生物基礎用語の覚え方
こんにちは。講師の大西です。
先日、生物基礎の「ホルモン」の分野を勉強中の塾生が、次のようなことを言っていました。
「どこからどんなホルモンがどのようなきっかけで分泌されて、どこでどんな働きをするのか、覚えることが多すぎます!
とにかくややこしい……!」
確かに、生物は理科4科目の中でも、覚えるべき事項が特に多い教科です。
ですが、覚え方にはコツというものがあります。
コツを知ることで、それまで覚えられなかった事項がスッと頭に入ってくることは往々にしてあります。
そこで今回のブログでは、生物用語の「名称」に着目して、頭に残る覚え方を私なりに伝授したいと思います。
少し長くなりますが、生物基礎を勉強中の方はぜひ読んでみてください。
名は体を表す
「名は体を表す」という言葉があります。「名前はそのモノの性質や実体をよく表している」という意味の言葉です。
当たり前のことを言いますが、名前はランダムな文字列ではありません。
奄美大島にいる黒いウサギだから「アマミノクロウサギ」。生息場所も色も違うのに「ユゲノシロウサギ」なんて名前だったら納得がいきませんよね。
人の名前でも、物の名前でも、そこには由来があります。
由来を知ることで、そのモノの名前や特徴、関連する事柄を覚えやすくなります。
たとえば、お隣の広島県にはサンフレッチェ広島というサッカーの強豪チームがあります。
「サンフレッチェ」という名称は、日本語の「三」とイタリア語で矢を意味する「フレッチェ(frecce)」を合わせたもので、かつて広島に拠点を構えていた戦国大名・毛利元就の有名な「三本の矢」のエピソードにちなんでいます。
一見、何の関係のなさそうなサッカーチームの名前の由来を知ることで、「広島ー毛利元就ー三本の矢」というひと繋がりの知識がスッと入ってきたのではないでしょうか。
ちなみに、サッカーの他にも野球やバスケなど、スポーツチームの名前にはその土地にまつわるものや、ゆかりのあるものが多く取り入れられています。調べてみると楽しいですよ。
もちろん、サンフレッチェ広島の名前の由来などは正直、ただの雑学に過ぎません。
ですが普段みなさんが高校で学んでいるようなことについても、知らず知らずのうちにこのような覚え方を実践している場面は多いはずです。
たとえば、日本史で習う古墳の形式の一つに「前方後円墳」があります。
これも「前側が方形(四角形)で後ろ側が円形の古墳」という名前の由来をセットで覚えておけば、テストに出たときに「えーと、あの鍵穴みたいな形の、、、なんだっけ....。」と迷うことはありませんね。
また、古文に出てくる活用形は「未然形・連用形・終止形・連体形・已然形・命令形」の6つですが、こちらも「『未だ然らず』で未然形」、「『用言に連なる』で連用形」、「『已に然り』で已然形」などと、書き下す形で覚えたのではないでしょうか。
英単語を「語源」や「語根」で覚えるという人も多いでしょう。これも名称に着目した効果的な暗記法の一種です。
鉄(Fe)にクロム(Cr)やニッケル(Ni)を加えた合金をステンレスと言います。アルファベットで綴ると、"stainless"。
stain(よごれ)がless(少ない)、つまりサビにくいというステンレスの特徴を言い表した単語なんですね。
競馬のサラブレッドは、"thoroughbred"。こちらもthorough(完全に)とbred(育てられた)に分解され、「純血」を意味します。
thoroughなどは、発音も難しいし、綴りも複雑だし、最初に単語帳で見たときは私自身「とっつきにくい単語だなあ」と思いましたが、サラブレッドの「サラ」の部分であると知った途端、たちまち親しみが湧いてきました。
「ステンレス」も「サラブレッド」もカタカナ語としてあまりに馴染んでいるため、もはや「すてんれす」、「さらぶれっど」という音で覚えてしまっている人が多いと思います。
ですが、このように原義を確認してみることで、英単語のストックが増えるだけでなく、日常的に接してきた言葉を新鮮な目で捉え直すこともできるようにもなります。
「名称に注目する」ことの意義と効用について、ご納得いただけましたでしょうか。
名称それ自体に注目することによって、その言葉にいわば「色がついて」見えるようになるのです。
ずいぶん前置きが長くなってしまいました。それでは本題に入りましょう。
「ホルモン」を語源で覚える
そもそもホルモンとは、内分泌線と呼ばれる特定の器官から体液中に分泌され、別の特定の組織や器官のはたらきを調節する物質のこと。
常に一定の量が分泌され続けるというわけではなく、必要な時に必要な分だけ、必要な場所に送り届けられるよう、さまざまなしくみによって調節されています。
そのため、ホルモンそれ自体の名称のみならず、その物質がどういった時にどこで作られ、どこで作用するかも覚える必要があります。
たとえば、最初に発見されたホルモンとして有名な「セクレチン」ですが、こちらは十二指腸でつくられ、すい臓で作用するホルモンです。(ちなみに、この「セクレチン」も「分泌する」という意味の"secrete"に由来しています。)
こっちのホルモンではありません
では、生物基礎で習うホルモンについて順番に説明していきます。
