[台本] 東西東西・噺屋:天犬 大火の興行 ─第■幕:四月異聞の幕間
これは誰かの夢、誰かの願い、泡沫の夢。誰かの異聞の幕間。
東西東西・噺屋:天犬 大火の興行シリーズ最終話までを下地にした物語です。
こちらの台本をやる前に当シリーズに目を通しておくて良いかもです。
登場人物
○天犬 大火(あまいぬ たいが)
17歳、男性
天狗の半妖で、怪談を雑談に挿げ替える“噺屋”。
皮肉屋で毒舌家で陰湿な性格。
だが……
※「男;大火」と表記されます。
ノウンと兼ね役です。
○天犬 大火(あまいぬ たいが)
17歳、女性
朝起きたら女になってしまった!!!
いや!!!!!!!!!!世界ごと変わってる!?!?
※「女;大火」と表記されます。
〇鬼嫁 弓彦(おにとつぎ ゆみひこ)
16歳、男性
元気で純粋無垢で、要領が良く品行方正な高校二年生。
噺屋になるべく大火に教えを請うている少年。
祓い屋としての才能は群を抜いている。
多分、『鬼嫁 弓燁』の反転存在。
○ノウン・ヤン・アモーク
16歳、男性
突如転校してきた高校二年生。
世界の意志を聞き、教義とする“ヘネラリザドゥ教”の信徒であり、断罪者。
生真面目で融通の効かない性格をしているが悪い子ではない。
不真面目で不良な上に半妖の大火によくつっかかる。
名前からしてあの『ノウン・ヤン・アモーク』の反転存在。
男;大火と兼ね役です。
〇尊海 牢乎(とうとうみ ろうこ)
40歳、男性
寺生まれの“祓い屋”で大火の師匠。
軟派な発言が多いが物腰柔らかく、温和な人物。が、一にはドライ。
対怪異的にも物理的にも最強の人物。
お前は何も変わんないんかい。
○虚聞飛鳥間華蔵閣 鉢頭摩(きょぶんあすまけぞうかく はどま)
???歳、女性
虚聞飛鳥間華蔵閣家の初代当主で今も生きる最強女傑。
見た目は少女の様だが言動はちゃんとババア。
古から生きる存在だが決して硬い考えは持たず柔軟且つ陽気な気質の人物。
今回の騒動の犯人。
天犬 大火(女)♀:
鬼嫁 弓彦♂:
♠ノウン・ヤン・アモーク/天犬 大火(男)♂:
尊海 牢乎♂:
虚聞飛鳥間華蔵閣 鉢頭摩♀:
↓これより下が台本本編です。
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鉢頭摩:「閑話休題。それはさておき。ともかく、じゃ。」
鉢頭摩:物語とは、必ずしも“はっぴぃえんど”を迎えるとは限らない物。
話が進めば進むほど、苦難は更に大きく、重く、息が出来なくなる程辛くなる物語も多々ある。
鉢頭摩:「じゃが、ワシはそんなもの好かん。」
鉢頭摩:故に、幸せな時を切り取り、繋ぎ合わせ、流転させ、恒久的平和を作る。
間。(鉢頭摩、誰かを一瞥する。)
鉢頭摩:「お主たちもその方が良いじゃろ?」
鉢頭摩:では展開しよう。
“はっぴぃえんど”を掴めなかった少年……いや、少女の、微睡みの幸せを。
鉢頭摩:「ではでは、皆々様、隅から隅まで、
ずずずい~っと希い上げ奉りまする(こいねがいあげたてまつりまする)。」
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~大火の自室~
女;大火:「すぴー……すぴー……」
(女;大火、無茶苦茶寝てる。)
女;大火:「ちっ、しょーがねーなぁ~~~~
良いよ……じゃあやってみろよ……但し、俺を~……」
間。
女;大火:「……んあ?」
間。
女;大火:「……朝?なんかよく寝たなぁ……」(涎をふく。)
間。
女;大火:「なんか……声変だな……あー……あ゛ー……
口開けながら寝て喉壊れちまったか……
……あー……だりぃ……」
(女;大火、姿見に目を向ける。)
女;大火:「…………………。」
間。(女;大火、怪訝な表情で手を上げる。)
女;大火:「はぁ!?!?!?」
(女;大火、姿見に駆け寄る。)
女;大火:「え!?!?!?は!??!?!え!??!?!?!はぁ!??!?!?!?!」
(女;大火、自分の顔、身体を触りまくる。)
女;大火:「えええええええええええええ何!?!?俺、男だよな!?!??!?!?!??!!??!
