10:00-10:05 開会挨拶
《セッション1》
10:05-10:35 都市施設の立地パターンにおける包含性の定量的評価手法―埼玉県 の商業施設を対象とした実証分析―
吉田拓司、貞広幸雄、西颯人(東京大学)
本研究では、ランダム化シミュレーションに基づく「包括度」指標を定義し、実際の都市施設立地が理論上の包括的・排他的パターンに適合するかを統計的に評価する。この手法を埼玉県の小売施設に適用した結果、大規模小売店とカフェチェーン双方が顕著な包括的立地パターンを示すことが判明した。特にカフェチェーンではこの傾向がより強く認められる。本定量的手法は、都市サービス提供の最適化と持続可能な都市再編政策の指針策定に有益な知見を提供する。
10:35-11:05 平均と分散を維持しつつ異質な高次モーメントを扱うモデルと時空間データへの適用
久野元(総合研究大学院大学・株式会社ブレインパッド)、村上大輔(統計数理研究所)
本研究では平均と分散を維持しながら高次モーメントの異質性を扱うための一般的なモデルを提案する.このモデルは歪度・尖度が解析的に分かる,線形変換に閉じている,効率的なベイズ推論が可能である,といった特徴を持つ.さらに,時空間データへの適用を想定して,このモデルの性質を説明する.実データへの適用例として,アメリカの州ごとの生産関数の同定を通して,このモデルにより高次モーメントの空間的な異質性が捉えられることを示す。
11:05-11:35 スパースな軌跡データを用いた教師なし交通モード推定
石井健太、文山草、大塚理恵子(日立製作所)
スパースな軌跡データは交通ネットワークへの紐づけや加速度情報の活用が難しく、交通モードの特定が困難である。これに対し、交通モードの尤度を評価する観測モデルに、経路・モード選好を反映する行動モデルを統合し、潜在変数推定でモードとパラメータを同時推定する手法を提案する。行動モデルで観測モデルを補正して妥当なモードを識別し、識別不確実性を確率分布として保持してパラメータ推定におけるバイアスを抑制する。本研究の枠組みとその応用可能性を紹介する。
11:35-12:05 距離空間データに対する合成コントロール法
栗栖大輔(東京大学),Yidong Zhou(UCDavis), 大津泰介(LSE),Hans-Georg Mueller(UCDavis)
スカラー値アウトカムに対する因果推論の方法である合成コントロール法をアウトカムが距離空間に値をとる場合に拡張する.具体的には,距離空間上に値をとる潜在アウトカムを結ぶ測地線を用いて処置効果を導入し,その識別方法と推定方法を提案する.応用例として,(1)東日本大震災が都道府県ごとの産業別労働人口比率(組成データ)に与えた影響,(2)東ドイツの中絶認可が欧州各国の出張率(関数データ)に与えた影響の分析結果を紹介する.
12:05-13:15 休憩
《セッション2》
13:15-13:45 KUMap: 深層学習を用いた熊の目撃確率の予測地図
長谷川一輝、竹内孝(京都大学)
近年、熊による人的被害が増加し、人と野生動物の共生が重要な課題となっている。本研究では、ウェブ上で共有される熊の目撃情報と、人工衛星から得られる地理空間データを統合し、深層学習を用いて熊の出没確率を空間的に予測するシステム「KUMap」を開発した。地形・植生・気候・土地利用などの要因を学習したモデルにより、地域ごとの目撃危険度を推定し、リスクマップとして可視化する。これにより、自治体や住民が熊の出没リスクを事前に把握し、安全な共存に向けた対策立案を支援することを目的とする。
13:45-14:15 差の差の分析法を用いた連続処置に関する分布処置効果, 分位点処置効果の推定について
佐藤宇樹(武蔵大学)
本報告では差の差の分析法を用いた連続処置に関する分布処置効果, 分位点処置効果の推定について議論する。まず処置効果の識別に関して, crossing pointに関する仮定を用いて処置効果を識別する既存研究とは異なる仮定を用いて処置効果を識別する方法について述べる. そのため, 本研究と先行研究では識別可能な処置効果が異なる. 本研究の仮定では処置前時点には全個体が未処置, その後一部の個体が処置を受けた際の処置効果が識別される. 次に, 処置効果の推定法として, double debiased machine learningを用いた推定法について議論する. 最後にspillover効果を含んだモデルへの拡張による地域データへの応用といった今後の発展について議論する.
