大会レポート

全日本学生柔道WCTで記者育成プロジェクト実施

 昨年、長年にわたり柔道家に愛されてきた柔道専門誌が休刊となった。柔道界にとって、非常に大きな出来事であり、同時に、柔道の情報を発信する柔道記者の人材不足ということも浮き彫りになった。

 前身の『全国体育系学生柔道体重別選手権大会』でも、様々なことにチャレンジしてきた『全日本学生柔道Winter Challenge Tournament』(以下、全日本学生WCT)の実行委員会では、この状況を危惧し、「柔道記者を育成しよう」と、今年2月の同大会において、『記者育成プロジェクト』を実施。参加大学の監督を通じて学生に声をかけ、興味を持った3人の学生に、実際に大会を取材してもらい、原稿執筆をしてもらった。

 66kg級、73kg級を白須亜子さん(東海大男子柔道部マネージャー)、81kg級、100kg超級を岡部美優さん(同)、90kg級、100kg級を吉田千晃さん(関西大学体育会柔道部)に担当してもらった。

7階級に648名参加のビッグトーナメントで優勝争う

『全日本学生柔道WCT2023』は、2月17日(金)~19日(日)の3日間、天理大学体育学部キャンパス武道館柔道場において開催。7階級に計648人がエントリーするビッグトーナメントとなった。試合は、初日に60kg級と90kg級、2日目に66kg級と81kg級と100kg超級、そして最終日に73kg級と100kg超級が行われた。

■60kg級(88名)

 60kg級は関本賢太(明治大2年)が抜群の強さを見せて優勝。3回戦の川上莉空(国際武道大2年)以外にはすべて一本勝ちで決勝まで勝ち上がった。

▶決勝

関本賢太〇背負投△多田風太

(明治大2年) (日本大3年)

 関本は決勝でも好調ぶりを存分に発揮。開始早々、右背負投で多田を高々と担ぎ上げると、そのままコントロールして畳に叩きつけて「一本」、わずか18秒、電光石火の一発だった。

以前から実力に対する評価は高いが、減量などの影響で好不調の波があるのが関本の難点。今回は、減量もうまくいったようで、その強さは図抜けていた。「調子の波をなくすことが課題」と本人も話すが、それができるようになれば、本人の掲げる「講道館杯優勝。国際大会派遣」の目標も夢ではない。今後に期待したい。

【60kg級入賞者】

優勝・関本賢太(明治大2年)

2位・多田風太(日本大3年)

3位・南太陽(日本文理大1年)

3位・福田大晟(筑波大3年)

■66kg級(104名)

 この階級は2021年の全日本ジュニアで優勝した福田大和(東海大1年)が注目されていたが、準決勝で吉岡正晃(桐蔭横浜大1年)に体落「技あり」で負けてしまった。

▶決勝

越智世成〇横四方固△吉岡正晃

(国士舘大3年)(桐蔭横浜大1年)

 吉岡は右組み、越智は左組みのケンカ四つ。序盤は越智が奥襟を叩き優勢。吉岡か果敢に攻め、寝技に持ち込むが決まらず「待て」。吉岡は小外刈、越知は大内刈で攻め合うが、ともに引き手組まず「指導」。越知が奥を叩き、吉岡が体勢を崩すが、吉岡が寝技にもっていく。組み手の攻防が続き、吉岡が内股で越知の体勢を崩し、関節技に入ろうとしたところを、逆に越知が横四方固で抑え込み「一本」。

 去年の全日本学生体重別で負けてしまったため、「今年は頑張りたい」という気持ちで臨んだという越知。今回の全試合での反省として、「決めきれるところを最後まで決められるようになりたい」と話す。今後の目標は、もっと粘り強くなることだという。

【66kg級入賞者】

優勝・越智世成(桐蔭横浜大1年)

2位・吉岡正晃(国士舘大3年)

3位・鈴木朝日(東海大3年)

3位・唯野己哲(国士舘大3年)

■73kg級(104名)

 4強に上がったのは、國學院大2年の大塚遥人。国士舘大3年の溝依郁人。それに東海大1年の滝本大翔、明治大1年の松原咲人の4人。準決勝は溝依が肩車で華麗に「一本」。松原はGSの末、背負投で「一本」を取り決勝に進出した。

▶決勝

松原咲人〇(技あり)△溝依郁人

(明治大1年) (国士舘大3年)

 溝依右、松原左のケンカ四つ。開始早々激しい組み手争いが行われ、松原が技を仕掛けるが、崩れてしまい「待て」。溝依が大内刈で積極的に仕掛け、松原も背負投に入るが、決まらず寝技へ。開始50秒、組み手争いもせず、溝依が小外刈を掛けるも、松原がやぐら投げに切り返し「技あり」。その後は溝依が反撃に転じ、2分42秒、松原に1つ目、さらに3分45秒にも2つ目の「指導」が入る。終盤は、溝依が積極的に技を仕掛けていたが、試合終了のブザーが鳴った。

優勝した松原は「(優勝する)自信はあった。今まであまり結果を出せていなかったが、やっと結果を出せてうれしい」と笑顔で語った。今後の目標として、「全日本ジュニアで優勝したい」と話す。

【73kg級入賞者】

優勝・松原咲人(明治大1年)

2位・溝依郁人(国士舘大3年)

3位・小田桐美生(国士舘大2年)

3位・太田隆介(日本大1年)

■81kg級(109名出場)