内分泌腺と標的器官(作用する場所)にも注意しながら読んでくださいね。
○バソプレシン(内分泌線:脳下垂体後葉)
体内の水分が失われた際に分泌されるホルモンで、腎臓の集合管での水分の再吸収促進や、血圧の上昇に関与します。
結果として尿量が減少するため、抗利尿ホルモン(ADH:Antidiuretic hormone)とも呼ばれます。
語源に注目すると「vaso(管)+press(圧迫)+in」と分解できます。
再吸収が促進され、血液量が増えることにより、血圧が上がるというわけですね。
○チロキシン(内分泌線:甲状腺)
あまり知られていませんが、甲状腺とは、喉ぼとけの下あたりにある羽を広げた蝶のような形をした内分泌線のことです。
英語ではThyroid gland(サイロイド・グランド)と言います。
ここから分泌されるのが、チロキシン(thyroxine)。
英語読みするとサイロキシンになることを頭に入れておくと、「チロキシン=甲状腺」と記憶することができるのではないでしょうか。
さまざまなはたらきを持つホルモンですが、ざっくりと「物質の代謝促進に関わるホルモン」と覚えておけば良いでしょう。
甲状腺(蝶ネクタイではありません)
○カルシトニン(内分泌線:甲状腺)
同じく甲状腺から分泌されるのがカルシトニンです。
こちらは血液中からカルシウムイオン(Ca2+ )を骨に取り込むことで、血中のカルシウムイオン濃度を低下させるホルモンです。
カルシウムの調整に働くから「カルシトニン」です。単純ですね。
○パラトルモン(内分泌線:副甲状腺)
甲状腺の裏側に張り付いている米粒大の小さな臓器が、副甲状腺です。
ここから分泌されているのがパラトルモン。
カルシトニンが血中カルシウムイオン濃度の低下に働くのに対して、こちらは逆に骨からカルシウムイオンを血中に溶出させることで、血中カルシウムイオン濃度を上昇させるホルモンです。
両者は拮抗的に作用するのですね。
副甲状腺は英語だと"Parathyroid gland"。
"para-"とは、「〜の近くに」という意味の接頭辞です。
弁護士モノのドラマをご覧になる方はご存知かもしれませんが、法律事務所には弁護士の業務を補助するスタッフとして、「パラリーガル(paralegal)」なる肩書きの役職があります。
また、生物基礎関連でいうと、交感神経のことを英語で"sympathetic nerve"と言うのに対し、副交感神経は"parasympathetic nerve"と言います。
副甲状腺もこれらと同様です。甲状腺のそばにあるから「パラ」サイロイド。
もうお分かりですね。副甲状腺(parathyroid)から出るホルモン(hormone)だから、パラトルモン(parathormone)。
ネーミングがシンプルなので、学習者にとってはありがたいですね。
○糖質コルチコイド(内分泌線:副腎皮質)
副腎については、皮質と髄質、つまり外側と内側とで分泌するホルモンの種類が異なりますので、気をつけてください。
副腎皮質から分泌されるのは、糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドです。似ている名前なので、セットで覚えるのが良いでしょう。
糖質コルチコイドは、その名の通り「糖」に関わるホルモンです。
具体的には、組織でのタンパク質からのグルコース(糖)の合成を促進させることで、血糖値を上げるホルモンです。
血糖濃度の上昇に関わるホルモンは糖質コルチコイドの他にも、アドレナリン、グルカゴン、インスリン、成長ホルモン、チロキシンと数多くあります。
ですが、これらはいずれも肝臓に貯えられたグリコーゲンをグルコースに分解することによって血糖値を上げる点で、糖質コルチコイドとは異なります。
この違いは試験でもよく問われるところですので、注意してください。
○鉱質コルチコイド(内分泌線:副腎皮質)
副腎皮質から分泌されるもう一つのホルモンが鉱質コルチコイドです。
「鉱質」とは、ミネラルのこと。つまりカリウムやマグネシウム、ナトリウムといった無機質のことです。
このホルモンはその名の通り、体液中のナトリウムイオン(Na+)濃度やカリウムイオン(K+)濃度の調節に働きます。
ところで「コルチコイド(corticoid)」という変わった名前についてですが、こちらは副腎皮質(adrenal cortex)から分泌されるステロイド(steroid)ホルモンを意味しています。
ステロイドホルモンとは、コレステロールを材料につくられたホルモンの総称です。
○アドレナリン(内分泌線:副腎髄質)
アドレナリンは日常会話でもよく聞きますし、もっとも人口に膾炙しているホルモンの一つではないでしょうか。
いわゆる「闘争か逃走か」の場面に際し、交感神経が興奮することによって分泌が高まるホルモンで、主な働きとしては、グリコーゲンの分解促進や心臓の拍動促進が挙げられます。
例によって「アドレナリン」という名称も分泌源である副腎(adrenal gland)に由来しているのですが、その名付け親はタカジアスターゼで有名な高峰譲吉博士らであることでも知られています。
○グルカゴン(内分泌線:すい臓ランゲルハンス島・A細胞)
