これまでに何度か聞かれたことがあるので、僕が海外大学院博士課程出願のためにどんな準備をしたかまとめました。主に理系で欧州大学院PhD課程への留学を考えている人向けです。
僕の専攻は物理(太陽物理 / 天体物理)なので他の分野では少し事情が違うかもしれませんが、書類審査で合格を貰うための基本的な戦略は理系全般に当てはまると思います。
僕が受験したのは 2017年の年末で、
コロラド大学ボルダー校/ 天体物理・惑星科学専攻 / PhD課程(アメリカ)
マックス-プランク太陽系研究所 / 太陽・恒星内部領域/ PhD課程(ドイツ)
の2校に出願し、幸い両校から合格を貰うことができました。アメリカでは5-10校の大学院に出願して合格してから条件が良いところを選ぶと言うのが一般的なようですが、日本の大学/大学院から進学する場合はどうしても出願時期が卒業研究や修士論文発表と被ってしまうので、志望校は少なめの方がいいと思います。
結局ドイツのマックス-プランク太陽系研究所のPhDプログラムに進学することを決めるのですが、それに関してはこちら。
入試は基本的に書類審査(+必要であればSkype面接)です。出願に必要な書類は、以下の通り。
大学の成績表(GPA)
TOEFL iBT
GRE General (数学・国語・小論文)
GRE Subject (物理)
Curriculum Vitae(CV / 履歴書)
Statement of Purpose / Personal Statement
推薦状(2-3通)
[おまけ] 国内で奨学金が取れればその証明書
GREはアメリカの大学院入試のためのセンター試験のようなものなので、ドイツの大学院に出願する際は必要ありません。個別の対策は下に書きますが、どれも一夜漬けで用意できるようなものではない為、1年以上の長期的なスケジュールを立てて準備する必要があります。
大まかな優先順位としては合格の決め手となる上位4つと足切りに使われるだけの下位4つに分類されるでしょう。
合格の決め手 : 推薦状 > CV 〜 Statement of Purpose > 奨学金の有無
足切り判定 : TOEFL > GPA 〜 GRE Subject >>> GRE General
最も重要なのは推薦状です。これは実際に応募者の選考に関わっている複数の教授が公言していることなので間違いありません。次に(同じくらい)大事なのが、これまでの研究実績です。国際誌に論文を出しているとかなり有利に働くので、CV や Statement of purposeでアピールします。推薦書とCVが既に魅力的であれば関係ないですが、これがギリギリだと(留学生は)奨学金の有無が確認され、もしあれば合格を出してもらえる可能性が高くなります。
一方、TOEFLやGREは共に足切りに使われるスコアで、ある最低ラインさえクリアしておけば問題ないでしょう。留学生にとってはGREよりもTOEFLの方が圧倒的に重要で、理系であればiBT100点が目安とされています。GREに関しては留学生はほとんど関係ないと思います。大学の成績もそこそこの出来であれば問題ないはずです。
良い推薦状の条件は、
推薦者がその分野で世界的に名が知られていること
推薦者が自分のことをよく知っていて詳細かつ説得力のある推薦書が書けること
通常推薦状は全部で3通要求されるので、3人の合わせ技でも良いのでこれらの条件をクリアできるよう時間をかけて準備する必要があります。
まず3通のうち1人は、卒業論文や修士論文の指導教員で決定です。その教員が世界的に名の知られている研究者であれば良いことこの上なしですが、そうでない場合であっても自分のことを最もよく知っている指導教員には依頼するべきです。良い(強い)推薦状を書いてもらうためには頑張って研究して、自分の基礎学力・コミュニケーション能力・発想力・研究遂行能力・プレゼンテーション能力・論文執筆能力などを認めてもらうことが大切です。
