性分化疾患パワハラ訴訟原告の土 多恵子さんを支える会・会長の斉藤佳苗です。
普段は医師として働きつつ、LGBT問題についてSNSでエスケーというハンドルネームで情報を発信したり、雑誌などに記事を発表したりしています。『LGBT問題を考える 基礎知識から海外情勢まで』という本も出版させていただきました。
性分化疾患(DSDとも呼ばれる)については大学時代に勉強はしたものの詳しくはなく、LGBT問題を調べる中で、その疾患を持つ人々の存在がLGBT活動家によって半ばプロパガンダのように利用されており(たとえば『肉体の性別は男と女の2つではない』という自分たちの主張の根拠として性分化疾患を例に出すなど)、それが当事者の方々を深く傷つけていることを知り、普段の発信の中でも何度か問題提起したこともありました。
今回の裁判の原告である土 多恵子さんがXのDMを通して私に連絡をくださったのは、2024年12月半ばのことでした。
自身の抱える性分化疾患という病気に関する情報が、職場のLGBT研修資料の中で不適切な形で取り上げられており、それに抗議した結果、不当な処分を受けてしまったということでした。
どうにかしてこの理不尽を世間に訴え、法律を通して職場に謝罪と賠償を求め、けじめをつけさせたいと強く希望されていたため、LGBT問題に取り組む弁護士として私が唯一知っている滝本太郎弁護士を紹介させていただきました。
話し合いの結果、徹底的に戦うべきだという結論にいたり、私も支える会の会長として協力させていただくことになりました。
会社からのパワハラ被害を受けた土さんに対して、適切な謝罪と賠償が行われることを心から願い、この目的の実現に向けて尽力してまいります。
また、この裁判を通して、性分化疾患の人々の存在がLGBT活動家によって不当に利用され、それによって多くの当事者が傷ついている現状が改善することを願っています。
はじめまして。土 多恵子(つち たえこ)と申します。
1995年、私はプロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク(P&G当時)の研究開発本部に入社しました。P&Gは、当時の日本社会と比べて格段に自由で、多様性を尊重する文化がありました。女性社員が多く、「女性はこうあるべき」といった無言の圧力も感じることなく、自分らしく働ける理想的な環境でした。
私は17歳のとき、ロキタンスキー症候群(MRKH)という先天性の疾患と診断されました。子宮や膣の一部または全部が生まれつき欠損している疾患で、医学的には「先天的性分化疾患(DSD)」の一つに分類されます。結婚・出産といった女性像に縛られずに働けるP&Gは、私にとって安心できる職場でした。
ところが2023年、社内ポータルで「インターセックス=男性と女性のコンビネーション」などとする資料が多数掲載されているのを目にしました。そこには、「インターセックスとは典型的な女性や男性の定義に当てはまらない生殖器や性的な解剖学的構造を持って生まれた人」と書かれていました。まるで、私たちDSD当事者が“典型的ではないから”男女から外されるべき存在だと言われているように感じました。
GABLE(社内LGBTQ+アライネットワーク)のリーダーは、私の指摘を受けてこの表現が不適切であることを認めましたが、訂正も周知も行わず、問題は放置されました。私は何度もメールで、誤情報の訂正、関係者への周知、そして対話の機会を求めました。しかし、返事はありませんでした。
私は社内のコンプライアンス窓口に内部通報を行い、是正と再発防止を正式に求めました。しかしP&Gはその通報内容を関係者に共有し、私に「口外禁止」の業務命令を出したうえで、「intersex」「GABLE」といった語を含む私のメールを自動的に人事部に転送する仕組みを設定していました。そして、虚偽の理由で懲戒処分を下されたのです。
理不尽な対応と孤立により、私は適応障害を発症しました。もはや働き続けることはできず、2025年5月、退職を余儀なくされました。
それでも私は、P&Gを訴えます。
外部の政治団体の主張をそのまま持ち込む“インスタントなアライシップ”。
関係者に情報が筒抜けの「内部調査」。
声を上げた社員を命令と懲戒で黙らせる企業体質。
こうしたP&Gの組織的な問題と向き合い、ただすこと。
それが、今の私にできる、後輩たちへのたった一つの責任だと信じています。