研究関心 Research Interests
➢オンライン脱抑制(Online Disinhibition)
オンライン脱抑制効果(Suler, 2004)は、通常の対面コミュニケーションにおいて存在する、行動を制御する認知機能が、オンラインコミュニケーション場面では緩和される(または完全に消失する)現象を指します。つまり、通常では行わない行動や言わない発言を、ネット上ではすることが許容されると考えることです。CMC(computer-mediated communication)が日常生活に浸透する中、Suler(2004)のオンライン脱抑制は、オンラインでの人間行動や心理の特徴を指摘するものとして、近年の行動・社会科学研究や情報学研究で注目されています。
しかしながら、「オンライン脱抑制」、「オンライン脱抑制効果」、「オンライン脱抑制現象」などの用語は、最初から厳密な定義が与えられていないため、近年のネット記事や研究論文では用語の使い放題による概念的混乱が生じています。さらに、オンライン脱抑制は、従来の社会心理学のキーワードであるオンラインでの匿名性(Anonymity)の効果や没個性化(Deindividuation)などの概念とも類似しているため、この問題は一層深刻化しています。この問題を解決するためには、①これまでオンライン脱抑制の概念をきちんと整理すること、②オンライン脱抑制を確実かつ網羅的に測定する心理学尺度を開発することが必要と考えられます。以下の2つの論文:オンライン脱抑制の再考と多次元オンライン脱抑制尺度(MMOD)の作成は、それぞれ構成概念の整理と新しい尺度の作成に取り組んでいます。これらの研究がオンライン脱抑制の理論基礎を確実に構築し、ネット心理学に貢献することを期待します。
➢ネット上での態度表出行動
ネット掲示板やSNSでは、「いいね」などのリアクションボタンを使って特定の投稿に対してやり取りをすることが非常に普遍的なネット行動でしょう。オンライン脱抑制理論によれば、ネット環境で気軽な雰囲気を感じるほど、自分の態度や意見を表出しやすくなるとされています。2023年度の研究では、実験的アプローチを通じて、オンライン脱抑制、人の動機づけ、ネット上での「いいね」や「よくないね」行動の関係を検討します。この研究を通じて、オンライン脱抑制の理論的枠組みを拡大し、ネットコミュニケーションの理解を深めたいと思います。
➢ビデオ会話でのアイコンタクト
ウェブカメラを使ったビデオ会話の利用が増加しており、特にコロナ禍によってさらに加速しました。しかし、ビデオ会話ではウェブカメラが常にモニターの上に置かれるため、モニター中の相手の顔との間に視線の差が生じてしまいます。そのため、会話中で相手の様子が見えているにもかかわらず、互いに目が下に見ているように感じられるので、利用者がアイコンタクトをすることが非常に難しくなります。近年、ディープラーニング技術により、ビデオ会話中の顔に対して目の様子を相手を直視するように修正するアルゴリズムが開発されました。このようなアルゴリズムを使えば、ビデオ会話利用者にどのような影響を及ぼすかを社会心理学研究を通して検討したいと考えています。この研究アイディアは現在早期立案中です。
査読付き論文 Peer-reviewed Paper
温 若寒・三浦 麻子(2022). オンライン脱抑制:構成概念の再考と新たなモデルの提案. 心理学評論, 65(1), 52-63. https://hdl.handle.net/11094/89363
English translation:
Wen, R., & Miura, A. (2023) Online Disinhibition: Reconsideration of the construct and proposal of a new model (Wen, R., & Miura, A., Trans.). Osaka Human Sciences, 9, 63-80. https://osf.io/n7ycu (Original work published 2022)
温 若寒・三浦 麻子(in press). 多次元オンライン脱抑制尺度(MMOD)の作成および妥当性と信頼性の検討 . 社会心理学研究, 39(1). https://doi.org/10.31234/osf.io/5dy8w
English translation:
Wen, R., & Miura, A. (2023) Development of the Multi-Dimensional Measure of Online Disinhibition and examination of its validity and reliability (Wen, R., & Miura, A., Trans.). PsyArXiv. http://doi.org/10.31234/osf.io/5dy8w (Original work publish 2023)
発表 Presentation
温若寒, 三浦麻子(2022) オンライン脱抑制の構造の日中文化差 ―中国語版多次元オンライン脱抑制尺度の作成― 日本社会心理学会第63回大会(2022.09) ※査読なし・ポスト発表
毛新華, 佐藤徹男, 山本真也, 家島明彦, 日本心理学会国際委員会, 三浦麻子, 温若寒(2022) 日本に来て研究する意義を再考する 日本心理学会第86回大会(2022.09) ※査読なし・口頭発表
MISC
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