招待講演

仁木 宏典(国立遺伝学研究所 教授)

『バクテリアのDNA凝縮とジャポニカス酵母の温度応答』

略歴

1986年 京都大学大学院理学研究科(生物物理学専攻)修了

1988年 熊本大学大学院医学研究科単位取得退学

1991年 熊本大学 博士(医学)取得

1988年-2000年 熊本大学 発生医学研究センター 助教~講師

2000年 国立遺伝学研究所 ラジオアイソトープセンター 助教授

2005年 国立遺伝学研究所 系統生物研究センター 原核生物遺伝研究室

2019年- 国立遺伝学研究所 形質発現系 微生物機能研究室 教授

研究歴

大学院では「バクテリアの染色体がどのようにして分配されるのか?」という研究を選択した。プラスミドにどうも分配に関わる遺伝子群があると判って来た時期で、これを手がかりにすれば宿主の染色体DNAの分配機構も判るのではないかという期待で修士の2年間を過ごした。菌体をサンプリングして寒天プレートに広げ、一つ一つのコロニーを爪楊枝で拾い上げ、薬剤耐性か否かでプラスミドの保持を調べ、プラスミドの保持率が下がる変異体を探すというものであった。このプロジェクトの挫折を経て、次に大腸菌染色体の分配異常の変異体のスクリーニングを開始し、バクテリアコンデンシンMukBの発見に至った。このタンパク質は真核生物にも保存されており全ての生物で染色体の維持に関わっている。現在、SMCタンパク質ファミリーと呼ばれるタンパク質の中で最初にクローニングされたのがMukBである。さらに細胞生物学手法の発展により、細胞内でのプラスミドの動きも可視化できるようになった。今では、プラスミドの分配装置に関しては相当の事が明らかになっている。研究室を主催するようになり、分裂酵母の一つジャポニカス酵母を手掛ける事になった。菌糸を作ることができるこの酵母はこれまでにない真菌のモデル生物である。その一つが、温度変化に応答して同調した細胞分裂を起こすという事だ。温度の上昇後、一定時間後に同調分裂が起こることから、この酵母は時間を計っているとしか考えられない。バクテリアのDNA凝縮もまだ分子のメカニズムは不明であり、その一方で真菌の計時機を発見したいと目論んでいる。

近藤 倫生(東北大学 大学院生命科学研究科 教授)

『生態系の構造とダイナミクスを理解する:データ駆動型アプローチ』

略歴

1998年 京都大学 理学研究科 生物科学専攻 修士課程修了

2001年 京都大学 理学研究科 生物科学専攻 博士課程修了

2001年 日本学術振興会 特別研究員(PD)

2004年 龍谷大学 理工学部 講師

2008年 国立研究開発法人 科学技術振興機構 さきがけ研究員

2008年 龍谷大学 理工学部 准教授

2013年 龍谷大学 理工学部 教授

2018年- 東北大学 大学院生命科学研究科 教授


講演内容

生態系は環境要素との関わり合いのなか、非常に多くの生物が相互作用することで駆動される巨大な複雑系です。生態系における生物間の相互作用や環境からの影響、生態系プロセスの影響の基礎科学的「理解」が求められる一方、人間活動に由来する多様な撹乱要因が生態系の構造や動態に影響する中で、生態系の動態を予測し制御するより応用的な「理解」も求められています。私たちは、どうやってこの困難な課題に取り組んだらよいのでしょうか。この話題提供では、大規模あるいは長期の生態系観測によって得られるデータに基づいて生態系の構造や動態を「理解」するためのデータ駆動型研究の枠組みを紹介し、そこから得られた知見について議論します。また、今後の生態学研究が辿ると思われる一つの方向性について展望を述べます。

岩野 智(理化学研究所 脳神経科学研究センター 細胞機能探索技術研究チーム 研究員)

『生命科学研究を志向してホタル生物発光反応を進化させる』

略歴

2011年 電気通信大学大学院 電気通信学研究科 修士課程修了

2012年 米国カリフォルニア州立大学バークレイ校に短期留学

2013年 理化学研究所 脳科学総合研究センター(研修生)

2014年 電気通信大学大学院 情報理工学研究科 博士課程修了 学位:博士(理学)

2014年 理化学研究所 脳科学総合研究センター 細胞機能探索技術開発チーム 研究員

2015年 同 基礎科学特別研究員

2018年- 同 脳神経科学研究センター 細胞機能探索技術研究チーム 研究員

研究歴

私は学生時代から一貫して生物発光に関わる技術開発を行っています.生物発光は発光基質が酵素によって酸化されることで,発光します.生物発光は生命現象の可視化ツールとして,生命科学分野で汎用されていますが,様々に課題があります.学部生から学位取得までは,電気通信大学 丹羽治樹教授,牧昌次郎助教の基で有機化学を基にして,ホタルの発光基質の類縁体合成(ちょろっと)と発光活性評価(みっちり)を行っていました.生物発光は基質と酵素による発光反応であるため,基質だけの改良では限界があり,酵素もいじくりたいなと考えていました.そこで学位取得後は理研の宮脇敦史先生の基で,1から分子生物学の技術を学び,遺伝子,大腸菌,哺乳細胞,マウスなどを扱えるようになりました.4年かけてようやく,動物個体の非侵襲イメージングで強力な力を発揮する新技術AkaBLIを報告できたので,これについて紹介させていただきます.Akaは電通大で開発に携わった人工基質AkaLumineと理研で開発した人工酵素Akalucの組合せのことで,BLIはBioluminescence imagingの略称です.

私が今進めている研究では,細菌学が非常に重要な存在になっています.今回,皆様とお話できることを大変楽しみにして,参加させていただきます.