宇宙測地技術、特に合成開口レーダーとGNSSを用いて、大陸地殻の変形過程を調べている。また、連続体力学に基づく数値シミュレーションを用いて、変形メカニズムを定量的に調べている。私は山が好きなので、その形成過程に関する物は何でも研究ターゲットとなりうる。もともと地震学系の研究室の出身であるが、弾性波動ではなく、地形形成の主役である非弾性変形が好き。特に、局在化した非弾性変形は地形形成の素過程であり、宇宙測地技術がダントツで有利なこともあり、現在の研究の中心である。また、私は地質学や地理学も好きで、検出したものの価値付けにおいてはこれらの知識を総動員している。歪の集中が発生する原因は、とにかく不均質だからである。では、その不均質構造はどうして存在するかということを、地質学の研究者と議論しながら研究を進めてきた。大昔に形成されたものが、今現在の地殻の変形運動を規定していることが、問題に深みを与えている。また、侵食・堆積といった外作用と内作用の相互作用についても数値シミュレーションをもとに研究を行っている。これは気候変動と地形形成のリンケージを探る研究で、非常にエキサイティングである。
具体的に私が学生達と進めているプロジェクトは以下の通りです。
⭐歪が集中する場所をInSAR+GNSSで検出する。
日本では新潟神戸歪集中帯や東北地方脊梁山地、山陰地方などに歪が集中していることが知られています。歪が集中することはとても大事です。もし集中しなければ地形が出来る理由が何も無いからです。上記の歪集中帯はほぼ全て国土地理院が運用するGEONETと呼ばれるGNSS観測網によって発見されました。近年の大きな変化として、人工衛星搭載型の合成開口レーダー(SAR)を用いて極めて高い空間解像度で歪を検出できるようになりました(図1)。GNSSは上空視界と電源を必要としますが、InSARは必要としません。特に日本が運用する波長の長い(L-band)SAR衛星は植生を透過します。これを用いて森林に覆われた険しい山間地でも強烈に高い解像度で歪を求めることができます。ただし、InSARは南北変位に対して感度が低いので、そこはGNSSの補助が必要です。近年のもう一つの変革は、私企業であるソフトバンク社のGNSS観測データを使わせて戴けるようになったことです。これによりGNSS観測点の総数は3倍以上になりました。しかし相変わらず山地はInSARに圧倒的な分があるため、InSARとGNSSをうまく組み合わせて3次元速度場と歪速度場を極めて高い分解能で検出する試みを続けています(図1)。※これは学生の博士論文になる予定。なお、InSARは世界中どこでも撮像できるため、日本で高めた技術を海外へ適用することも学生と進めています。
図1
(a) ALOS-2とGNSSを用いた中部地方北部の歪速度場
(b)GNSSのみを用いた歪速度
※カラースケールは同じ→振幅が大きく異なる
(c) せん断歪速度場
(d) 歪の2次不変量と主軸
Nagaoka et al. (2026)
⭐地形が発達する様子をInSAR+GNSSで検出する。
私は山登りが好きで地質学も地理学も好きです。しかし「私が生きている間に」山が高くなって欲しいなあという率直な思いがあります。3000万年で8000mの山ができました→素敵です。しかし私は100年未満しか生きられない。だからその間に隆起している姿を見てワクワクしたい。ここでもInSAR解析が活躍します。2026年という時代は非常にラッキーで、SAR衛星が撮像した画像が20年以上貯まっています(もっというと1992からですが古い衛星は解析が難しい)。長期間データが貯まると凄く遅い変動でも検出できるようになります。ノイズと地殻変動では時間的な挙動が異なるので、これを使ってノイズを除去できます。GNSSは時間分解能が高いのでノイズに強い。しかし受信機を置かないといけません。InSARは受信機不要です。また植生を透過する(L-band)SAR衛星を20年間運用してきたのは世界で日本だけです。そんなわけで、InSARとGNSSを組み合わせて、私は学生と一緒に世界の埋もれた地殻変動を発掘しています。学生達は日本・台湾・インドネシア等々を解析し、色々な変動を検出します。最近では飛騨山脈(北アルプスですね)の黒部川に沿って6 mm/yrを超える局所的な隆起域を検出しました(図2)。※これも学生の博士論文になる予定。この地域では世界で最も若い花崗岩が発見されています。飛騨山脈は有珠山のようにシンプルに「火山」と言える場所ではなく、誰にとっても謎に満ちた地域です。
図2
2015-2023の糸魚川静岡線付近の隆起速度
黒部川に沿った顕著な隆起が見える。
Nagaoka et al. (2026)
⭐海外の造山運動をInSARで検出: 台湾
日本の山地は1 mm/yrに達する速度で隆起します。最も速いと言われる赤石山脈(南アルプス)では4 mm/yrに達します。これは世界全体の平均に比べるとかなり速い。しかし「私が生きている間に」山が高くなって欲しいなあと私は思っているので、世界で最も速い速度で地殻変動する台湾に焦点を当てた研究をしています。台湾の中央山脈は水準測量やGNSSから最大で20 mm/yr程度の速度で隆起していることが知られています。標高は日本アルプスよりも高く、最も高い玉山は3957mあります。地震も活発に発生します。火山は島の北端にしか存在しないので、殆どは非火山性の何らかのメカニズムで隆起しています。
台湾の山は高いですが、緯度が低いので殆どが森林に覆われています。よってGNSS観測点は山地には殆ど存在せず、山域の動きは極めて限られた道路に沿って分かるのみです。そこで、植生を透過する日本のL-band SAR衛星のデータを使って台湾の山地、そして平野部も含めた全域の地殻変動を面的に調べています。なにしろ変動が速いので、新たな地殻変動を色々と検出することができます。例えば以下の大学院生と行った仕事(図3)では38 mm/yrという異常に速い隆起速度を検出することに成功しました。この原因は活断層と泥火山の相互作用にあると考えています。固体と液体の相互作用は先端的なテーマです。
なお、台湾には誰がみても「これ動いてるだろ」と分かるような場所があります(図4)。しかし腐葉土に覆われた森の中でこうした動きを識別するのは殆どの場合無理です。人工衛星からレーダーを照射することで初めて見えるのです。
図3 台湾南西部の丘陵部の地震間隆起速度。L-band InSARで検出。
Tsukahara and Takada (2018)
図4.
台湾南西部の山を穿つトンネルが断層運動でずれてる。毎度ちょっとづつ直していた。今はもう無いと思う。
260927 疲れた。全然進まないので、また気が向いたら書き足す。