油の焼ける音と、屋台主の罵声が交差する。
地面はかなりぬるついている。少なくとも、良い靴は履いてこないほうがいい。
「正直、今食べてるこれって何の肉だと思います?」
DOESの手には串焼きが握られている。食欲をそそるような匂いが鼻腔をくすぐるが、視界は最悪だった。
恐らく鳥を模されているのであろうそれは、食べていいのかどうか不安になるような色をしていたのだ。
「塩加減は革命的だと思うぞ。ビールに合う」
BEEが褒める......アルコールが入っているから、塩が美味しく感じるだけじゃないのか?と思いながらも二本目を口に運ぶ。意外とクセになるのだ。これが。
「食ったら文句言うな!うちは味で勝負してんだ!」
屋台の親父が怒号をまく。
「貴様が文句を言うからだ」BEEはDOESにため息を吐く。「この辺りの屋台は衛生より勢いがが信条だからな。胃袋のほうが肝試しだ.......あ」
「警察っすね。敬礼を知らない」
黒服の男たちが裏路地から真っ直ぐに足を運んでくる。辺りは眩しいほどの照明で煌めいているのにも関わらず、それが逆に作用しているのか帽子で隠された表情は伺うことができない。
「動くな、武装集団の違法集会の容疑で拘束する。」
「いつもの難癖っすか。俺たち、焼き鳥食べてるだけです......鳥かどうかは怪しいですけど」
「香ばしいな」
「口答えをするな!」突然、警察の一人がスタンガンをDOES狙って突き刺そうとする。瞬時に気づいたBEEが横にあった串を掴み、警官の手に突き刺した。
「どうやら人肉だったらしい。あぁ、しっかり焼いておかないとな」
BEEがその手を掴み鉄板に押さえつけたところで激しい銃撃音が鳴る。DOESが屋台のテーブルを蹴って転がし、即席の盾にする。一発肩を掠めたが、戦闘不能になる程度ではない。そのまま拳銃を抜き、脳天をブチ抜いた。
BEEが賞賛するように口笛を鳴らす.......ところで警官が刀を抜きBEEに切り掛かる。
「おおっと」寸で屋台裏の鉄板鍋を投げつける。「なぁ、まだデザートを食べていないんだ。貴様らの治安維持はデザート前だと相場が決まっているのか?」
「抵抗は違法だ!」
「違法だの合法だの。じゃあこっちは違法のプロってことで」
銃声が響く中、回収される予定だったのだろうビール箱を掴み警官に投げつける。勿論、瓶は粉々に割れ、照明の光にガラスと油まみれの床がキラキラと反射する。
狭い路地。油と汗と鉄の音が混じった。
「何してんだコラ!弁償してもらうからな!!!!」
やはり勢いのある大将だと苦笑しながら、BEEは警官の持っていた刀で、掴み掛かろうとしてきた警官の腕を切断した。「後で一緒に請求してくれ。領収書を頼む」
一方DOESは重なる剣戟に苦戦していた。
「なぁっ......それってリーチ長いとか思ったことないわけ?」
「貴様が.......さっさと......!」
警官隊長が勢いよく振りかぶる、舌打ちをしながらほくそ笑む。ビンゴ。DOESの目論見通り、光と帽子と、そして怒りで周りがよく見えていなかったらしい、リーチの長すぎる刀は商店街名物モリーちゃんの人形へと突き刺さった。
勢いでぐらりと前に倒れた警官隊長の腕を引き、壁に押し付ける。綺麗な顔と靴をしている。油でギタついた床で戦ったことなんてないのだろう。
「誰の命令なんですか?」
警官隊長は鼻血を垂らしながら答える。
「命令は上からだ、俺たちはただ.......!」
そこまで言うと、バチ、と瞳孔がショートし、警官隊長は意識を失ってしまった。脳を焼かれたのだろう。
やりすぎだ、とは思ったが、まぁ、それこそお上の方針だ。とその死体を投げ捨てた。
残ったのは散らばる串焼きと、血と汗による蒸気。
「内臓に穴が空くかと」
「串で、ですか?」
「うるさいな君は」
ゴシゴシと警官の服で手を拭くDOESに悪態をつきながら、警官の言っていたことを思い出す「そういえば、あれは何だ?俺たちはただ......の先は」
「さぁ、もう.....聞けないですからね」
「白盤絡みだったら勿体無いことしてないか?」
「まさか!」
白盤、ホワイトレコード。それはゴールデンレコードの裏側に存在する、独自に記録された未来予測と社会設計アルゴリズムの集積体。
『すべての未来はすでに記録され、選択されている』
警官の顔が笑った気がした。目があるからだ。そう思った。
念をこめて顔を潰す、何も残らない。
破れた提灯の灯りが揺れる。背後では屋台の親父がため息をつきながら、新しく取り出したのであろう替えの鉄板を磨いていた。