研究背景
ネットワークを介して、さまざまなデバイスの情報を共有するIoT(Internet of Things)技術は、私たちの暮らしをより便利にしている。中でも、空間内の情報をもとにユーザに対して適切なサービスをリアルタイムで提供する空間知能化(Intelligent Space; iSpace)という技術が注目されている。
知能化された空間(以降、知能化空間)の実現のためには、ユーザにとって便利な空間にする必要があるが、ユーザによって要望は異なる。そのため、あるユーザのために空間をコーディングする技術、つまり、ユーザの要望に応じてロボットや家電の機能を自由に定義できる「空間コーディング」技術が必要である。空間コーディングは、専用のインタフェースや自然言語といった直感的な入力を用いて空間機能を構築できることを特徴としており、ユニバーサルなカスタマイズが可能な知能化空間の実現を目指す基盤技術として位置づけられる。
空間コーディングの概要図
空間コーディングのユーザインタフェース
研究目的
本研究の目的は、多様なユーザが自らの価値観や生活スタイルに応じて知能化空間を構築できるように、知能化空間の柔軟性と適応性を向上させることである。具体的には、ユーザごとに異なる属性や関係性を空間機能の条件に取り入れ、個人に最適化されたサービスを提供できるようにする。また、ユーザの行動履歴や利用傾向をもとに空間機能を自律的に更新する仕組みを構築し、状況に応じた動的な空間のふるまいを実現する。これらにより、ユーザが能動的に操作しなくても、ユーザ自身に最適化された知能化空間が自然に構成される状態を目指す。
過去の研究進捗
仮想オブジェクト(エリア、ライン)を用いた空間機能の定義
本システムでは、if文(条件)とthen節(家電制御)を組み合わせた空間機能を定義することで、知能化空間を構築していく。if文では、何人が何秒間入ったかを計測できるエリアと、ある地点をどの方向で人間が通過したかを判定できるラインを用いる。ユーザは、空間機能インタフェースを利用して空間機能を定義できる。空間機能インタフェースは、空間の状態をリアルタイムで表示するマップを基調とし、エリアやラインの生成、空間機能の設定を直接行うことができる。エリアやラインを生成した後、メニューから設定項目を選び、ダイアログボックスに必要な数値を入力することでif文を定義できる。then節は、メニューから項目を選択することで定義できる。
大規模言語モデルを用いた自然言語による空間機能の定義
ユーザは、自然言語で空間機能を定義することができる。ユーザが入力した文章は、大規模言語モデル(LLM)によって解析され、必要な情報が抽出される。これにより、ユーザの要望を理解し、空間機能として知能化空間に反映することが可能となる。直感的な文章入力だけで空間機能を定義できるため、専門知識がないユーザでも容易に知能化空間のカスタマイズを行うことができる。