QPEXは、日本全国の842都市で暖房エネルギーのシミュレーションが可能です。仮に、仙台以外で建設した場合の暖房エネルギーが左のグラフになります。(実際の建設地は名取市)
仙台では、143ℓ(20℃設定全室全館暖房)となりましたが、北海道では300ℓを超えることが分かりますし、東北地方の中では際立って有利な地域であることもわかります。
また、省エネ基準区分による線引きが、エネルギー消費量と必ずしも比例関係に無いことも注目すべき点です。特に日本海側の地域では灯油消費量が大きくなりります。これは、他でもない日射量の差に尽きます。
同時にこれら結果は、省エネ設計が、地域・状況によって傾向が異なることを示しています。セオリーはあるにせよ、その建設地でベストな設計を行うためには、きちんとした検討を着実に行うことが大切です。そして、この設計を行うための設計ツールとして開発されたのが、QPEXです。
2002年のver.1.0のリリースから既に18年が経ち、コンセプトは一定に保ちながら、機能は大きく進歩して現在に至っています。
本設計では、様々な断熱仕様を設定比較しながら、最も効率が良くて誰でも手に入れられる材料を使い、ローコストで暖房エネルギー削減効果の大きい構法或いは設備を選択し、適切なエコハウス設計に取り組んでいます。テーマは、誰もが手軽に実現可能なローコストな高性能Q1.0住宅の実現である。高断熱住宅をつくる技術はすでに成熟期を迎えており、整理されつつあるが、一般的な住宅に比べて建築費が高くなる傾向にある。熱計算プログラムを設計ツールとして使い、住宅のエネルギー消費量をきちんと評価しながら、コストと性能のバランスを見て設計を進めました。
適切な断熱仕様を決定するに際して、断熱厚による比較は勿論、開口面積やプラン・プロポーションも変更しながら、何度もシミュレーションを繰り返し行ないました。グラフは、各部の仕様を決定するにあたって行った検討比較のごく一部である。ゆりが丘の家の仕様とした暖房灯油消費エネルギー143(ℓ)に対して、それぞれの仕様に変えた場合のエネルギー量を示しています。
◆躯体断熱性能
A 外壁断熱比較検討
デザインを整えながら階高を調整し、設計では階高を2.65+2.6mとしましたが、この時、通常の階高とのエネルギー比較を行っっています。シンプルなプランや形状とすることも含めて、外皮面積が縮小することによる削減効果は思いのほか大きいのです。断熱を厚くすることだけではない省エネ手法も同時に進めるべきです。尚、200mm断熱クラスの断熱仕様を数通りの想定すると、若干他よりも消費エネルギーは多くなりますが、材料コスト・施工容易性等を総合的に考えてHGWによる105mm付加断熱を選択しました 。
B 天井断熱比較検討
試算すると、天井断熱は他の部位と異なり、断熱厚さの影響をほとんど受けない事が分かります。本設計では、HGWを105×4層=420mmとしても7ℓの削減効果にしかならないため、費用と効果から、HGW105×3層の妥当性を確認して仕様を決定しました。
C 基礎断熱と床断熱比較検討
通常基礎断熱とする場合、基礎全体を断熱し、床断熱部位は無い事がほとんどです。この場合、熱損失を抑える視点から、外周立上り部は勿論、土間レベルにも全面断熱材を敷き込む工法が必須条件になります。だから、大きなコストを要することになりますが、1F床レベルの気密施工が容易になるというメリットがあります。その点、床断熱はローコスト工法ではあるが、1F床廻りの施工に少し難点があり、寒冷地では、床下の水道凍結等への備えも必要になります。そこで、ゆりが丘の家では、それぞれのメリットを生かしながら、ローコストで出来る基礎+床断熱のハイブリッド工法としています。
◆換気設備
換気設備の選択は、グラフからも見てわかる通り、第3種換気とした場合、暖房エネルギーは極めて大きくなるから、換気は熱交換換気設備が必須であることが分かります。加えて、熱交換換気設備を使用する際には特に気密性能がしっかりと確保されることがエネルギー削減にとって重要です。ゆりが丘の家は実測値C=0.2でしたが、計算上C=0.5として試算しています。尚、常に熱交換性能と換気設備としての機能を発揮するために、メンテンナンスの容易性も非常に大切になります。ここでは、天井高さ2.1mの天井に設置し、いつでも目も手も届き清掃が可能な位置としています。
◆開口部設計
恵まれた敷地条件から、南面からの日射取得を最大限に生かした暖房エネルギー削減に狙いを絞っています。南面の窓面積の違い・方位によるガラスによる使い分けや違いを何度も繰り返し、設計仕様を決定しています。本設計条件においては、南面の窓面積は可能な限り大きく、全方位の窓とも日射取得型のトリプルガラスを採用する事がベストな選択と結論付けました。UA値で判断するのではなく、暖房エネルギーで評価する事が重要なポイントです。尚、PVCサッシは、ペアガラスとトリプルガラスのコスト差が、比較的小さくなっていることもこれを可能にした要因の一つです。
プランは同じでも、その説明や解説を、一般ユーザー向けと専門家向けに分けて行っている。一般ユーザーにとって必要な情報と専門家として注力した点について、しっかりと整理して認識する上で設計者として大切なことだと感じている。
