*2024/10/27にresearchmapに掲載した記事を移転しました。
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2回目は、現在の滞在先での研究活動について書いてみたいと思います。私自身、以前から海外での研究活動に関心はあったものの、渡航した先でどのような生活を送ることになるのか、ごく漠然としたイメージしか持っていませんでした。国内・海外問わず、機関や指導・受入教員によって千差万別だとは思いますが、具体的なイメージを持つ一助になればと思います。
博士課程の在籍者は、学生ではなく被雇用者(employee)として扱われる
近年日本では博士課程学生、その後のポスドクの研究環境整備(ここでは)に向けた取り組みが進んできています。学振PDが受入研究機関に雇用される仕組みは、その最たるものとして挙げられるかと思います。ここオランダでは(少なくとも受入研究機関では)、ポスドクのみならず、多くの博士課程学生は所属機関に雇用され、被雇用者(employee)としての扱いを受けます。給与や社会保障制度、休暇等の福利厚生についても、大学セクター全体の労働協約で定められているそうです。私の滞在しているセクション(学部の中の部局)では、月例のミーティングにも博士課程の在籍者が参加できるなど、ほとんどの面でスタッフの一員として扱われています(私もその恩恵に与り、セクションの運営の一端を垣間見ることができています)。
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雇用されることの裏面
ここまでをお読みになると、日本と比較してバラ色の世界と思われるかもしれませんが、そうとは言い切れない面もあります。充実した環境の「裏」であると個人的に最も感じたのは、支払われる給与等々に充当する財源は(私が理解した限りでは)雇用する研究者あるいはその部局が獲得する必要があり、そのために博士課程のポジションはある種のプロジェクトの一部として募集される、という点です。例えるなら、4年の任期付で特定のプロジェクトに参加する研究者として雇用され、査読論文を2~3本書いて博士号を取る、というようなイメージでしょうか。日本の博士課程ももちろん全くテーマが自由というわけではなく、指導教員や研究室のテーマとのマッチ度合いを考えて進学先を選択することはあると思います。しかし、財源を獲得する過程で、大学として取り組むべきテーマか否か、あるいは流行りのテーマであるか否か、といった点が問われるのであれば、相対的に制約は多いのではないかと感じました(国際会議で知り合ったノルウェーの修士号持ちの人も同じことを言っていたので、オランダだけではないかもしれません)。
働き方:ランチ会、人との交流
日本、というよりも私の在籍しているコースとの違いを感じることは色々とありますが、1日の働き方はこちらに来てから大きく変わった点の一つです。私は元々早起きが苦手な方で、早い時は朝10時ぐらい、遅い時はお昼前に起き、午後に研究室に行って19時以降に帰宅したり在宅で作業をしたりして、寝るのは日付が変わった後、というのが標準的な1日のパターンでした。研究室では同じ院生の人と話すことはありますが、先生とはミーティングをお願いした際にお会いするのが主という感じだったでしょうか。
一方滞在先では、受入教員の先生が「自分のやりやすいようで構わないけど、個人的には建物で仕事をしてもらって、顔を合わせる機会を多く作りたい」という方針であることもあり、平日の多くは朝9時半~10時ぐらいには建物に着き、17時~18時ぐらいに研究室を出るという、滞在先での一般的なリズムで生活をするようになりました。
この中で面白いと思ったのは、12時半ごろからそれぞれランチを持ち寄ってランチ会が開かれることです。受入教員や事務の人を含む固定メンバー、その日に大学に来ている博士課程やポスドクの人を含めて3~8人程度で、ご飯を食べながら30~45分ぐらい雑談をするのが恒例になっています。ランチは人それぞれですが、オランダ人のスタッフはオランダ人らしいシンプルなサンドイッチを持ってきていることが多く、習慣の違いを垣間見ることができます。このランチ会以外にも、スタッフが事務室や同僚の研究室などにコーヒーを片手にふらっと立ち寄り、よく雑談をしているのを目にします。自分がこれまで経験してこなかったスタイルを体験することができるのも、在外研究の良いところだと思います。
ある日のランチ。ソーセージパン(広告の品で€0.5)とカップスープ