「世界でいちばん小さな島はなーんだ??」————「ランゲルハンス島!」
・・・唐突に失礼しました。
グルカゴンはアドレナリンと同様、グリコーゲンの分解促進によって血糖濃度を上昇させるホルモンです。
こちらは覚えやすいですね。血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度を上げるので、グルカゴンです。
ちなみに「ランゲルハンス」というのはこれを発見したドイツ人医学者の名前です。
なぜ「島」なのかというと、膵臓の組織内に散在している様子が、発見者のランゲルハンスさんの目にはまるで海に浮かぶ島々のように見えたからだそうです。
ランゲルハンス島
○インスリン(内分泌線:すい臓ランゲルハンス島・B細胞)
インスリンも糖尿病との関連で、非常によく耳にするホルモンの一つです。
主な働きはグリコーゲンの合成促進と組織での糖消費促進、つまり血糖濃度の低下に働きます。
血糖値を下げる働きをする唯一のホルモンとして覚えておきましょう。
先ほどもご説明したように、血糖値を上げるホルモンはたくさんあります。
しかし一方で、血糖値を下げるホルモンはインスリンのみです。実際問題、インスリンが分泌されなくなったり、働かなくなったりすると、糖尿病になってしまいます。
なぜこのような不均衡が生じているのか、疑問に思ったことがある方もいるのではないでしょうか。
ここで思い起こしていただきたいのですが、長い人類の歴史を振り返ってみれば、お腹いっぱいにものを食べられるようになったのは、(もちろん国や地域によっても異なりますが)せいぜいここ数百年から数十年の話だという事実です。
ですので、基本的にヒトの体はお腹が空いている状態をベースに設計されていると考えることができます。
お腹が空いている状態がデフォルトなのですから、あらゆる手を駆使して血糖値を上げたいわけです。その結果、血糖上昇に働くホルモンはたくさん用意されるようになりました。
いっぽう、食べ過ぎなどで血糖値を下げなければならないといった事態に陥ることはほとんど無かったわけなので、血糖降下に働くホルモンは、インスリンだけで十分に事足りていたわけですね。つまり需要と供給がマッチしていた、と。
現代の日本人の目から見ると不思議に思えることでも、進化の過程を経た結果そうなっているわけですから、そこには必ず理由があります。広い視野、長いスパンで考えることの大切さに気付かされます。
ちなみに、インスリン(insulin)という名前は、「島」を示すラテン語の"insula"に由来しています(「半島」のことを"peninsula"と言ったりしますね)。これを知っておくと、インスリンがどこから分泌されるのかも、ばっちり覚えられますね。
他にも役立つ「語源」
ホルモン以外の分野についても、「語源」に注目した覚え方は有効です。
以下、思い当たるものを列挙します。
○「〜アーゼ」は酵素!
酵素には、接尾辞「-ase」がついているものが多いです。(ペプシン、トリプシンなど例外もあり)
・アミラーゼ(デンプン→マルトース)
・マルターゼ(マルトース→グルコース)
・リパーゼ(脂肪分解酵素。lipid(脂質)の-aseでリパーゼ。)
・カタラーゼ(過酸化水素→水+酸素)
○「〜オース」は糖!
・グルコース(ブドウ糖)
・リボース(RNA、ATPを構成する糖)
・デオキシリボース(DNAを構成する糖)
・スクロース(ショ糖。砂糖の主成分)
・マルトース(麦芽糖)
・セルロース(細胞壁の主成分)
○「〜ゲン」は「源・原」!
「-gen」は「生む」という意味の接尾辞です。generate(生み出す)などと言いますね。
hydrogenといえば水素ですが、「水(hydro)を生み出すもの」が原義です。他にもoxygen(酸素)、nitrogen(窒素)、halogen(ハロゲン)など、みな同じように説明ができます。
生物の根幹に関わる「遺伝子」も英語ではgene。
英語だと日本語の「次代に伝える」というニュアンスはありませんが、生物が生まれる際に大きな影響を及ぼすもの、と説明すれば、geneのgeneたる所以について、納得していただけるのではないでしょうか。
・アレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)
・グリコーゲン(分解して糖(グルコース)を生み出す)
・アンチゲン(抗原のこと。「抗体(antibody)を生み出す物質」という意味)
・フィブリノーゲン(トロンビンが作用するとフィブリンに変化する)
・プラスミノゲン(プラスミン(線溶にかかわる酵素)に変化する)
以上です!
本当はもう少しお伝えしたいこともあるにはあるのですが、冗長になる気がするので、このあたりでやめておきます。
テストでは聞かれないような雑学的な知識も多かったですが、雑学もまた学なり。それ自体はテストには出ないような周辺事項を知っておくことで、逆にテストに出ることについて記憶が強化されるというものです。
今回のお話が少しでも皆さんの勉強に役立てば幸いです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
次回の更新は6月15日(木)です。