「ねえ、カフカ。愛って何?」
「難しいことを聞くのね」
「カフカでも難しいんだ」
「ええ。けれど例えることなら出来るわ」
「愛って何?」
例えば歌を歌うこと。例えば着飾ること。鳥の求愛。並べ立てるとカフカは笑った。
「それは恋ね」
愛とは幸せを願うこと。
愛とは林檎を剥くこと。
愛とは見返りを求めないこと。
全部を差し出して、一部になることは?
「それは」
歌を歌うこと。着飾ること。鳥の求愛。
「全てもう、君のものなのね」
カフカは笑う。
「悪い子」
誰が。
「――」
カフカはそっと指を差す。
「列車に乗る時間よ」
「うう……」
丹恒が、あれ以来わざとらしく自分に誘いを掛けている、と穹は感じていた。
そしてそれはあながち間違いではない。あの晩の出来事から丹恒は以前にも増して穹に気をかけるようになったし、一定の距離感を保つこともやめていた。
冷たいシャワーに打たれながら、穹は天井を睨む。
「うー」
そして唸りながら、丹恒への苛立ちを何とか噛み殺す。
『――俺のために、しない……』
そう答えたときの丹恒の表情を、思い出す。彼は何故笑ったのか。たかだか弱音を吐かせるために、自分の貞操を喰らわせるような男の考えなど、穹に解るはずもない。
「ああ……もう」
バスタオルで乱暴に身体をぬぐった。
そして資料室にもどると丹恒が椅子に座って本を読んでいる。彼は顔を上げずに一言言った。
「髪はきちんと拭いてこい」
まるで子供に対するような小言だ。しかし穹はむっつりと黙ってタオルを被った。
「何か飲むか?」
本から目を逸らさずに丹恒が問いかける。穹は答えず、彼の隣に座った。
「どうした」
「別に……」
丹恒は本を閉じる。そしてようやく穹に顔を向けた。
「穹」
「なに」
「俺は、お前を好いている」
穹は丹恒を凝視した。
「……だから?」
「お前はあのときもうしないと言ったな。それは俺に手を出さないという意味だったのか?」
「――……っ」
穹は勢いよく立ち上がると、丹恒を見下ろした。今日列車には丹恒と穹しか残っていない。
……絶対にわざとだ。
「俺に……言わせるの」
丹恒はその目を真っ直ぐ見返している。そして無言で立ち上がった。
「ちょっと……」
穹を抱きしめて、そのまま壁に押しつける。彼は慌てたが、抵抗はしなかった。代わりに切羽詰まったような声で問いかける。
「本当に解ってる? 俺の好きは……」
「好きだ」
丹恒は穹の耳元で囁く。その声が思いの外低く、そして甘いことに穹は気づいてしまった。
「あ……」
脳髄がとろけるような声だった。頭がぼんやりして、全身から力が抜けていく感覚がある。へたり込んでしまいそうになるのを丹恒に支えられて、なんとか立っている状態だった。
「……穹」
丹恒の声は、もう耳から離れない麻薬のようだった。少し掠れたその声は優しく耳を愛撫し、思考を奪っていく。
「お前に求められないのは、さみしい」
「ひ」
耳を噛まれる。穹は震えた。丹恒に抱きしめられたまま、ずるずると床に座り込む。ぺたりと座った状態で抱き抱えられているから、足を少し開くような形になって、その姿勢がまた羞恥を誘った。
「た……んこう……」
耳の輪郭をなぞるように舐められて背筋が震える。丹恒はほんのりと頬を染めてとろりとした目で穹を見た。その目の中に情欲がちらついているのを見て取って、穹は硬直した。
「っ」
丹恒の手がするりと下に滑る。へそのあたりを撫でられてびくりと反応した穹に、丹恒は吐息交じりの声で呟いた。
「……動画を消去しただろう。やせ我慢もほどほどにな。……バックアップは任せろ」
「お前こそ早く消せってば!」
穹は丹恒の手をつかんでどかそうとしたが、その手を逆に掴まれる。そしてそのまま握りつぶされそうな力で摑まれて、穹は悲鳴のような声を上げた。