なんで女に?!?!?!??!?!?!」
(遠くからドタドタドタドタと足音がする。)
弓彦:「どうしたの大火(たいが)ちゃん!!!!!!!!」
女;大火:「だ……」
弓彦:「タイガちゃん……?」
女;大火:「誰だお前――――――――――――――!!!!!!!!」
弓彦:「えええええええええええええええ!?!?!??!?!
どどどどどうしたのタイガちゃん!?ボク!ボクだよ!!」
女:大火:「俺の知り合いにテメェみてぇな長身犬系イケメン男子は居ねェ!!!」
弓彦:「い、イケメン!?そ……そんな……えへへ……」
女;大火:「何ニヤけてんだ気色悪ィ」
弓彦:「そ、そんなぁ!!」
女;大火:「てかテメェは誰だって聞いてんだよ!!!」
弓彦:「ゆ、弓彦(ゆみひこ)だよ!鬼嫁 弓彦(おにとつぎ ゆみひこ)!君の弟子だよ!!」
女:大火:「いや誰だ────……オニトツギ……?俺の弟子……?」
間。
女;大火:「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」
(女;大火、狼狽する。)
女;大火:「お……お前……オニトツギ……?」
弓彦:「そうだよ、オニトツギだよ。」
女;大火:(俺の知ってるオニトツギは女だった……!
なのに俺よりも身長高い男に!?……いや、女の時も俺とおんなじくらいだったけれど……)
弓彦:「……大丈夫……?
一人称もいつもと違うし……」
(足音が近付いて来る。)
♠ノウン:「一体全体、どうしたのだ。騒がしい。」
弓彦:「あ、ノウンくん。」
女;大火:「の……ノウン……?」
(女:大火、バッと声の方を向く。)
♠ノウン:「ん、どうしたタイガ。そんなに拙の事をまじまじと見て。」
女;大火:「せ……」
♠ノウン:「……せ?」
女;大火:「背高いし顔が良い~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
♠ノウン:「なっ!なんだ急に……///」
女;大火:「イラつく~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
♠ノウン:「なんだ急に!?」
女;大火:「てか一人称“拙”になってんのはなんでだよ!!!」
弓彦:「タイガちゃんの様子がなんだか変なんだ……」
♠ノウン:「そうだな。拙たちからではいつも通りに見えているが、
タイガにとっては違う様に見受ける。」
女;大火:(な……なんだ……?俺が女で二人が男に???
しかも様子からして俺が女なのが普通……なんだ?世界線が変わって男女逆転でもしたのか????)
弓彦:「んー……牢乎(ろうこ)さんに頼った方が良いよね。」
女;大火:「え、師匠?」
♠ノウン:「そうだな。珍しくこちらに滞在しているのだ。頼らない手は無い。」
弓彦:「うん、ロウコさん呼んでくるね。」
女;大火:「師匠!?」
女;大火:(俺が女になっていて、オニトツギとノウンが男になってるって事は……
元々男だった師匠は……)
♠ノウン:「お、来たかロウコ。」
女;大火:「!!」
牢乎:「どーしたのー?」
女;大火:「いや女になっとらんのかい!!!!!!!!!!!!!!!」
牢乎:「えー?」
女;大火:「畜生!頭が割れそうだ……!」
弓彦:「だ、大丈夫!?」
♠ノウン:「ふむ、何か異常事態なのは間違いないな。」
牢乎:「その様だね。」
(牢乎、女;大火に目線を合わせる。)
牢乎:「タイガくん。どうしたんだい。」
女;大火:「!」
女;大火:(し、師匠……顔が良過ぎる……!)
