研究内容

研究の概要

溶液化学グループ(吉田グループ)では、主に高温高圧の水および水溶液の構造・ダイナミクス・反応を対象に、NMR分光法と分子シミュレーションを組み合わせながら、物理化学の視点からの研究を行っています。具体的には、動的NMR法による水や水溶液中の並進・回転といった分子運動の観測や、実験のみからは知り得ない詳細な情報を得るために、実験的に得られた情報と突き合わせながら分子動力学計算を用いることで、溶媒和と並進・回転・振動などのダイナミクスがどのような関係性にあるのかの解析を行っています。さらには、高温高圧条件の水・水溶液の応用展開として、環境調和型反応のNMR解析を行い、無触媒条件下での糖類の高付加価値有用物質への転換法の開発などに取り組んでいます。

論文・著書・学会発表

研究テーマ

膜形成型の腐食防止剤の作用機構の解析

電力の安定供給は、現代社会の基盤インフラです。発電プラントの不測の停止回避には、蒸気・復水系の配管内壁の腐食劣化の機構の解明と抑制手段の開発は不可欠です。近年、金属表面に疎水性膜を形成するとされているアルキルアミン類が新しい防食添加剤として世界的に注目され始めていますが、その作用機構は未解明です。本研究グループでは、多核NMRとXPS・顕微反射IRを駆使しながら、高温高圧水熱反応解析と固体表面解析を融合し、アミン類の反応・吸着・会合体形成の速度論と平衡論の定量的評価を進めています。膜形成剤の有力候補の物質群の水熱流体/金属界面での挙動を官能基毎に系統的に調べ、新規の金属防食化合物の設計・探索指針を構築へとつなげることを目指しています。

超臨界流体の分子ダイナミクス

超臨界水は常温常圧では水にほぼ全く溶けない疎水性の有機分子を溶かすことができ、また常温では起こりえない反応性を示すことにより、環境に優しい新規な反応媒体として注目されています。本研究グループでは、超臨界水溶液中に自由混合した無極性の疎水性分子の水和とダイナミクスを微視的レベルで調べるため、高温高圧NMR法と分子動力学(MD)シミュレーションを組み合わせ、並進拡散に焦点を当てて考察しました超臨界条件における水と疎水性分子との間の特殊な相互作用による溶媒和をダイナミクスと構造の両面から理解することは重要です。

超臨界条件での水とシクロヘキサンの二成分混合系中の自己拡散係数を、中密度から低密度の亜臨界および超臨界条件で、NMRによるパルス磁場勾配スピンエコー法を用いて決定しました。NMR実験結果を系統的なMDシミュレーションと組み合わせて、スケーリング型の相関式を開発しました。拡散係数を広い温度、密度、組成において決定し、活性化エネルギーおよび活性化体積を調べることで、極端条件下での分子間相互作用と並進拡散の関係を考察しました。混合流体中では、水分子間の水素結合がドライビングフォースとなって、マクロには均一であるが微視的には不均一である状況が生み出され、その影響は特に水の拡散係数に対して強く現れるということが見出されました。

環境調和型の高温水反応のNMR解析

高温高圧条件の水・水溶液の応用展開として、環境調和型反応のNMR解析を行い、無触媒条件下での糖類の高付加価値有用物質への転換法の開発などに取り組んでいます。