和歌山県立医科大学 薬学部 生物化学研究室
Laboratory of Biological Chemistry, School of Pharmaceutical Sciences, Wakayama Medical University
Laboratory of Biological Chemistry, School of Pharmaceutical Sciences, Wakayama Medical University
発がん初期に発現変化するクロマチン関連因子の解析から、がん化機構解明、医薬品開発、化学物質安全性評価系構築を目指します。
遺伝情報を担う核内DNAは、ヒストンタンパク質などとクロマチンと呼ばれる複合体を形成しています。ヒトを含む様々な生物のゲノムDNAの塩基配列が決定され、クロマチンからの遺伝情報の読み出し(発現)制御機構の解明が必要とされています。
「がんは遺伝子の異常によって起こる病気(ジェネティクス異常)である」ことが明らかにされています。がん研究には、遺伝子変異などのジェネティクス解析に加えて、クロマチン関連因子を介したエピジェネティクス制御(DNA配列変化を伴わずに遺伝子発現を制御する機構)を考慮した解析も必要です。私たちは肝前がん病変において発現変化するヒストン修飾酵素を含むクロマチンに働きかけるタンパク質を同定しました。そして、これらのタンパク質ががん細胞の特徴の制御に関わっていることを明らかにしました。
これらの研究を通して、がん化機構の一部を明らかにするとともに、医薬品開発、化学物質安全性評価系構築の基盤研究を進めています。
幹細胞の性質に着目することで、がんの新たな標的分子を同定し、創薬に結びつけることを目標とします。また、細胞初期化手法を活用した再生能賦活化・抗老化手法の開発を目指します。
幹細胞とは多分化能と自己複製能を有している未分化な細胞のことを指します。例えば、胚性幹細胞 (Embryonic Stem Cells: ESCs) が幹細胞にあたります。また、成体においても体性幹細胞 (Adult Stem Cells: ASCs) という恒常性維持に重要な役割を果たす未分化な幹細胞集団が存在していることが知られています。興味深いことに、このような「未分化性」を有する細胞は、がん細胞の集団の中にも認められ、こうした幹細胞様の細胞集団ががんの悪性度を規定することが知られています。我々はこれまでに、ASCsからがん化を引き起こした転移性胃がんモデルを独自に開発し、その発がんの分子機序を調べてきました。ASCsから誘導されたがん細胞は未分化な特徴を有していることがわかり、その幹細胞性を制御する責任因子を同定しました。現在、同定因子が新規の分子標的治療薬の創薬ターゲットになり得るかを解析しています。
また、分化している細胞が未分化性を獲得することを脱分化と呼びますが、人工多能性幹細胞 (induced Pluripotent Stem Cells: iPSCs) への細胞初期化 (リプログラミング) が可能であることが報告されて以来、細胞の可塑性についての研究が進められるようになってきました。我々はこれまでにリプログラミング技術を活用し、マウスにおいて組織再生能を亢進し、個体老化を抑制できる可能性を示しました。この研究成果をさらに発展させるべく、リプログラミングによる影響を分子レベルで調べ上げ、そうした知見を集積し、細胞および個体の「若返り」をもたらすような手法開発を究極の目標として研究を進めています。
生体に近い十分なトランスポーターの発現や活性を有した細胞を作出し、薬剤性胆汁うっ滞肝障害評価系の構築を目指します 。
非臨床試験における薬剤性肝障害(DILI)試験においては、3R (Reduction, Replacement, Refinement) の規制強化が進み、動物を使用せずに毒性評価を行う方法の確立が望まれています。DILIには、肝細胞障害型、胆汁うっ滞型、混合型の3タイプが知られており、これらの要因は、グルタチオン枯渇、ストレスキナーゼ活性化、ミトコンドリアストレスや小胞体ストレスを引き起こします。DILIの一つである胆汁うっ滞肝障害の主な原因としては、肝細胞に発現している排泄トランスポーターであるbile salt export pump (BSEP)の機能が薬物によって阻害され、肝細胞内に胆汁酸が蓄積するためです。そこで、このトランスポーターが発現している細胞を用いて、胆汁うっ滞肝毒性評価系の開発を行っています。
近年、日本において、マイクロ流体デバイスで細胞の培養環境を制御し、in vivoに近い機能を発現させる技術であるMicrophysiological System (MPS、生体模倣システム)が注力されています。これは、様々な細胞をチップなどのデバイス上に搭載し、肝臓・小腸・腎臓・血液脳関門における薬物動態や安全性の評価系を開発することを目標としています。この数年では、MPSは多数開発されており、従来の培養法と比較して、各臓器の特異的な機能が向上したと報告されています。そこで、取り扱いが容易で再現性が高い灌流型小腸-肝臓連結デバイスの開発を行いました。このデバイスプレートの肝細胞播種部分は、平面またはスフェロイド培養ができるように工夫をしています。現在、本デバイスを用いて、胆汁酸含有培地を灌流しながら、より生体内に近い環境下での胆汁うっ滞肝毒性評価系の開発をしています。