大きな手と蝶
大きな手と蝶
この展示の打ち合わせの際、ギャラリーの方から「絵画とは何だと思う?」と聞かれ、冷や汗をかきつつ「一つの面に描かれたもの」と答えた。
僕は絵画を一つの面の上にあるものと認識していて、そこが絵画というもので僕の気に入っているところなのだろう、と今回の絵を描きながら改めて思った。
一つの面上にある絵画は、立体のように死角を持たず、映像のように変化しない。だから、すべてが常に正面を向いている。
つまり、ある絵に目を向ければ、一目でそのすべてを知ることができる。そして、その瞬間に感じるものが、その絵のすべてであって、そういった光線のような強さや素直さを持つ絵画というものが、僕はとても好きなのだと思う。
また別の話で、以前大きな手の絵を描いたとき、みた人に「これは蝶?」と聞かれたことがある。描いた僕には手にしかみえないものが、人によっては蝶になる。けれどその人には、蝶にみえる必然的な思考回路があるはずで、そういった分かち合えない個人的な想像に面白さを感じた。
だから最近は、以前と変わらず風景や言葉、物など、とりとめのない物事から描き始めるが、それらを伝えることは意図しなくなった。むしろモチーフから遠ざかるように、心地よい色や形、筆跡を探している。
絵をみた人が、どのようなものをその中にみいだすかは構わないことで、僕の絵は一目みた瞬間にそれぞれが感じる、あの蝶のような分かり合えない孤独な高揚がすべてで、そのためにあってほしいと思っている。
2025年9月 トュ―ルビヨン23 第一期