 81kg級は、佐藤輝斗(天理大3年)が連覇を果たした。

▶決勝

佐藤輝斗〇背負投△井上太陽

(天理大3年) (東海大3年)

 試合開始早々、佐藤が背負投で「技あり」を取った。対戦相手の井上は、技をかけられた後、必死に耐えていたが、その後ビデオ判定で「一本」となり、わずか31秒で試合が終わった。

 試合を終えて佐藤は、「とりあえず優勝できて、ひと安心した」と答えた。井上と試合をしたことがある佐藤は、「前回負けて、1勝1敗の状態だったが今回勝てて良かった」と話していた。

 これからの目標としては「今年の全日本学生体重別選手権で順調に勝ち上がり、優勝できるよう頑張ります」と語っていた。

【81kg級入賞者】

優勝・佐藤輝斗(天理大3年)

2位・井上太陽(東海大3年)

3位・杉本将一朗(国士舘大3年)

3位・飯田恒星(法政大2年)

■90kg級(103名出場)

 「国士舘が負けちゃいけないんで」。そう話すのは、90kg級王者の藤永龍太郎(国士舘大3年)。藤永は初戦を除き、試合時間は2分台で一本勝ち。藤永にとっての4分間は、勝つためには十分すぎる時間だった。

▶決勝

藤永龍太郎〇(技あり)△増地遼太朗

(国士舘大3年) (東海大3年)

 迎えた決勝戦、相手は昨年王者の増地。増地の2連覇となるのか、藤永が王座を奪い取るのか。その行方に注目が集まった。

 藤永左、増地右のケンカ四つ。開始早々低い姿勢で組み合い、互いに技を仕掛けるも決定打は出ない。だが、先手を打ったのは藤永。開始1分過ぎ、隙を狙った大外刈で「技あり」を先制すると、ここからは藤永のペースで試合が動く。増地に奥襟を掴まれ、振り回される場面もあったが、体制を崩さずどっしりと構える。開始2分18秒、ここで藤永が渾身の一撃を決めた。スピードのある出足払で2つ目の「技あり」。合わせて「一本」で決着をつけた。

 増地が悔しそうな表情を見せる中、藤永はすでに次を見据えていた。「目標は学生チャンピオンになること」。WCT昨年王者を倒した藤永は、また一歩、次なる夢に近づいたようだった。

 最後まで国士舘の名を背負って戦い抜いた新王者。学生ラストイヤー、藤永はどんな国士舘魂を魅せてくれるのだろう。目標達成に向け、残り1年全身全霊で突っ走る。

【90kg級入賞者】

優勝・藤永龍太郎(国士舘大3年)

2位・増地遼太朗(東海大3年)

3位・池田凱翔(天理大3年)

3位・中村峻平(東海大3年)

■100kg級(80名)

 100kg級は、1年生の平見陸(天理大)が優勝を勝ち取った。平見は、昨年の全日本ジュニアで準優勝を果たした実力者。同階級の選手が平見を警戒する中、「優勝しか見ていなかった」と自信を胸に、自身の柔道を貫き通した。

 試合当日、調子があまり上がらなかったと話す。しかし、組み手で相手を圧倒し、GSに持ち込むことなく順調に勝利を重ねる。

▶決勝

平見陸〇大腰△福本佑樹

(天理大1年) (東洋大3年)

 迎えた決勝戦は、福本と対戦。両者右組みの相四つ。序盤から平見は積極的に奥襟を掴みにいくも、なかなか技を掛けることができない。しばらく膠着した状態が続く中、開始1分23秒、福本にのみ消極的「指導」が与えられる。指導数で優位に立った平見は、落ち着いて技のタイミングを見計らう。そして、小外刈で福本のバランスを崩すと、腰を掴みそのまま投げて「一本」。多くの学生が見守る中、誰もが納得の鮮やかな釣腰で、1年生とは思えない貫禄を見せつけた。

 全日本ジュニアで逃した日本一を、今回で取り返してみせた平見。「講道館杯で優勝し、世界で活躍できる選手になりたい」。平見にとって、今大会の優勝は世界を目指すための最低ライン。一際脚光を浴びるホープは、今後どれほど美しい未来を描くのか。無限の可能性に期待大。

【100kg級入賞者】

優勝・平見陸(天理大1年)

2位・福本佑樹(東洋大3年)

3位・熊坂尉(国士舘大1年)

3位・梶原大裕(帝京平成大3年)

■100kg超級(60名)

▶決勝

酒井晃輝〇大内刈△深井大雅

(天理大3年) (愛知大3年)

 酒井は試合が始まると、奥襟を取り、自分の組み手にもっていくと、小内刈、出足払などの足技で相手を崩した。「得意の大外刈は対策されていると思った」と語った酒井は、相手を引き出して大内刈を狙い、シードなしで決勝まで上がってきた深井から、見事に「一本」を取り、優勝した。

 今回の試合を終えて酒井は、「あまり緊張せずにやってやる」という気持ちで臨んだという。また、「81kg級の佐藤、100kg級の平見の天理大学で2階級制覇していて、自分もその流れに乗って、優勝して3階級制覇したかったので、優勝できて良かった」と話した。

 天理大主将の酒井は、「昨年、全日本学生優勝大会で悔しい思いをしたので、今年こそ優勝できるチームを作り上げていきたい」と語った。

【100kg超級入賞者】

優勝・酒井晃輝(天理大3年)

2位・深井大雅(愛知大3年)

3位・井上直弥(天理大3年)

3位・森田和志(東海大2年)