「いたっ……! ちょっと……!!」
穹の抗議の声を無視して、丹恒はその手を自らの首に持っていく。その行動に息を呑んでいると、彼は切なげに眉を寄せた。
「……お前になら、何をされてもかまわない」
「な……」
「すまない。他に……いい方法が、思いつかない。お前を傷つけないで済む、示し方が解らない……」
『それは恋』
穹は唇を噛む。
「……好きって言って、したいって言えばいい」
「……? 言った」
「言ったけど……!! そうじゃないって言うか……!!」
「……すまない、難しいな……」
「~~~~……っ! と、とにかく俺は……!」
丹恒が訝しげに見る。穹は顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「……お前と、そういうことするってなると、頭おかしくなるから!」
もうしない、と宣言したときのことを思い出す。あのときもそうだった。丹恒に触れられると頭がおかしくなって、それから丹恒が何をするにも煽情的に見える。
「問題ない。お前は普段からおかしい」
「やめて!」
穹は顔を覆ってしゃがみこんだ。丹恒も目の前にしゃがんで、その顔を覗き込む。
「気にすることはない」
「気にするよ……お前はよくても俺は気にするんだよ……」
穹は泣きそうな声で言った。
「穹、キスがしたい……」
「あ~~~~~っ!!」
穹は奇声を上げて丹恒の顔を押しのけた。真っ赤な顔を背けて、情けなく眉を困らせた。
「……だめか?」
丹恒の弱々しい声に、穹は視線を泳がせる。
「……う」
了承を得たのだと悟って丹恒は穹を抱き寄せた。
「好きだ、穹」
「あ……う……」
「だれよりもお前が好きだという自信がある」
丹恒の囁きに、穹は顔を真っ赤にしたまま硬直した。
「お前はどうだ?」
「お、俺は……」
穹は目を泳がせて、それから意を決したように口を開いた。
「――俺が、丹恒を好きだったの」
「それは違う、穹」
丹恒は首を振る。
「そう仕向けたのも、俺だ」
「……そういうの、やだ」
穹は表情を曇らせたが、丹恒は淡々と続けた。
「お前に好かれたかった。お前の好意が外に向くのが、我慢ならなかった」
「なんで……」
穹は途方に暮れた顔で丹恒を見上げる。
「なんで、全部欲しがること言いながら、何も持ってないみたいな顔するんだよ……」
穹は、丹恒の首に腕を回した。そして自分からその唇に吸いつくと、丹恒は一瞬驚いて動きを止めたがすぐに彼を抱き寄せた。
「ん、ふ」
唇を貪るようなキスを交わしながら、二人はゆっくりと床に倒れ込む。
「っ……はあ」
穹は大きく息を吐く。丹恒はそんな穹を見下ろして言った。
「キスをしたのは……初めてだ」
「俺……めちゃめちゃ……最低……」
「いや、お前はキスがしたいと言いながら、耐えていた」
丹恒はそっと穹の唇をついばむ。
「俺のために耐えているお前が、可愛かった」
「……趣味悪い」
穹はそう吐き捨てるように言ったが、その顔は真っ赤だった。丹恒はその頬を撫でて目を細めた。そして熱っぽく言う。
「もう一度……いいだろうか?」
「っ……」
穹は息を呑んで、それから小さく頷いた。その様子をじっと眺めていた丹恒だが、やがて彼もまた目を伏せた。
唇が重なる。今度は少し強張ったような感触があったあとすぐに舌が滑り込んできた。舌の表側を撫でられ、裏側を舐められる。穹はたまらず丹恒の上着をつかんだ。
「ふ……っ」
口の中を丹恒が好きなようにかき回す。舌と舌が絡まるたびに背筋がぞくぞくした。思わず目を閉じてしまうが、そのせいで余計に丹恒の舌の動きを感じてしまう。
「う……ん……」
執拗に責められて頭がぼうっとしてくる。じわりと腰の奥が重たくなって、そこでようやく穹は我に返った。
