我々の研究室では、2つのコンセプトに基づき、量子化学計算や分子動力学計算といった計算機シミュレーションを駆使した理論研究を行っています。実験研究室や企業との共同研究も行います。
人類は様々な化学反応を開発することで生活環境の改善・食糧問題の緩和・医療の発展を行ってきましたが、ある分野においてイノベーションとなる画期的な反応を開発するために、何十年といった期間が費やされることは少なくありません。持続的な発展のためには、化学反応の開発速度の向上が不可欠です。そこで我々は、化学反応の開発速度の加速を目指して、量子化学計算に基づき化学反応経路を探索する技術を活用した研究に取り組んでいます。
我々はコンピュータ上で「分子に仮想的な力を作用させ、疑似的に反応を引き起こす」人工力誘起反応(AFIR)法という方法論に基づき、反応経路を自動的に見つけ出す技術をもっています。AFIR法は反応経路自動探索(GRRM)プログラムに実装されており、AFIR法による反応経路探索は、我々が開発した独自の反応速度論手法(RCMC法)によって制御されます。これによって、主に(a)化学反応が進む方向に反応経路をたどる順探索モードと、(b)与えた生成物から反応物に向かって逆向きに反応経路をたどる逆探索モードの2つが可能です。これらを駆使して、新規反応の開発、機構解明、そして分子や触媒の設計を実験研究者や企業と連携しながら行っています。①反応予測、②反応基質・条件のin silicoスクリーニング、③分子の安定性解析など、幅広い応用が可能です。
我々の身のまわりにありふれているような現象に対しても、「不思議だなぁ」と感じる気持ち、すなわち「不思議センサー」の感度を高めてよくよく観察してみると、理解できないことがたくさんあります。例えば、モノとモノがくっつく接着現象。なぜくっついているのでしょうか?凹凸にひっかかっているだけでないのなら、果たして主要な原因は静電気?化学結合?分子間力?
そういった世の中にある、よくよく考えてみると不思議な化学現象に対して理論的な回答を得ることを目指して、理論・計算化学研究を行っています。「これってなんでだろう?」という疑問を大事にして、ときには学生からの素朴な疑問・発案もそのまま研究テーマになることがあります。
接着剤の起源は古く、人類は紀元前から接着剤を活用して生活基盤を整えてきたようです。例えば、旧約聖書ではノアの方舟が登場する節に記述があり、古代エジプトでも木の樹液を接着剤にしてパピルスをつないでいたそうです。現代でも、車・飛行機の部品の接合、建築・パソコン配線板の組み立て、日用品の仮留め、歯と被せものの合着など、その応用は多岐にわたります。生活上の利用のみにとどまらず、多細胞生物はそもそも細胞同士の接着によってマクロな構成体を形成しています。つまり、接着は我々にとって非常に根源的な現象であるといえます。
接着剤を使えばモノとモノがくっつくのは当たり前に感じるかもしれませんが、実はなぜくっついているのか本質的なところはよくわかっていません。接着の難しいところが、モノとモノがくっついている「接着界面」は構成材料に埋もれてしまって、なかなか直接的に観測することができないということです。そこで我々は、様々な分野で見られる「接着界面」を対象に、量子化学計算(第一原理計算)や分子動力学シミュレーションを適用し、理論に基づく機構解明や新接着材料の創出を行っています。接着に興味をもっている企業は多く、積極的に産学連携を進めています。