース原液0.5 mLと当量のクローン化した細胞浮遊液を約1 mLのデプレッションスライドグラスで混合し、23-25度で維持する。混合後3時間ぐらいに、ドリル氏液を約1 mL入れたデプレッションスライドグラスにマイクロピペットと実体顕微鏡を使用して1穴に1接合対を入れる。大核原基が成長するために必要な48時間はドリル氏液に入れたままにし、培養液は加えない。

  交配反応活性が強い時期の細胞でなければ接合対を誘導できないことに注意。

3) 48時間以降に各接合完了体を1 mLの培養液を入れた滅菌した試験管に移す。雑菌などのコンタミを防ぐために、培養液に移す前に、クローニングの方法で新鮮な培養液で接合完了体を洗浄したほうが良い。高率よく子孫のクローンを得るためにはカリオナイドクローンを作成した方が良い。クローンが十分に増殖したら新鮮な培養液を加える。試験管培養が定常期に達したら、その一部を成熟期の4種の接合型細胞(接合型のテスター)とデプレッションスライドグラスないで混合し、交配反応の有無を確認する。交配反応が生じたクローンは旧大核の再生 (Macreonuclear regeneration, MR)が起こったしたクローンなので廃棄する。交配反応活性が観察できないクローンを新しい試験管に植え継いで継代培養を行い、植継時にMRテストを行う。2−3回の植継で交配反応を確認できないクローンは正常な子孫であるので、低温 (10度)で長期保存し、クローンの一部を23-25度で培養して成熟期になったら接合型を判定する。


参考論文

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