「だ……だめ!」
慌てて顔を離す。丹恒は驚いた顔をしたが、すぐに首をかしげた。
「どうした」
「お前……キス、うまいし……」
穹は真っ赤になって顔を隠す。丹恒はますます不思議そうな顔をした。
「お前も上手いと思うが……」
「俺の話はいいの!」
ふう、と一度大きく息を吐くと、穹は丹恒の上着を摑んで引き寄せた。そして耳元で囁く。
「俺……もうだめ」
「何がだ?」
「……だから、したくなっちゃうから、だめ」
丹恒が顔を上げた。そして穹をまじまじと見つめて、それから口を開いた。
「今更だろう」
「う……だ、だから、その……」
穹は視線を泳がせる。しかし意を決したように丹恒を見た。
「……俺、もうこういうの無しでお前と付き合っていくのは無理で!」
丹恒は少し考えるように目を伏せてから頷いた。
「ああ、俺もそれは無理だ」
「え?」
穹はきょとんとして聞き返す。すると丹恒は穹の上着の裾に手を滑り込ませて、腹から腰へとなぞるように撫で上げた。
「っ……!」
穹は慌ててその手を押さえる。
「据え膳食わぬは男の恥という言葉があるらしい。……知っているか?」
丹恒は穹の耳を軽く食んで、そう囁く。穹はその刺激にすらぴくりと反応しながら答えた。
「お前は自分から皿の上に乗ったんだ。自分がまっさらであるとあの飲月君に教えてしまったのはお前だ」
「根に持ちすぎ……」
「俺は、酒で前後不覚になったお前に差し向けたに過ぎない。……正直に言って、物足りない」
不公平だとばかりに吐息と共に吐き出された不満にゾクリとする。
穹はごくりと喉を鳴らすと、小さな声で「丹恒のえっち……」と呟いた。
「穹は、可愛い」
「う」
「……可愛いと言うと、お前は反抗するような目で俺を見ながら、同時に俺を屈服させたいというような顔をする」
穹は目を見開いた。
「可愛い。穹……俺を組み敷いて、どうしたい? 俺は今、あまり余裕がない……お前が素っ気ない態度を取るから……」
「っ……」
穹は丹恒の胸に顔を埋めてぎゅっと抱きついた。そして蚊の鳴くような声で言う。
「……服を全部脱いで、俺に見せて。丹恒の、全部」
「ああ……」
丹恒はごそごそと自分の上着を脱いで、それからタートルネックを一気に脱ぎ捨てた。躊躇いなくベルトを外し、ズボンを下ろしてそれも床に投げる。最後に下着を脱いで、足先で蹴った。
「……」
穹は全裸の丹恒を見上げる。実用性の高い筋肉が詰まった身体が目の前に晒されている。勃起した性器を恥じらうこともなく、その下に指を差し向ける。
丹恒は背を向けて尻を突き出し、そこを指先で拡げて見せた。
「っ……」
「お前の好きにしていい」
慎ましくある穴は空気にさらされてヒクヒクしている。穹は喉を鳴らす。そしてゆっくりとそこに顔を近づけていった。
「……ん、う……」
丹恒が吐息をこぼした。
穹は舌でそこを舐めたあと、顔を離してそこを見る。唾液で濡れそぼったそこはひくついていて、まるで喜んでいるかのようだった。
「あ……」
丹恒は膝をこすり合わせるようにして身じろぐ。
「……穹、ローションを使え。その棚の下だ」
「え……うん」
穹は丹恒の言うとおりに棚の下を探す。そして小さなボトルを見つけて手に取った。粘度の高い液体が透明な容器の中で揺れている。新品だった。このためにわざわざ買ってきたらしい。
「丹恒、本気で俺としたかったんだ……」
思わずそう呟いてしまってから、穹ははっと口をつぐむ。しかし手遅れだったようで、丹恒は耳まで赤くして頷いた。
「……そうだ」
「そ、そっか」
気恥ずかしくなってお互いに黙り込む。
穹はボトルのキャップを開けて、手のひらにローションを出した。体温で温めてから、丹恒のアナルに塗り付ける。
「っ……」