本邸は、安価で安全性の高い高性能グラスウールをきちんと使い、その断熱性能が長期間にわたって安定して発揮できる高断熱住宅のつくり方に沿って建てられています。断熱性能が良ければ、工法や使用する断熱材はどうあっても良いという姿勢は、設計者として説明が出来ないからです。きちんとした材料を使い、安全で信頼性の高い工法で高断熱住宅を実現したいと思います。ここでは、グラスウールによる高断熱住宅…Q1.0住宅にこだわってつくっています。今、グラスウールによる高断熱住宅工法の基本として、硝子繊維協会がGWS工法と名付けて広く普及活動を行っている。<硝子繊維協会によるGWS工法の紹介及び解説>は、こちら
※ゆりが丘の家は、省令準耐火構造を取得しています。木造住宅でありながら、高い耐火性能を持ち合わせています。
外装仕上げには、手の届く範囲を、無塗装の30mm厚の杉板張りとし、ライフサイクルコストを考慮した触れられるデザインとしました。縦張り部は、10mm・横張り部は30mm透かしのオープンジョイント目透かし張りとし、対紫外線性能を持った透湿防止シートを使っています。
横張り部分は、ワインレッド色のシートを使い、桁上部分とカラーリングを合わせています。
又、ゆりが丘の家では、太陽光パネルを搭載しています。特に小さな住宅で太陽光パネルを計画すると、集熱面積を広くするため片流れ屋根が多くなりがちです。本邸においてもこれは同様ですが、この時、外観プロポーション…特に棟側のファサードは、重心が高くなり少し間が抜けてしまいがちになります。ここでは、桁高さ位置で外装をセットバックさせて切り替えることによって、水平ライン出して落ち着きを持たせています。
デザインにかかわる窓位置については、居室にとって必要な窓を整理し、今回は小窓が数多く必要となることを利用して、敢えてランダムに配置してみました。将来間仕切りした時の窓としてきちんと機能するようなサイズや場所、あるいは、下屋へ出てメンテナンスできるための高さのある窓の配置…と、どの窓も意味のある窓です。デザインだけを考えると統一性を持たせたいところですが、生活機能も重要です。
太陽光発電パネル搭載住宅の1デザイン手法として提案です。
高断熱住宅は基礎断熱が一般的な断熱方法として確立されました。特に寒冷地では、冬期の水道配管凍結防止のための水抜きに対する心配が無いから、基礎断熱が普及した背景があります。これが、全国的に広まり、現在に至っています。
しかし、熱損失の観点から考えると、床断熱と比べてどうしても損失が大きくなります。更に、基礎断熱にすれば、床下暖房ができるメリットがありますが、土間下全面断熱が必要です。
一方で、床断熱工法の場合、キッチンや洗面・トイレ等水廻りの給排水配管が、床断熱層や気密層を貫通して外気と繋がって熱的な弱点です。
そこで、ゆりが丘の家では、基礎断熱工法と床断熱工法とのそれぞれのメリットを生かしたハイブリッド工法としました。配管のある水廻りゾーンは基礎断熱とし、配管貫通のないゾーンは熱損失重視の床断熱としています。床断熱工法は、新住協との共同開発部品『床断熱フック』(日本住環境㈱)を利用して、スピーディー且つ簡単にグラスウールによる155mm厚が出来るから、極めてメリットは大きいです。
一般的なツバ付きの樹脂サッシを躯体に内付で納めて、フレームからの熱損失を抑えるようにしています。外装が塗り壁なので、三方は巻き込み、下端をアルミの既製品水切を使用しています。
夏の通風のため安心して常時開放できるようドレーキップ窓をメインに使用しています。ドレーキップ窓の場合、下がり壁を設けないと、内倒しポジションの際にカーテン類を天井に取り付けようとすると干渉してしまうので、ロールスクリーンを天井埋込みで納めています。網戸もロールスクリーンも室内から見えず、シンプルに納まってすっきりします。
高断熱住宅の夏対策は
・完全な日射遮蔽
・適切な通風
がしっかり出来る設計を行う事に尽きます。ここでは、室内に熱気だまりを作らないよう建具も窓も天井から開口し、下がり壁によるいわゆる『弁当箱』とならないようにしています。暖まり軽くなった空気を天井付近から抜くというオーソドックスな通風という基本的手法だが、なかなか徹底できている住宅は少ないように思います。仙台は、昼間の徹底した日射遮蔽で日射熱を排除と、夜間の涼風による通風で過ごすことが出来る地域です。
とは言え、猛暑が続く際は、全室冷房を行えばよいのです。エアコン1台による冷房で省エネで快適に過ごすことが出来てしまうからです。冷房負荷は小さいので、窓を閉めて全館冷房を標準的な生活スタイルとするのも、新しい高断熱住宅の暮らし方という人も大勢います。
いずれにしても、夏・冬・その中間期とそれぞれを気持ちよく省エネで過ごすことができる設計の基本的な勘所は押さえておかなければなりません。
躯体の耐久性向上で、適切なメンテナンスを繰り返しながら、長く住み継いでいく事は、エコロジカルな建築にとって極めて重要ですが、殊更、屋根材は、目も手も届かず傷めてしまいがちであり、ライフサイクルコストにとって重要です。
ゆりが丘の家は、屋根材一体型の太陽光発電パネルを搭載することにより、長期的な安全性をメインに、プラスアルファの創エネとしました。特に夏の冷房時は太陽光発電による電気を使いますから、相性が良いです。
高い止水防水性から、屋根材一体型太陽光発電パネル~タニタハウジングウェア㈱のエコテクノルーフを採用。道路側軒先をシャープに見せる納まりとしています。但し、緩勾配なので、太陽光パネル面は通常どこからも見えません。