一般に、アメリカの大学院に出願する際は、3通のうち少なくとも1人はアメリカの大学や研究機関に所属している研究者が良いと言われています。これは、日本の大学教員と比べて、彼らの方がアメリカの大学院のレベルやカリキュラムなどに精通しているため、応募学生のレベルをより的確に把握し大学院でやっていけるのか判断できるからだそうです。
僕の場合、最終的に以下の3名に推薦状を書いていただきました。
学部・修士過程の指導教員(東大)
学部3年の時の研究留学の受け入れ先教員(PPPL / プリンストン大)
修士2年の時の研究留学先の共同研究者(HAO / コロラド大)
2人目の推薦者は学部時代に2ヶ月だけプリンストンに短期留学した際の受け入れ研究者です。修士2年次に推薦状を依頼するまで数年間空いてしまっていましたが、快諾してくださいました。3人目の推薦者は修士2年次に研究のためコロラド州ボルダーに滞在した際の受け入れ先研究者です。共著で論文を出版しています(出願時にはまだ受理されていませんでしたが)。
このように、僕の場合は幸運にも推薦者に非常に恵まれましたが、これは僕が出願したのが学部卒ではなく修士卒のタイミングだったため、研究を通じて国内外の研究者とコネクションを構築することができたからだと思います。しかしながら、学部卒で海外大学院への留学を考えている場合は、そのようなコネクションがない人がほとんどだと思うので別に工夫する必要があるでしょう(後述)。
自分の学歴・研究業績のほか、受賞歴や留学歴、奨学金獲得実績、教育歴などアピールポイントを記述します。履歴書は特定のフォーマットはありません。ネットには大学院出願用のテンプレートが落ちているので、参考にすると良いでしょう。煩雑な文章は避け、一目で情報が伝わるようなシンプルかつ短い履歴書が好ましいです。
自由書式とはいえ、書くことは決まっているのでそんなに悩まないと思います。デザインに凝って個性をアピールするよりも中身で勝負しましょう。一般にCVに書くべき実績としては、学会での研究発表や査読論文の他、応募選考を経て採用されたものが含まれます(交換留学 / 大学のサマースクール / 奨学金プログラム / 成績上位者のみ受講可能なセミナー / 研究インターン / 企業のインターンなど)。
参考までに、僕がコロラド大に出願した時のCVはこちら。今見ると、長い上に小さく文章がごちゃごちゃしているので、良くないです。
推薦状と同じくらい重要なのがエッセイです。推薦状の中身に関しては自分ではどうしようもないので、エッセイこそが腕の見せ所と言えるでしょう。自分のこれまでのバックグランド(成し遂げてきた事、課外活動や勉強を通して得た知識や知見)、これまでの実績、興味がある研究分野(どんな研究がしたいか)、なぜ応募先大学じゃなきゃダメなのか、なぜ自分じゃなきゃダメなのか、学位取得後のキャリアプラン等の事柄を簡潔にまとめて一貫したエッセイとして記述する必要があります。英語力を最大限アピールすることも忘れてはなりません。
実際に出題はこのようになっています(コロラド大学天体物理専攻の場合)。
"Please upload a document briefly describing your past work in your proposed or allied fields of study, including non-course educational experiences, teaching, or other relevant employment, publications, theses, research in progress, other scholarly activities, and your plans for graduate study and a professional career."
