招待講演

素粒子理論の各分野から3人の講師を招待し、ご講演をいただく予定です。

8月26日 14:00~15:15

Large-N reduction と IIB 行列模型 」(スライド)

川合 光 氏 (京都大学)

概要

Large-N reduction とは large-N ゲージ理論においては、時空の自由度が内部自由度によって表せてしまうという現象である。典型的な例として、時空が0次元の行列模型から、いろいろな次元の時空が発生する。特に、10次元超対称 large-N ゲージ理論を0次元に dimensional reduction した理論は、IIB行列模型とよばれており、弦理論の非摂動的な定式化の候補となっている。本講義では、Large-N reduction のいろいろな側面を考察し、IIB行列模型の問題と展望とについて議論する。

8月27日 14:00~15:15

Atiyah-Patodi-Singer(APS) 指数定理とバルクエッジ対応 」(スライド)

大野木 哲也 氏 (大阪大学)

概要

境界のある多様体上のDirac演算子に関する指数定理をAtiyah-Patodi-Singer(APS)指数定理と呼ぶ。これはAtiyah-Singer(AS)指数定理の拡張で、AS指数定理に境界からの補正項が加わったものである。近年、トポロジカル絶縁体におけるバルクエッジ対応が一般的に量子異常の相殺として理解でき、その中でAPS指数定理が重要な役割を担うことがWittenによって指摘された。

しかし、APS指数定理は質量ゼロのディラック演算子に非局所的な境界条件を課したもので、なぜこれが質量(ギャップ)のあるトポロジカル絶縁体に局所的な境界条件を課したバルクエッジ対応の物理と関係するかは謎であった。

我々(深谷、大野木、山口)は2017年にトポロジカル絶縁体に対してドメイン・ウォール指数と呼ぶ新たな指数を定義し、藤川の方法を用いてAPS指数と一致することを示した。さらに数学者(古田、松尾、山下)を加えた共同研究で今の系を高次元に埋め込むことによって、APS指数とドメイン・ウォール指数が高次元理論の二つの異なる側面として一致する数学的証明を与えた。この数学証明は一般化が可能である。

本講演では、これらの証明を概説する。またその後の発展についても触れる。

8月28日 14:00~15:15

標準模型を超える物理と中性子星」(スライド)

濱口 幸一 氏 (東京大学理学系研究科)

概要

中性子星と標準模型を超える物理に関連したいくつかのトピックについてお話したいと思います。

・1つは、論文 arXiv:1806.07151 に基づいたお話です。我々は超新星残骸カシオペアAの中心にある中性子星に注目し、その冷却曲線の観測と理論の比較から、アクシオンの結合定数についての新たな制限を与える事に成功しました。アクシオンは素粒子の量子色力学(QCD)が抱える「強いCP問題」の解決策の最有力候補である「Peccei-Quinn機構」が予言する、非常に軽く相互作用の弱い粒子であり、理論・実験の双方において国内外で精力的に研究が行われています。我々はカシオペアA中性子星の冷却曲線からアクシオンの結合定数に対して fa > O(10^8) GeV という制限を得ました。これはそれまで標準的に採用されていた超新星爆発1987Aからの制限と同程度に強いものです。

・もう1つは、論文 arXiv:1905.02991 に基づいています。暗黒物質がWIMPであるとすると、中性子星に衝突しエネルギーを失って重力ポテンシャルに捕らえられ、内部で対消滅を起こして中性子星の温度を上昇させます。この事は2007年に指摘され最近も再び注目を集め始めていますが、その全ての先行研究において、中性子星自身による加熱機構の存在が無視されていました。我々はrotochemical heatingと呼ばれる中性子星に内在する加熱機構を取り入れた解析を行い、中性子星観測から暗黒物質の兆候が得られるための条件を調べ、中性子星の初期回転速度が十分に遅ければWIMP暗黒物質の兆候が見え得るとの結論を得ました。