ぬるりとした感触に息を詰めた丹恒だが、穹は構わずに指を一本挿入した。
「ん……う」
ゆっくりと胎内を広げるように指を動かす。丹恒は少し身を固くしたが、息を吐いてそれを受け入れようと努めてくれる。その様子に安堵しつつ指を二本、三本と増やしていった。やがてそれも馴染んできたころ、穹はゆっくりとその指を引き抜いた。
「あ……」
「丹恒、こっち向いて……顔見ながら、したい」
「っ……ああ」
丹恒は振り返ると、膝立ちで穹に顔を寄せる。そして腕を穹の首に絡めると唇を重ねた。
「ん……」
ちゅ、ちゅと音を立てて何度も角度を変えてキスをする。唇がやわらかく触れ合うたびに全身が痺れるような心地がした。舌を絡めているうちに、頭がぼうっとしてくる。
穹は丹恒を押し倒しながら、自分のズボンの前をくつろげる。すっかり勃起して硬くなった性器を取り出して、それを数度扱く。そしてふと、思い出す。
「丹恒、ゴムは」
「用意していない。……それと」
「?」
「――頼む。中に、出して欲しい」
「っ……」
穹はぐっと丹恒に身を寄せた。そして勃起したペニスをアナルに押し当てる。先端が触れただけで、丹恒はびくっと肩を震わせた。
「挿れるよ……」
「ああ……」
穹はぐっと体重をかけて、丹恒の中に入っていく。狭い胎内が柔らかく締め付けてくる感覚に息が漏れた。
「っ……あ」
丹恒も眉を寄せている。苦痛があるのだろうが、それでも止めさせようとはしなかった。ゆっくりと腰を進めて根元まで埋めると、穹は一度動きを止める。そして丹恒の頰に口づけを落とした。
「全部入った……」
「……ああ」
「動いていい?」
「好きにしていいと言っただろう……」
「うん……」
穹はゆるゆると腰を動かす。ローションのおかげで滑りがよく、少し動いただけでも気持ちがよかった。しかしそれは丹恒も同じらしい。最初は声を殺して堪えていたようだが、次第に声が我慢できなくなってくる。
「っ、ふ……ん」
「丹恒の声、可愛い……」
「……っ」
「我慢しないで……聞きたい……」
はむはむと耳を食みながら囁く。すると丹恒はびくびくと身体を震わせて、本棚にすがりついた。
「あ……あっ」
律動に合わせて声が漏れる。苦しげな声だが、確実に快感を感じているらしいことがわかって安心する。
「はあ……っんう……」
「ね、気持ちいい? 俺はすっごくいい……」
「ああ……」
丹恒の腕が穹を引き寄せるように動く。
「ん、っ……ん」
互いの身体が密着する体勢になり、更に結合が深まる。丹恒がキスをねだるように顎を上げて見せたので、穹はすぐに唇を塞いだ。
「っ、んうっ!?」
その瞬間、丹恒が目を見開く。穹は唇を合わせたまま笑った。そして最奥をぐっと押し上げると、丹恒の腰が跳ねた。
「んう!」
びくんと跳ねる身体を押さえつけるように体重をかけて奥を叩くと、そのたびに胎内がうねる。その動きに搾り取られそうになりながらも動きを止めずにいると、次第に丹恒の身体が弛緩していくのを感じた。どうやら達したらしい。しかしまだ穹の方は満足できていないのでそのまま動き続ける。
「うっ! う、ぐっ……!」
穹はその頭を掴んで更に密着させるように引き寄せる。そして腰をぐりぐりと押しつけると、丹恒の喉からくぐもった声が漏れた。
「ん、お……うぐ……!」
苦しいのかバタバタと暴れるが、穹は構わずに腰を動かす。やがて限界を迎えて丹恒の中に射精すると、そこでようやく口を離した。
「っはあっ! はあ……っ! ふう……っはッ……」
丹恒は大きく呼吸をしながら、ずるりとその場に座り込む。穹もそれに倣って床に座り込んだ。それから改めて丹恒の身体を抱きしめると、彼もまた強く抱きしめ返してくる。
「もっと……」