実際の合格者がどのようなエッセイを書いたのかはネットで探せばいくらか出てきますが、3−4ページに亘る長いものが多い印象です。しかし、僕が実際の入試選考委員の教員から聞いたのは、「短いほど良い」ということです。なにしろ入試選考委員は何百人からの応募書類に目を通さなくてはならないので、1人のエッセイに割り当てられる時間は5分程度しかないそうです。1ページ程度の簡潔なエッセイが望ましいというとのことです。
参考までに、僕が書いたエッセイはこちら。
なんとか1ページに収めてます。応募書類の中で唯一個性を文章で表現できるのがエッセイなので、ネットに落ちてるようなテンプレートに当てはめたような文章を提出するのは正直勿体無いと思います。僕の場合、数週間悩んで自分なりに書き上げたのち、英語ネイティブの友人に添削してもらい英語表現を大幅に改善してもらい、さらにその後指導教員や海外の共同研究者にもアドバイスをいただき細かい記述を修正を重ねに重ねました。おそらく書き始めてから完成までに2ヶ月弱はかかったと思います。
欧米大学院の博士課程の留学の場合、所属している研究室などから給料が出て学費・生活費が賄われる場合が多いので、奨学金の獲得は必須ではない側面もあります。にも関わらず、合否判定に絡んでくる可能性が高いため、奨学金をどうするかは留学を考えている多くの学生の悩みの種でしょう。
確かに、応募書類を準備するのも非常に手間と時間がかかりますし、推薦書を毎回複数人に依頼するのも非常に心理的ストレスがかかります。しかしながら、奨学金の応募書類は使い回しできるものも多く、大学院への出願書類を作成する際にも大いに利用価値があるので、積極的に応募するべきです。アドバイスは以下の2点。
早めに動き始めましょう。
というのも、12月の出願時には既に奨学金合格証明書を提出できる状態が理想で、その時期に合否が決まっている奨学金の応募は5-6月までに応募締め切りとなっていることが多いからです。僕は、奨学金を意識し始めたのが遅かったので、いくつか応募できたはずの奨学金をみすみす見逃してしまいました。情強たちの間では、留学の1年以上前から既に戦いは始まっていたようです。2-3月ごろから大学のホームページや留学した学生向けのまとめサイトなどを随時チェックし、応募できる奨学金プログラムがないか確認すると良いでしょう。
応募可能な奨学金プログラムには片っ端から応募しましょう。
というのも、どれも倍率は非常に厳しく、なかなか合格は容易ではありません。僕は、[1] 船井情報科学財団、[2] 平和中島財団、[3] JASSO、[4] DAAD(ドイツでの留学のみ対象)の4つに応募し、[1][2]は書類落ち、[4]は書類通過後面接落ち(補欠)でかろうじてJASSOの奨学金プログラムのみ無事採択されることが出来ました。合格が難しいもう1つの理由として、財団のカラーが色濃く出ていることも挙げられますと思います(船井財団は情報科学系の学生が有利など)。数打ちゃ当たる精神で複数応募し、落ちてもあまり落ち込まないようにしましょう。
留学を考え出した時に、真っ先に着手すべきなのがTOEFL iBTです。理系の大学院留学であれば100点が目安とされています。理想を言えば、出願の1年前までには目標のスコアをクリアしてるのが望ましいです。というのも、奨学金の応募要件にTOEFL iBT100点以上などと設定されていることが多いからです。設定されていなかったとしても書類選考の足切りに使われている可能性は高いと思います。
僕の場合は、初めてTOEFLを受験したのが大学3年の時で、大学の留学プログラムの応募(TOEFL 80点以上が条件)の為でした。1回目のスコアが74点で応募要件に足りず、数ヶ月勉強して2回目は94点取れたことで、無事留学プログラムに採択されました。その後、修士2年で大学院留学の出願のために再受験したのですが、結果99点で僅かに目標に及びませんでしたが結局この点数で提出しました。
General と Subject があり、General は アメリカの大学院を受験する人は全員受ける必要があります。確かTOEFLと同じ会場で同じような日程で受験できたと思います。基本的にはほとんど合否に関係ないテストだと思われるので、時間をかけて対策する必要はありません。
Verbal(激ムズの英単語テスト)とQuantitative(算数)とWriting(エッセイ)の3セクションから構成されますが、基本的に留学生はQauntitativeで満点近く取って、Writingでそこそこの点数を取れれば良いとされています。僕は、Verbalに関しては分からなすぎて全問当て勘で回答しました。
GREは - 全受験者に対して下から何%のスコアか - で評価されます。結果は、Verbal が 35%、Qauntitative が 91%、 Writing が 18% でした。こんな酷い点数でも問題ありません。
Subject は出願先の学科から指定された科目を1つ(僕の場合は Physics)受験することになります。大学の成績(GPA)と合わせて基礎学力を推し測るためのものだと考えられます。試験自体は易しめで学部の勉強をきちんとしていれば問題なく高得点が狙える試験です。