女;大火:「じゃ、じゃなくて!」
牢乎:「?」
女;大火:「師匠は、師匠だよな?」
牢乎:「……不思議な事を聞くね。
僕は僕だよ。いつでもどこでも、どんな世界でも、ね。」
女;大火:「…………ああ、俺の知ってる師匠だ。
今から俺が言うこと、おかしいって思うかもだけど、一旦最後まで聞いてくれ。」
牢乎:「勿論だとも。」
女;大火:「実は──」
鉢頭摩:切り取り。
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鉢頭摩:繋ぎ合わせ。
女;大火:「…………え?」
~下校中~
弓彦:「どうしたの?タイガちゃん。」
女;大火:「え……?」
弓彦:「……。」
女;大火:「いや……ぼーっとしてただけだ。」
♠ノウン:「今日1日ずっとぼーっとしているな、体調が悪いのか?」
鉢頭摩:「なんじゃ?イブならあるぞ。」
女;大火:「んー……いや、誰、このチビ。」
鉢頭摩:「そんなムスっとするでない。」
女;大火;「ムスっとしてないが?????」
弓彦:「何言ってるのさ、同じクラスの鉢頭摩(はどま)ちゃんだよ。
いつも帰り道一緒でしょ?」
鉢頭摩:「そうじゃそうじゃ。」
女;大火:「え??ん???えぇ????」
鉢頭摩:「で、どうしたのじゃ。“はーぶてぇー”も一通りあるぞ。」
女;大火:「いや……ん~な~んか……記憶が妙に朧げな気がするんだよな……」
♠ノウン:「そうか……」
女;大火:「え?うわ!うわああ!!?」
(ノウン、女;大火を担ぎ上げる。)
弓彦:「わ……わ……わ……!」
鉢頭摩:「を~」
女;大火:「な!なんだよ急に担ぎ上げて!」
♠ノウン:「本調子では無いのだろ?なら拙が運んでやる。」
弓彦:「お姫様だっこだー!!」
鉢頭摩:「女子の憧れじゃのー」
女;大火:「やっ!辞めろ!恥ずかしいだろうが!」
♠ノウン:「何を恥ずかしがる、拙とお前の仲だろ。」
女;大火:「は!?」
弓彦:「え!?!?タイガちゃんとノウンくんの関係って一体……」
♠ノウン:「……しー……」
女;大火:「なに微笑んでんだよ気色悪い!」
♠ノウン:「……今日はやけに口が悪いなタイガ。」
女;大火:「あぁ?いつも通りですけど???」
♠ノウン:「たく……うるさい口だな……」(女;大火にキスをする。)
(ノウン、女;大火の口をキスで塞ぐ。)
女;大火:「~~~~~~~!!!」
弓彦:「きゃ~~~~!!キ、キ、キ~~~~!?!?」
鉢頭摩:「キスじゃ!キスしとるぞ!!!」
(ノウン、口を離す。)
女;大火:「──っふぁ……」
♠ノウン:「少しは静かに──」
女;大火:「何やんだクソがああああああああ!!!!!」
(ノウン、女;大火にぶん殴られる。)
♠ノウン:「ぶべらぁああああああああああ!!!!!」
女;大火:「きききき急にキスとか!頭イカれてんのか!!死ね!死ね死ね!バーカ!!」
(女;大火、走り去る。)
弓彦:「この一連の流れは流石に気持ち悪いよノウンくん……」
鉢頭摩:「ワシは良いと思うぞ。」
♠ノウン:「……ふ……面白い女だ……」
弓彦:「うわぁ……
って!タイガくーん!待ってー!!」
鉢頭摩:「待つのじゃ~」
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~尊海屋敷、大火の自室~
(女;大火、毛布を被ってすすり泣いている。)
女;大火:「うっ……ううっ……」
牢乎:「タイガくん、家に着くなりお部屋に籠っちゃって、どーしたの?」
弓彦:「え、えーっと……まあ、色々と……」
牢乎:「んー……ま、年頃だし、色々大変なんだろうねぇ。
とりあえず、僕はタイガくんに替わって夕飯の準備手伝ってくるから、
ユミヒコくんにここは任せるよ。」
弓彦:「あ、はい。」
(牢乎、去る。)
弓彦:「……た……、……。」
鉢頭摩:「どうしたのじゃ。」
弓彦:「ハドマちゃん、何処行ってたの?」
鉢頭摩:「うむ、ちょっとな。
それで、アマイヌ タイガの部屋の前で何をもじもじしておるのじゃ。」
