南東北の高断熱住宅3号&4号 巻頭特集 

事例から学ぶQ1.0(キューワン)住宅 高断熱住宅のつくり方

「高断熱住宅の専門家が仙台に自宅を建てた」

For General Users vol.1

久保田 淳哉 Jynya Kubota

Q1.0住宅 考えて・つくって・暮らしてみて

高断熱住宅の第一人者、鎌田紀彦先生(室蘭工業大名誉教授)が指導する一般社団法人新木造住宅技術研究協議会(以下新住協)理事の久保田淳哉(一級建築士)が令和元年5月に自宅を完成させました。自ら土地を選び自ら基本設計から詳細設計にいたるすべてについてデザインした住宅です。コンセプトは特別なことをしないで暖房燃費を大幅に減らす超省エネ住宅。どんな考えでどんな設計がなされ、どんな仕様になったのでしょうか。そしてどんな結果・暮らしにになったのでしょうか。

これから家の新築改築を計画する人に向けての特集です( ^)o(^ )

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高断熱高気密住宅専門の雑誌本『南東北の高断熱住宅第3号』に掲載されている特集記事の完全版です。

◆Q1.0住宅…ゆりが丘の家

仙台市内まで車でおよそ30分…名取市ゆりが丘に、妻と幼稚園に通う長男との3人で暮らす自邸『ゆりが丘の家』を構えました。2019年6月から生活をはじめています。

本住宅最大の特徴は、「Q1.0住宅Level4」。およそ60畳の住宅全空間の暖房燃費が、灯油年間約143ℓで済む超省エネ性能(室温20℃設定)です。それでいて、家の中に温度差を感じない、極めて快適な環境になっています。最も外気温が下がる1月でも、1日の暖房は灯油平均1.5ℓ程度です。あの東日本大震災のような大災害で、暖房ができなくなったとしても、寒さによる心配はほとんどありません。仙台という、日射が多い太平洋側の恵まれた利を活かした超高断熱省エネ住宅です。

◆設計で考えたこと

皆さんは「超省エネ住宅」と聞いて、どのようなイメージをもたれるでしょうか?

何か特別な設計や仕掛けが備わっている…或いは、最新設備が備わった最上位のモデルハウス…と思うかもしれませんが、決してそうではなく、「ゆりが丘の家」で特に留意したことは次の3点です。

① 断熱・・・住宅のどの部位に何をどれだけ断熱するか、その手法

② 窓・開口部・・・配置や大きさ、ガラスの選び方

③ 換気・・・機器の選び方と運転方法

上記3点は、省エネ住宅を設計するときの、最も大きな設計ポイントです。熱ロスの大きい部位であることと取得熱の大小に関わるからです。また一方で、これらは、どんな住宅でも、何らかの仕様が決められて建築されます。したがって、個々の建築条件を踏まえたうえで、この3点を以下に上手に設計するかが省エネ住宅をつくる要点になります。

この設計のポイントには、セオリーはありますが、解は異なります。建設地の気象条件や建物の周辺環境によってかわるです。その環境に適し、特長を生かした設計が、より上手な設計者といえます。

ゆりが丘の家では、これら3つのポイントと同時に、後述しますが、土地の選び方やプランニング等、省エネにつながる全ての要素について、要点を着実に押さえ、積み上げる事によって、暖房エネルギーが小さくなる設計を実現しています。特別な設備や特別な仕掛けがないと述べたのはこの理由からです。

高性能GW105mmの付加断熱 木下地が3尺ピッチであることがポイントです。
HGW16K105mm厚マット品を3層重ねた315mm厚の桁上断熱…耐震性能と気密性能を桁に貼った合板で確保し、その上に高性能グラスウールを敷きならべることで断熱性能を確保する合理的な工法
大引間にHGW16K105mmを充填した上でその下側にGWボード50mmを施工した新しい155mm厚の床断熱工法を採用。熱損失を小さくしやすい床断熱のストロングポイントを生かした計画

◆具体的な仕様の決定

では、それらをどのように決定したか、決定までのプロセスを部位ごとに記します。

1 躯体断熱

1-1 天井

通常、天井部分に断熱する場合、専門業者が天井裏にグラスウールを吹込む天井断熱としますが、吹込みグラスウールの性能があまり高くありません。そこで、気密工事・断熱工事が極めてシンプルに行うことができる桁上断熱工法を採用しました。桁上断熱では、桁の上に合板を貼ることによって、気密層を簡単にきちんと形成することが出来て、断熱層もその合板上にマット品のグラスウールを敷き並べて重ねれば良いから、誰でも施工が可能です。そして、吹込み工法よりも断熱性能は格段に向上します。厚みは105mm×3層=315mm厚としました。計算すると、3層の理由は、仮に4層とした場合、暖房エネルギーは、143ℓ→136ℓと増分の断熱材の割に、わずかな効果しかないためです。断熱厚が厚ければ良いと盲目的に仕様を決めるのではなく、どこまで増やすのが最も性能と費用のバランスが良いかいう検討こそが大切です。尚、桁上断熱の構造面でのメリットとして、桁上面に所定の合板を貼ることによって、水平剛性が高まり、耐震性向上が簡単に得られることも付け加えておきましょう。


