エビデンスに基づいた、より良い小児医療・保健の実現を目指して
私は、小児科医・プライマリケア医として長年臨床現場に立ち、多くの子どもたちとご家族の健康に向き合ってきました。日々の診療の中で、教科書的な知識だけでは解決できない、臨床現場ならではの疑問に数多く直面しました。例えば、「なぜこの子はアレルギーを発症したのだろう?」「予防接種は本当に有効なのだろうか?」「もっと早く重症化を予測する方法はないだろうか?」といった問いです。
これらの臨床現場で生まれた疑問を深く掘り下げ、エビデンスに基づいたより良い小児医療・小児保健活動に繋げたい。その強い想いから、現在は小児保健・母子保健の研究者として活動しています。
私の研究の根幹にあるのは、臨床現場と研究領域の橋渡しです。目の前の子どもたちの健やかな成長を支えたいという臨床医としての原点を忘れず、疫学データという大きな視点と科学的な分析を通して、小児医療・保健の質の向上に貢献することを目指しています。
主な研究テーマ
1.小児保健・母子保健:
子どもたちの健康を取り巻く社会的・環境的要因の解明は、より効果的な予防戦略や保健政策を立案する上で不可欠です。私は、こ厚生労働省「21世紀出生児縦断調査」などのミクロデータや、NDBオープンデータといった大規模データを積極的に活用し、多角的な視点から小児の健康課題にアプローチしています。
具体的には、アレルギー疾患の発症リスク因子、救急医療における課題など、臨床現場で重要性の高いテーマに取り組んできました。例えば、アレルギー疾患に関する研究では、肥満やメタボリックシンドロームといった生活習慣病との関連性に着目し、複合的な視点から発症メカニズムの解明を目指しています。また、感染症研究においては、予防接種の効果を地域レベルで評価したり、災害が子どもたちの心身の健康に与える影響を検討するなど、公衆衛生に貢献する研究も推進しています。
これらの研究を通して、エビデンスに基づいた保健指導やリスク層への早期介入、より効果的な医療資源の配分に繋がる知見を創出し、すべての子どもたちが健やかに成長できる社会の実現に貢献したいと考えています。
2.臨床データを用いた予測モデルに関する研究:
近年、機械学習をはじめとするデータサイエンスの手法は、医療分野においても導入されております。私は、臨床現場で蓄積された貴重なデータを最大限に活用し、機械学習モデルを用いた臨床予測モデルの開発に取り組んでいます。
例えば、川崎病の治療において、ガンマグロブリンへの治療抵抗性を早期に予測するモデルを開発することで、より迅速かつ適切な治療に繋げることが期待できます。また、食物アレルギーの診断支援モデルを開発することで、適切な食物負荷試験のタイミング予測し、子どもたちのQOL向上に貢献できる可能性があります。
これらの予測モデルは、医師の診断をサポートし、より質の高い医療を提供する強力なツールとなり得ます。今後は、予測精度の向上だけでなく、臨床現場での実用性を高めるための研究開発にも注力していきたいと考えています。
3.Systematic Review & Meta-analysis:
Systematic Review & Meta-analysisは、質の高いエビデンスを効率的に集約し、客観的な根拠に基づいた意思決定を支援するための重要な研究手法です。私は、これまで小児医療における様々なテーマについて、Systematic Review & Meta-analysisを実施してきました。
例えば、薬剤アレルギーの分野では、β-ラクタム系薬やペニシリンアレルギーに関する大規模なメタアナリシスを行い、小児におけるペニシリンアレルギーの実態について発表しました。
これらのSystematic Review & Meta-analysisを通して、今後の研究の方向性を示すことも重要な役割だと考えています。これからも、臨床現場のニーズに即したテーマを選定し、質の高いSystematic Review & Meta-analysisを継続的に実施していくことで、エビデンスに基づいた医療の発展に貢献していきたいと考えています。
研究者として、そして臨床医として
私は、研究活動を通して得られた知見を、論文発表や学会発表という形で広く社会に還元していくことはもちろん、日々の臨床現場で実践し、患者さんに直接的な利益をもたらすことも目指しています。臨床医としての経験と研究者としての視点を融合させ、小児医療・保健の発展に貢献したいと考えています。