ウスバキトンボの謎

ウスバキトンボの「長距離移動」の謎

 ウスバキトンボ Pantala flavescens は、都市部を含む日本各地で多く観察され、もっとも身近なトンボのひとつです。
 ところが、この種が越冬できる地域は日本にほとんどありません。この矛盾を解き明かす鍵が海を越える
「長距離移動」です。
 ウスバキトンボは、毎年南方から海を越えて日本に飛来し、世代を繰り返しながら北上し、夏から秋にかけて全国各地で個体数を急増させます。しかし、寒さに弱いため、冬になると日本のほとんどの地域で死滅してしまいます。つまり、ウスバキトンボは毎年、死ぬ運命が待っている日本に
「片道切符の旅」をしていると考えられてきたのです。

 実はこの「長距離移動」に関する多くの疑問が未解決のまま残されています。

 
1日にどれくらい移動するのか?移動は風まかせなのか?一生の間に移動する時期としない時期があるのか?すべての個体が移動をするのか?南方向への移動はないのか?

 これらの疑問を解決することが、ウスバキトンボ全国マーキング調査の目的です。

全国マーキング調査と写真撮影で謎の解明に挑む

 ウスバキトンボ全国マーキング調査では、全国規模のマーキング調査写真撮影を組み合わせることで、ウスバキトンボの長距離移動の謎に迫ろうとしています。

 もし
翅にマークしたトンボが別の地域で発見されたならば、移動距離や移動の方向を推測できるでしょう。マークしたトンボが何日も同じ地に留まっていたら、移動しなかった証拠になります。撮影した写真からトンボの成熟段階(羽化後の成熟の度合い)や性などがわかるため、移動とトンボの状態の関係も推測できることでしょう。

 たとえ再捕獲がなかった場合でも、全国規模でどのようなトンボがいつ採れたのかというデータは貴重なものであり、ウスバキトンボの長距離移動の謎に一歩迫ることができます。


世界初の試み

 ウスバキトンボは世界中に分布しているため、その「長距離移動」は海外でも注目されてきました。ただし、今回のような方法・規模の調査は世界初の試みです。世界から注目されるデータが得られることを期待しています。