【変形性関節症の病態解明】
高齢者の増加とともに関節の痛みや腫れで日常生活に支障をきたす人の数も増えてきました。高齢者の関節の痛みや変形のほとんどは変形性関節症が原因です。従来軟骨が減って生じる病気と考えられてきた変形性関節症ですが、最近は多くの知見が積み上げられた結果、軟骨に加えて関節を構成する骨や滑膜という組織にそれぞれ変化が生じて、痛みや腫れ、関節の動きの制限が生じることがわかってきました。しかし今のところ病気が進む本当の仕組みはわかっておらず、そのため病気の進行を止めるような治療法も見出されていません。福井研では現在、変形性関節症について病気の起こる仕組みの解明とそれを通じた新しい治療法の確立を目指して研究を続けています。
ヒト関節軟骨細胞の培養による形状の変化。変形性関節症に罹患して手術が必要になった関節から採取した軟骨組織から軟骨細胞を単離して単層培養で維持した場合の細胞の形状の変化を示しています。A、B、Cはそれぞれ培養開始から2日、7日、14日後の軟骨細胞の形状を示しています。軟骨細胞は培養開始後早期は球状の軟骨細胞本来の形状を保っていますが、培養期間が長くなるにつれて扁平な、線維芽細胞に似た形状を示すようになります。このような形状の変化は細胞の機能的な変化を伴っており、培養期間が長くなるにつれて軟骨細胞はもともと産生していたⅡ型コラーゲンやアグリカンの産生をやめて、かわりに本来わずかしか産生していないⅠ型、Ⅲ型コラーゲンを豊富に産生するようになります。このような軟骨細胞の形状や機能の変化が起こる仕組みは従来ほとんどわかっていませんでしたが、我々の研究室における研究の結果、avb5とa5b1という2種類のインテグリンが関与していることが明らかになりました(Fukui N, et al, Arthritis Rheum 2011, Tanaka N, et al. Arthritis Res Ther 2013)。
研究室の1コマ。こんな感じで実験をやっている人もいます。
【運動・スポーツが骨の健康におよぼす影響】
わが国では超高齢社会となり、骨粗鬆症を基盤とした骨強度低下が原因の骨折が急増しております。骨強度評価法を用いて身体運動における骨折リスク・骨力学特性の評価、骨強度低下に対する薬剤・運動・力学的環境などの介入効果の評価を行っています。また、子供の時に運動・スポーツを行うことが骨の健康におよぼす影響について小学生を対象とした研究を行っています。子供から高齢者まで年代を通じて運動習慣を持つことが骨の健康におよぼす影響について研究しています。女性における各年代を通じた運動習慣と健康の問題に対しても研究しております。
出典:Imai K, Ohnishi I, Matsumoto T, Yamamoto S, Nakamura K: Assessment of vertebral fracture risk and therapeutic effects of alendronate in postmenopausal women using a quantitative computed tomography-based nonlinear finite element method. Osteoporosis Int 20:801-810,2009.
出典:増島篤、鳥居俊、岩本潤、今井一博:子供の運動をスポーツ医学の立場から考える ~小・中学生の身体活動が運動器に与える効果~ 臨床スポーツ医学会学術委員会整形外科部会 2016.
【スポーツ外傷・障害予防】
不良姿勢(マルアライメント)とスポーツ外傷・障害の関連を調査し、さらにマルアライメントを改善する介入プログラムによりスポーツ外傷・障害が予防できるか、スポーツ障害予防としての運動指導法、を研究しています。また、「競技者の健康を生涯守るために」を標語にして、スポーツ外傷・障害予防の教育プログラムを研究しています。
出典:今井一博,福井尚志.競技者に対するスポーツ医学の役割 ~競技者の健康を生涯守るために~.体力科学66:323-333,2017.