1-2 外壁

不燃材料である高性能グラスウールによる105mm厚柱間の充填断熱は勿論、加えて、躯体の外側に同じく高性能グラスウール105mm厚の付加断熱としました。付加断熱材は、単に断熱性能だけでなく、外部からの延焼による火災に対して安全な材料を選びたいところです。充填断熱のみの105mm断熱の場合、暖房エネルギー291ℓに対して、付加断熱をした総厚210mm仕様は、143ℓと約半分に削減されます。外壁は、面積が大きいので、105mm付加断熱効果は、極めて大きいのです。更に、厚手化して、充填105+付加断熱200=総厚305mm断熱まで行うと、143ℓ→104ℓまで削減でき1/3にできます。でも、削減率は大きいですが、実態は40ℓ程度です。そこでここでは、105mm付加と200mm付加では、付加断熱下地の施工手間が全く異なり、増える厚み以上に簡単に出来ることではないと判断しました。施工コストと効果について、仙台(実際の建築は名取市)ではコストパフォーマンスが良いとは言えないと考え、210mm断熱をベストな仕様とした理由です。


1-3 床

通常の一般的な床断熱とする場合、玄関と浴室だけ基礎断熱とし、それ以外を床断熱とします。床断熱は、基礎断熱に比べてローコストで、しかも熱損失が小さい工法です。しかし、キッチンや洗面・トイレ等水廻りの給排水配管が、断熱層や気密層を貫通することから、施工時には、その処理に注意が必要となります。更に、床下空間が外気と同じ環境になるので、寒冷地では冬場の水道凍結防止対策も必要になります。これに対して、基礎断熱はそれらの心配が無いため、特に寒冷地で普及している工法です。自邸では、いずれの工法のメリットをうまく生かすべく、ローコストで熱損失が小さくできる床断熱を基本としながら、台所やトイレも含めた水廻りゾーン一体を基礎断熱とするハイブリッド工法で計画しました。面積比はおおよそ床断熱7に対して、基礎断熱3です。仮に、全て基礎断熱で、同じ暖房エネルギーにしようとすると、ボード状断熱材を土間コンクリート下全面に100mm厚を敷き込んだ上に、基礎立上りの両側に65mm厚程度が必要になり、コスト差は歴然です。

ペアガラス樹脂サッシ APW330の断面自邸では採用しなかったが、設計条件によってはペアガラスの方が省エネ効果が高い或いは同等というケースは多く有る。適材適所が大原則である。
今回使用したトリプルガラス入りの樹脂YKKAP APW430(外観色:プラチナステン/内観色:ホワイト)ガラス:2Ar2LowE16mmニュートラル(U=0.65/η=0.46)

2 開口部・窓

2-①サッシ

窓の大きさ、方位、デザイン、開閉方式…と様々な組み合わせをQPEXでシミュレーションを重ねた結果、国産樹脂フレームAPW430を選択し、ガラスのラインナップ中で、最も日射取得率の良いArLowE16mmトリプルガラス(Ug=0.65/ηg=0.46)を、全方位の窓に採用することにしました。本来、ガラスの使い方として、南面の大きな窓には日射熱取得のために例えばペアガラスを使い、それ以外の窓には断熱重視でトリプルガラスを採用し、暖房エネルギーを小さくするといった手法がセオリーとしてあります。しかし、自邸では、全窓トリプルガラス仕様が、最も燃費が小さくなります。これは、極めて日射条件が良いために、取得熱が若干ペアガラスより減っても十分な取得熱であることと躯体の高い断熱性能による複合的な理由から、その理由と考えられます。条件によってまたガラリと設計が異なる部分ともいえます。

一方、QPEXシミュレーション結果の他にも、トリプルガラスの高い断熱性能によってガラス表面温度が下がらないこともメリットになります。大きな窓を採用する場合は、若干注意が必要です。また、全窓トリプルガラス仕様と南面ペアガラス仕様との価格差が、驚くほど大きくならなかったこともオールトリプルとなった要因です。


2-2 玄関ドア

断熱性能よりもデザイン等で決めてしまいがちな玄関ドアですが、案外住宅全体の燃費に与える影響も大きい『開口部』です。特に間仕切りがなく、直接リビング空間へアプローチする開放的な自邸のようなプランでは、しっかりと断熱された気密性の高いドアにする必要があります。拙宅では、トリプルガラスが入った木製断熱ドアを採用しています。当然の事ながら、結露は全くない。ちなみに、デザインは新住協で行ったモデルです。