耳元で囁かれる言葉に心臓が跳ね上がる。そして同時に腹の奥が熱くなるのを感じた。穹はその衝動のままに再び動き始める。今度はゆっくり味わうように抽挿を繰り返したあと、徐々にペースを上げていった。
「あ……っ! あ、う」
丹恒は必死に声を殺そうとするが、どうしても声が漏れてしまう。そんな様子が可愛くて仕方ない。もっと声が聞きたい。丹恒が乱れているところを見たい。そう思ってしまう自分を止められなかった。
「俺……今すごい興奮してる」
「う……」
「お前のせいだよ、丹恒」
耳元で囁いてやる。すると丹恒はぶるりと身を震わせて眇めた。切なげに穹を見る。
「被虐趣味ある? 自分のせいにされると、興奮する?」
「あ……う」
丹恒は答えない。だがその耳まで真っ赤になっているところを見れば一目瞭然だった。穹は舌なめずりをして更に腰を押し付ける。
「あッ……! あっ……」
「可愛い……ねえ、今度は丹恒がして……俺の上に乗って、動いて」
「くぅぅ……っ、うっ、く……っ、わ、わかった……」
一気に引き抜いて、穹が寝転がると、丹恒はのろのろと起き上がってその足の上に跨がる。そしておずおずと腰を落としていった。
「ん、う……っ」
騎乗位の体勢で挿入するのは初めてだ。しかし丹恒はすぐにコツを掴んだのか、少しずつ腰を下ろしていく。やがて根元まで収めると、熱い息を吐いた。
「はあ……」
「全部入った?」
「ああ……」
丹恒はこくりと肯いてからゆっくりと動き出す。最初はぎこちない動きだったが徐々にスピードを速めていった。宝の持ち腐れが、腹の上でぺちぺちと揺れている。それをぎゅっと握ってやると丹恒がびくりと跳ねた。
「あっ、うっ」
「いいよ……もっと動いて……」
穹も下から突き上げるようにして腰を動かす。するとその振動で手の中の性器も擦られるらしく、一層強く締め付けてきた。
「ね、丹恒の好きなところ教えてよ」
「……っ」
「奥? それとも手前?」
そう問いかけると、丹恒は困ったように視線を彷徨わせたあと、小さく呟いた。
「おく……」
「どこ?」
丹恒は深く腰を落として歯を食いしばると、そのままぐりぐりと押しつけてきた。
「んっ、く……こ、ここ……がっ、あ!」
丹恒がそこまで言うと、穹は急に起き上がってその身体を抱きしめる。そしてそのまま床に押し倒した。
「うあっ!?」
繋がったまま体勢を変えることになったため丹恒の口から悲鳴が上がる。構わずに腰を動かすと、その度に結合部からぐちゅりと卑猥な音がした。
「ここ? こう?」
「あっ、そ、そうだ……そこに直接、出されるとっ、たまらなく、なる……」
「……っ」
穹は丹恒の両足を抱えるようにして持ち上げると、上から押し込むようにピストンを繰り返す。すると奥の奥が開いてくる感覚がして、まるで吸い付くかのように先端にまとわりついてきた。
「あ、あっ! あつい……! おくっ、ぐちゅぐちゅでっ、だめだ……ッ」
「はあっ、あ……気持ちいいっ、丹恒、ね、俺もう限界……っ」
「ひっ、んうっ」
ラストスパートをかけるように更に激しく腰を動かすと、丹恒の声も余裕のないものになる。穹は一層強く丹恒を抱きしめ、互いの唇を貪るように口づけを交わした。
「ん、ふうぅ、んむ、う゛うぅんっ」
丹恒のくぐもった声が直接口内に響き、その甘さに頭がくらくらする。
そしてとうとう限界が訪れ、穹は丹恒の最奥に先端を押し付けながら射精した。
「んぶっ! ぐっ、う゛ううぅぅ~ッ!」
丹恒も達したらしく、ビクビクと痙攣して体液を吐き出す。穹はそれを全て手のひらで受け止めてから唇を離した。そしてゆっくりと自身を引き抜くと、丹恒のぽっかりと開いたそこから、ドロリとした白濁が流れ出るのが見えた。
「はあ……っ」
乱れた呼吸を整えつつ丹恒を見下ろすと、彼は虚ろな目で天井を見つめていたが、やがてぼんやりとこちらを向いた。