14:15-14:45 項目反応理論を用いた居住地に対する評価のマッピング
西颯人(東京大学)、持橋大地(統計数理研究所)
都市の魅力に関する調査は様々な団体によって実施されており、その結果はランキング等の形式で公表されている。しかし、都市に対する評価は都市の性質と評価者の選好の両方に依存していると考えられるため、一次元的なランキングによる集計は十分とは言えない。そこで本研究では、都市に対する評価の良し悪しを多次元の項目反応理論を用いて評価する方法を提案し、実データを用いてその有効性を検証する。
14:45-15:15 罰則行列としてグラフ・ラプラシアンを用いる空間フィルターのブースト化
金子涵、山田宏(広島大学)
HPフィルターは,マクロ計量経済分析において広く使用されているトレンド・サイクル分解手法である。2021年,Peter C. B. Phillips氏らにより,HPフィルターに新たな展開がもたらされた。彼らは,HPフィルターをブースト化した新しいフィルターを提案した。ブースト化はHPフィルターのみならず,罰則行列としてグラフ・ラプラシアンを用いる空間フィルターにも適用可能である。本報告では,まずブースト化されたグラフ・ラプラシアン型空間フィルターを導入し,その理論的性質について検討した結果を述べる。
休憩15:15-15:30
《セッション3》
15:30-16:00 Modeling spatial variation across data distribution: A Moran eigenvector-based spatially varying quantile regression approach
彭湛(東北大学)
空間的異質性分析は、地理空間現象の生成過程における地域差を明らかにし、地域特性を把握する手法の一つとして注目されてきた。しかし従来の分析手法は、例えば住宅市場の上位層と下位層に見られる異なる価格決定構造といった、データ分布水準による差異を十分に捉えられない。本研究ではMoran eigenvectorとQuantile regressionを組み合わせることで,地理空間上とデータ分布に関する異質性を同時に考慮できる手法を提案する。シミュレーション実験と不動産賃料データへの応用を通して開発手法の性能を検証する。
16:00-16:30 グローバルな年齢階層別グリッド人口推計のためのダウンスケーリング手法の開発
瀬谷創(神戸大学)
近年,GHS-POPやWorldPopといったグローバルかつ高解像度の格子点人口データセットが提供されるようになり,気候変動,農業,公衆衛生,都市計画など様々な分野で活用されている.さらに,年齢階層別の人口データセットの開発も進んでいるが,既往のデータは実用に耐えうる正確度ではなく,推計手法の改善が求められている.本研究では,日本の地域メッシュ統計を検証用データに用いて,Compositional data analysis (CoDA) と空間統計手法(area-to-area kriging)を組み合わせたダウンスケーリングにより,既往のデータセットの精度を改善できる可能性を示す.。
16:30-17:00 ベイズ的地理的加重回帰の高速実装
菅澤翔之助(慶応義塾大学)
ベイズ的地理的加重回帰は、事後分布により推定の不確実性を表現できる点で有用であるが、各地点でのMCMCやクロスバリデーションによるバンド幅選択の計算コストが高い問題点がある。本研究では、代表地点の事後分布を用いたimportance samplingと、ハイバリネンスコアに基づく自動的なバンド幅最適化による高速化手法を提案する。
17:00-17:05 閉会挨拶
【企画・運営】
村上大輔(統計数理研究所)、菅澤翔之助(慶應義塾大学)
【お問合せ】
dmuraka(あっと)ism.ac.jp
※本研究会は統計数理研究所のリスク解析研究支援センター、データ同化研究支援センター、JSPS科研費24K00175「空間統計学と機械学習の融合による時空間回帰の開発・ツール化」、 ならびにJSPS科研費24H00546「複雑データに対するベイズモデリングの基盤創出」 の助成を受けたものです。