ガデリウス製木製玄関ドア(KG-SJ05)オーク(U=1.19)
パナソニック㈱熱交換換気(FY-14VBD2SCL)を使用…本体から集中排気するカセット型

3 換気設備

換気による熱ロスが占める割合は極めて大きいので、熱交換換気設備の採用は、超省エネ住宅にとって必須となります。実際、熱交換のない第三種換気とした場合は、322ℓと、およそ倍以上となります。一般的に冬期に乾燥傾向となる高断熱住宅では、熱だけでなく水蒸気(湿度)も回収する全熱交換式の熱交換換気の方が適しています。ゆりケ丘の家では、全熱交換式(効率84%)の熱交換換気設備1台で、住宅全体をコントロールしています。但し、換気設備は、単に効率だけでなく、実際の運転設定が重要です。住宅の気積と隙間相当面積(C値)から、必要な風量をきちんと見極めた上で、それを満足する運転モードから、ファンの運転騒音が小さく、消費電力も小さくなる省エネな最適設定できちんと運転しなければなりません。

◆性能はU値より暖房燃費重視 (QPEX計算結果)

住宅の断熱性能は下記の通りです。UA値=0.29(W/㎡K) Q値=0.86(W/㎡K)です。しかし私はこの値よりも、年間暖房燃費が143㍑を重視して、最終仕様を決定しました。実は、その値は省エネ基準比1/6という超低燃費性能で、いくつかのQPEXシミュレーションを進めていて、コストパフォーマンスからもこのあたりが落としどころとしたのです。

省エネを表す指標として使われる「UA値」があります。UA値は熱損失量だけで決まるため、日射熱は一切加味されません。だから、UA値を小さくする目的で住宅を設計するなら、たとえば、ひたすらに窓を小さくすれば良く、そこに設計の工夫やアイディアは必要ありません。U値だけでは本来の省エネ住宅はできません。

今、断熱等級6です。

熱計算プログラムQPEXの計算結果ページ…UA値やQ値も計算されるが、大切なのは暖房エネルギーがいくらかかるか?灯油で〇ℓ・ガスなら〇㎥・電気なら〇kWh…をいかに賢く上手に削減するかが、省エネ設計のポイントです。
R1年12月~R2年2月における実際の灯油消費量の結果表

◆暖房燃費の計算値と実際の消費 (灯油消費量実測R1年12月~R2年2月)

前述したように、QPEXシミュレーションにより、ゆりが丘の家は、住宅全体を24時間20℃設定で暖房した場合、シーズントータルの灯油消費量が143ℓとなっています。これは、説明義務基準としての省エネ基準を満たした住宅と比較し、1/6以下の燃費で済む性能です。

では、実際の消費量はどうなったでしょうか。私は、暖房と給湯などの用途別に消費量を測定しています。そのうち、暖房の日ごとの消費量が上表です。偶然にも計算値に近い消費量になったので、私自身も驚いていますが、12月は31.9ℓ必要というシミュレーションに対して実測33.3ℓ、1月及び2月は、予測45.2ℓ・29.9ℓに対して、それぞれ42.3ℓ・36.2ℓと、ほぼ試算通りの結果が、実測値として得られています。(11月は暖房の必要がありません)

暖房の運転方法は、間欠運転である。しかし、連続運転をしようとしても、暖房が切れてしまうため、結果として間歇運転になり同じことになる。暖房設備が小さくてもこのような室温経過となる事からも、過剰な設備は全く必要がない。

◆室温の状況 (測定グラフ)

実際の生活は日中留守になるので、その時間は暖房を停止しています。左の温度グラフのように、日射がある日中は暖房が必要ない温度にまで室温は上がります。ストーブの稼働時間が短くとも寒く感じる温度には低下しません。

また、暖房を切っても翌朝のリビングは18℃を下回ることはない高断熱住宅は、暖房を停止すると極めて緩やかに室温が下がりだし、暖房運転を開始すると即室温に反応することが分かります。

難しく考えることは無い。1階・2階と2層に分かれたワンルームライフとなる。

◆生活感

小さなストーブ1台で家中のどこも同じように寒くありません。妻は、家計に易しいことは勿論だが、何をするにもストレスが無く、特に子育てのしやすさに、喜んでいます。子供をお風呂に入れる・早起きして弁当を作る…日常の家事をこなすたび、高断熱住宅のありがたみを感じられると言いいます。

又、以前は、冬になると肩凝りが酷くて困っていたのが、それがすっかり無くなってしまった事を不思議に感じています。これは、どうやら寒いアパート暮らしの時代は、知らず知らずのうちに寒さで肩に力が入っていたせいだと思います。

以上がゆりヶ丘の概要です。