GRE Subject は日本では年に2-3回、非常に限られた場所でしか開催されていないため(僕の場合は会場が沖縄のみだった)、チャンスは1回のみと考えた方が良いです。出願書類の中での重要度は低いので、目標の点数が取れなくても心配いりません。実際、僕の点数は 76% で決して良いとは言えないですが、こんな点数でも合格できます。
2015. 01. (B3): 学内の留学プログラムに応募するため TOEFL初受験。
2015. 04. (B3): 勉強してTOEFL受け直し。
2015. 06. (B4): プリンストン大学に短期留学。大学院留学を考え始める。
2015. 08. (B4): 帰国後出願準備。GRE General と Subject Physics を受験。
2015. 09. (B4): 卒業研究が始まって忙しくなる。
2015. 10. (B4): 準備が間に合わず学部卒での大学院留学断念。
2016. 01. (B4): 卒業論文提出。卒業研究発表会。
2016. 01. (B4): 学内の派遣プログラムでメリーランド大学へ短期研究留学。
2016. 04. (M1): 東大の大学院修士課程進学。博士課程からの留学を考え始める。
2016. 12. (M1): 1本目の論文が受理される。
2017. 07. (M2): HAO / コロラド大学(CU)に短期研究留学。共同研究。
2017. 07. (M2): 志望留学先をマックス-プランク太陽系研究所(MPS)に変更。
2017. 08. (M2): 帰国後片っ端から国内の奨学金に応募。落ちまくる。
2017. 09. (M2): 2本目の論文が受理される。
2017. 10. (M2): TOEFL受けなおす。
2017. 11. (M2): MPS に出願。
2017. 12. (M2): CU に出願。
2018. 01. (M2): 3本目の論文(共著)が受理される。
2018. 01. (M2): MPS 書類通過。Skype面談。
2018. 01. (M2): 修論提出。
2018. 01. (M2): MPS から合格通知。
2018. 01. (M2): 修論発表会。
2018. 02. (M2): MPSに招待され訪問。
2018. 01. (M2): CU から合格通知。MPSに行くことにする。
2018. 01. (M2): 修士課程修了。
2018. 01. (M2): ドイツで PhDスタート。
実は、学部4年次にプリンストンを訪れたのをきっかけに急にアメリカの大学院留学を志したのですが、数ヶ月の留学準備期間では出願書類が間に合わず断念しました。その結果、ひとまずそのまま東大の修士課程に進学して2年後の博士課程からの留学に切り替えたのですが、これは振り返ってみれば却って良かったのかもしれません。あくまで結果論ではありますが。
というのも、修士課程の間に研究実績を作ることができ、他の大学院留学応募者との差別化を測ることができたからです。また、実際に2年間研究することで、世界のどの研究グループがどんな研究をしているのか把握することができ、自分がやりたい研究テーマに合った出願先の大学院を適切に選ぶことができるようになりました。更に、国際会議や研究会などの場を最大限活用することで、海外の研究者とのコネクションを構築でき、共同研究のための短期留学などの機会にも恵まれました。こうしたコネクションの有無は学部生と修士生の決定的な差であり、当然ながら推薦状の質にも響いてくるでしょう。
留学を考え始めたら、まずは早めにTOEFLのスコアを取ってしまおう。
英語力は研究する上でも、留学準備(出願先大学に関しての調査や受け入れ先教授との電話やメールやりとり)をする上でも大切です。また、TOEFLスコアを持っていることの大きなメリットとして、大学の様々な交換留学や短期研究留学プログラム(多くは応募要件にTOEFLスコアを設定している)に応募できるようになること・そして採用される確率が上がることが挙げられます。積極的にラボへのインターンや短期留学へ応募し、実績を稼ぎながら海外の研究者とのコネクションを構築しましょう。
研究することも立派な留学準備です。
留学のための試験や書類作成が忙しいあまり所属しているラボでの研究を疎かにする人がいますが、これは間違いです(分野を大きく変える場合を除く)。というのも前述したように合格を勝ち取るのに最も大事なのは推薦状と実績なのですが、実はこれらは独立ではなくて表裏一体だからです。すなわち、研究することで実績を作ることができるだけでなく、国内外の研究者とのコネクションを構築することができるようになるため、適切な人物に自分の推薦状を書いてもらえる可能性が高まります。これは、学部卒で大学院留学を目指す場合であっても同じです。教授に相談して3年生の間から特別に研究室配属させてもらう等して、研究する機会・そして研究発表する機会を自分から掴みにいくことが大切です。