AIという言葉を聞かない日はないほど,AI技術は身近な存在になっています.作物生産においても,これらの技術は非常に強力なツールとなることが期待されています.私たちは現在,以下のようなテーマを中心にAI技術の作物生産科学への応用を研究しています.
※本研究の一部は科研費基盤研究(B)「イネの光合成・物質生産過程の超大規模解析基盤の構築と有用遺伝資源の探索」にの補助により行われています.
作物の生育度合いを最も端的に表すのが,地上部に存在している全乾物重,すなわちバイオマスと収穫量です.あらゆる作物生産科学に関わってくる最重要の形質といえます.しかし,これらのを測定することは多大な労力を要します.そのことが多収品種の選抜や,世界各地の生産現場における正確な生産量把握の足かせとなっています.そこで私たちは,近年進展が著しい機械学習,特に深層学習と呼ばれる手法がバイオマスや収量推定に応用できないかと考えました.深層学習ではまず,画像(この場合はイネやダイズ群落の写真)と,それに対応した真値(この場合は実際に測定されたバイオマスや収量)のセットを大量に用意します.次にこのデータセットを用い,画像からバイオマスや収量を正確に推定するモデルを構築していきます.より良いモデルを構築するためには,まずデータを大量に集めること,さらにそのデータには様々なバリエーションが含まれていることが大事です.
私たちは,様々な研究機関と連携し世界各地のイネ群落画像と,対応するバイオマスや収量を収集しました.その点数は数千点に上ります.これをもとに構築した深層学習モデルを「Rice Scouter」と命名しました.Rice Scouterにイネ画像を入力すると,それまで計測に長い時間がかかっていたバイオマスや収量が瞬時に推定可能となりました.この技術は企業との共同開発により,「HOJO」という名前でスマートフォンアプリケーションとして無料公開されています(iOS版,Android版).この技術をもとに,多収品種開発や途上国における栽培技術支援が促進されることが期待されます.今後はさらなる精度向上と,ダイズなど他作物への応用を進めていく予定です.
多様なイネ群落画像と,それをもとにした深層学習
Rice Scouterの概念図.スマホなどによる撮影で瞬時にイネのバイオマスや収量を推定