「……きゅう、」
「ん?」
何かを言いかけたようだが、うまく言葉にならないらしい。穹が首を傾げていると、丹恒は目を閉じた。
「大丈夫? 丹恒」
穹は慌てて声をかけるが返事はない。眠ってしまったのだろうか? そう不安になりながら顔を見ていると、やがて彼の目がゆっくりと開くのが見えた。その瞳はまだ快楽の余韻が残っているかのように潤んでいた。それにどきりとしていると、彼は手を伸ばしてきて穹の首に絡めてくる。そして引き寄せて口づけてきたかと思うと、そのまま抱きついてきた。
「っ、丹恒?」
「……もっと、したい」
そういうと丹恒の姿が変わっていく。角が生え、耳が尖り、目の色が変わる。髪は長く伸びて、性器は消失した。丹恒は足を拡げて見せると、穹を誘ってくる。
「……この姿では入れる場所は無いが……それでもしたい」
「うん……」
穹は丹恒の足を抱え上げて、そこに軽くキスを落とす。足の間にこすりつけるように性器を往復させると、すぐに硬さを取り戻した。
「ん……」
丹恒は眉根を寄せて鼻にかかったような声を漏らす。それがとても可愛くて、穹はそのまま何度も繰り返した。
そのうちに焦れたように丹恒が腰を揺らし始めるので、穹もそれに合わせて動きを速めていった。やがて互いに限界を迎えそうになった頃になってようやく動きを止める。それから改めて唇を重ね合わせた。
「はあ……っ」
「んむ……う……」
舌を絡ませ合いながら、二人は同時に果てていた。
「はあ……っ」
丹恒は目を閉じて、余韻に浸っている様子だった。穹はその身体を抱きしめながら囁く。
「……丹恒のは、愛か恋か、よくわからないんだって」
「なんだ、それは」
「しらない」
穹は目を閉じる。
「丹恒は悪い子……俺のことをめちゃくちゃにして、愉しんでる……」
「違う……俺は、お前に……」
丹恒は何かを言いかけたが、その続きを聞くことはできなかった。穹の意識がそこで途切れたからだ。
「穹、おい……起きろ」
ぺしぺしと頰を軽く叩かれて意識が浮上する。目を開けると見慣れた天井が見えた。そして上から丹恒が覗き込んできているのが見えた。彼はいつもの服を着ており、髪も角も長くない。
「あれ……」
そして珍しいことに、エプロンをしている。
「……?」
「食事を用意する。以前お前に振る舞えなかったものだ。……起きるなら、顔を洗ってこい」
丹恒はそう言うと資料室を出て行った。穹はまだぼんやりしている頭を振って、それからゆっくりと起き上がった。そして言われた通りに顔を洗い、身支度を整える。
「丹恒、何作ってるの?」
キッチンに向かうと、そこには既に料理が並べられていた。しかしまだ出来上がってはいないらしく、丹恒はフライパンを火にかけていた。
「炒飯だ」
「おおー……」
穹は感心して言う。すると丹恒は照れたように顔を背けた。
「……お前がいつも食べているものを再現したかったんだが、なかなかうまくいかなくてな」
「え? わざわざ不味いチャーハンを?」
「いざ手料理として作るとなると、コツがいる」
「手間のかけ方を間違っている……」
「そうかもしれないな」
自分でも判ってるんだ。
丹恒は薄く笑うとフライパンに卵を割り入れた。ジュワ、という音と共にふわりと立ち上る香りに穹は思わず腹を鳴らす。
「すぐにできるから座って待っていろ」
「はいはーい」
穹は素直に座って待つことにした。頬杖を突き、丹恒の背中を見つめる。愛とは何か。穹は久しぶりに考えた。幸せを願うこと。林檎を剥くこと。見返りを求めないこと。それと――全部を差し出して、一部になること。
全ての条件に一致する、おそらくそれは、手間暇の掛かった不味いチャーハンのことだろう。差し出されたレンゲを握りしめると穹は難題の解を手に入れて、すっきりと笑った。