超巨大ブラックホール(SuperMassive Black Hole:SMBH)は多くの銀河の中心に存在する、太陽質量の100万倍〜100億倍もの質量を持つブラックホール(以下BH)です。2019年4月にはおとめ座銀河団の楕円銀河M87の中心にあるSMBHの直接撮像が発表されて話題になりましたね [1]。
宇宙開闢から10億年後までの宇宙にも、SMBHが複数見つかっています。2011年にMortlock氏らは、赤方偏移7.1、宇宙年齢が約8億年の遠方宇宙 [2] で見つかったクェーサーのスペクトルを解析し、20億太陽質量のBHが存在することを示しました [3]。2015年にはWu氏らが赤方偏移6.3に120億太陽質量のBHの観測結果を、2018年にはBañados氏らが赤方偏移7.5に8億太陽質量のBHの観測結果を発表しています [4, 5]。
宇宙物理学の理論では、このようなSMBHが10億年未満でいかに形成されたかが大問題となっています。この問題について説明するため、より小さな「種」BHが周りのガス[6] を取り込んで成長しSMBHが形成される過程を考えましょう [7]。ガスがBHに降着する際、ガスの重力エネルギーの一部が輻射に転換されるのですが、この輻射がガスを電離して外に押し出し、さらなるガス降着を妨げてしまいます。この降着抑制機構を輻射フィードバックと呼びます。種BHが小さく、さらに輻射フィードバックが効く場合、10億年程度ではBHがSMBHに成長するまでの時間が足りず問題となるのです。
(建設中)
[1] 『史上初、ブラックホールの撮影に成功 ― 地球サイズの電波望遠鏡で、楕円銀河M87に潜む巨大ブラックホールに迫る』 国立天文台
[2] 光の速度が約30万キロメートル毎秒と有限であるために、遠い宇宙を見るほど若い宇宙を見ることになります。例えば、Mortlock氏らが観測したクェーサーULAS 1120+0641は、地球から約130億光年ほどの距離にあるため、130億年前の姿が観測されます。
[3] Mortlock et al. (2011), "A luminous quasar at a redshift of z = 7.085", Nature 474, 616
[6] 宇宙初期でのガスの組成は、重量比で水素が約75%、ヘリウム4が約25%です。また少量の重水素、ヘリウム3、リチウム7も存在します。詳細は『人類の住む宇宙(シリーズ現代の天文学)』第二版、119ページやCyburt et al., Rev. Mod. Phys., 88, 015004 (2016)を参照。
[7] 実際にはBHはBH同士の合体によっても成長すると考えられています。