文理選択のプリントが配られてから、二日が経過した。
五十嵐は只今考え中で、どっちのコースにするのか、未だ決めかねているようだ。
じっくりと悩みに悩んで、それから自分自身の中で出した答えこそが、自分にとって最善のものになるのだと俺は思う。だから、今は五十嵐の文理選択に関しては、俺は口を出さずそっとしておくつもりだ。
俺たちは、いつものように朝家を出ると、駅へ向かって住宅街の道を歩く。
「それにしても寒いねー……」
「ああ、そうだな。暦の上では、今が最も寒い時期って言われているしな」
そのせいか、コートとマフラーと手袋をしても、まだまだ冷気が入り込んでくる。何故日本はこんなに寒いのだろうか……。
「わっ、今の気温、マイナス三度だって!」
ほらほら、と五十嵐がスマホの温度表示をこちらに見せてくる。ここんところずっと晴れだから放射冷却でも起こったのだろうか。確かこの仕組みは地学でやったような気がするな……。いつやったんだっけ?
「それに、明日は雪が降るみたいだよ」
「なにっ⁉」
スマホを弄っていた五十嵐が、再びこちらに見せてくる。
そこに表示された天気予報では、確かに日曜日の午後七時からずっと雪だるまマークがついていた。
「マジか……。知らなかった」
ここ最近全く天気予報を見ていなかったから、そういうのに疎くなっているのかもしれない。
「今回は、爆弾級の南岸低気圧がやって来るから、過去最強の大雪になるみたいだよ」
「ふーん、そうなのか……」
大雪か……。ここ何年もずーっと積もっていなかったから、久しぶりに銀景色が見れるかもしれないな。
「もし雪が積もったら、雪遊びできるかな?」
「まあ、できるんじゃないか?」
「やったー!」
無邪気な子供かよ……。まあ、元天使だし、積もった雪なんて見たことないだろうから、無理もないか。
子供にとっては大雪は楽しいものかもしれない。だが、俺にとってはあまりよいものとは思えない。
「でもな、いいことばかりじゃないぞ。例えば、大雪で学校に行きづらくなるからな」
「え? 雪が降っても学校あるの?」
「まあ、あるだろうな」
「そんなー‼」
落胆しすぎだ……。
「俺たちの学校は、暴風警報もしくは暴風雪警報が出た場合にのみ休校になる。これは生徒手帳にも書いてあるんだが、まあ実際そんなものはこの地域じゃ滅多に出ないから、土砂降りだろうが大雪だろうが学校はあるんだよな」
「厳しすぎだよ……。警報じゃなくて注意報でも休校にして欲しいな……」
ホントそれな。マジでそうして欲しいと何回思ったことか。だが、規則は規則。仕方がない。
「文句なら姉ちゃんに言ってくれ」
生徒会長である姉ちゃんなら、もしかしたらなんとかしてくれるかもしれない。でも、『え~なんで変えるの~? 学校楽しいじゃん!』とか言われそうな気もする。
まあ、とにかく月曜に雪が降ろうが、学校は休みにならないだろう。
あー、雪で憂鬱になるな……。