弓彦:「…………ボクなんかが彼女を励ませれるのかなって……。」
鉢頭摩:「…………。」
間。
鉢頭摩:「下らん事を考えとるのぉ。」
弓彦:「く……下らない事!?」
鉢頭摩:「そうじゃ。下らん。
“出来る事”を慮るのは確かに大事な事じゃが、
ワシは“したい事”、しかもそれが“誰が為(たがため)”の欲求であるのであれば、行動に起こした方が良いと思うぞ。」
弓彦:「……。」
鉢頭摩:「何はともあれ、後悔の無い様にじゃよ。」
弓彦:「うん。ありがとう、ハドマちゃん。」
鉢頭摩:「お礼を言われる程ではないじゃよー」
間。
弓彦:「タイガちゃん、入るよ。」
(弓彦、襖を開ける。)
弓彦:「……大丈夫?」
女;大火:「ぐす……ぐす……お、俺……」
弓彦:「うん。」
女;大火:「キス……初めてだったのにぃ……」
弓彦:「……。」
間。
弓彦:「ねえ、タイガちゃん。」
女;大火:「あぁ?」
弓彦:「タイガちゃんとノウンくんってさ、どんな関係なの?」
女;大火:「知らねぇよ……俺も……
ノウンがどういうつもりなのかも分かんねぇし……」
弓彦:「それは……、……。」
(弓彦、女;大火の毛布を優しく取る。)
女;大火:「ぇ……?」
弓彦:「……ふふ。」
女;大火:「オニトツギ……?」
弓彦:「ボクはね、タイガちゃんの事が好き。」
女;大火:「……へ?」
弓彦:「あ……き、急にキスしたり……とか、しないから……」
女;大火:「え……え……えぇ??」
弓彦:「/////」
(弓彦、立ち上がって離れる。)
弓彦:「と……とにかく!げ、元気出して!タイガちゃん!!」
(弓彦、去る。)
鉢頭摩:「……。」
女;大火:「……。」
鉢頭摩:「アイツなんで急に告白したのじゃ?」
女;大火:「いや分からん。」
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~尊海屋敷、調理場~
女;大火:「師匠ぉー」
牢乎:「お、タイガくん。元気になったー?」
女;大火:「まあ、うん。」
牢乎:「じゃ、お夕飯のお手伝いしてよ。今日お手伝いさん忙しいらしくてさ。
僕一人じゃ時間掛かっちゃうからさー」
女;大火:「おう。」
間。
女;大火:「……俺、オニトツギに告白された。」
牢乎:「……へぇー青春だねぇ。」
女;大火:「俺、全然分かんなかったんだけど、アイツが俺の事好きって。」
牢乎:「タイガくん鈍感だもんねぇ。」
女;大火:「えぇ……!?
……そ、そうか……俺、鈍感……か……。」
牢乎:「うん、クソボケだね。」
女;大火:「くッ!!」
(女;大火の心に500のダメージ。)
女;大火:「で、でも俺、まだちょっと疑ってんだ。
……俺なんかを愛してくれるなんて……」
牢乎:「……。」
(牢乎、作業の手を止める。)
女;大火:「……師匠?」
牢乎:「本当に、大火くんは鈍感でクソボケだよ。」
女;大火:「ぐはっ!」
(女;大火の心に9999のダメージ。)
女;大火:「な、何故……急に口撃を……!!!」
(牢乎、真面目な顔で女;大火を見る。)
牢乎:「僕はタイガくんの事、愛してるよ。」
女;大火:「へぇええ!?!?」
(女;大火、顔を赤くする。)
女;大火:「な…………何言ってんだよ急に!!
師匠が俺にそんな冗談言うなんて……」
牢乎:「冗談じゃないよ。」
女;大火:「へぇえええッ!?!?!??!?!」
牢乎:「タイガくん、君は愛されている。
少なくとも、僕はずっと君を大事だと思っている。」
女;大火:「そ……そんな事言うなんて……師匠じゃねぇ!!」
牢乎:「……タイガ、分かってるでしょ。」
女;大火:「へぇ?!///」
牢乎:「君は皆に愛されてるんだ。自分を雑に扱わないでくれ。」
間。
牢乎:「僕は──」
♠ノウン:「タイガ~~~~~~~~~~~~~!!!」
(ノウン、窓を割って入ってくる。)
女;大火:「うわあああああ!窓割って入ってくるなぁ!!!!!」
♠ノウン:「タイガ!!拙もお前の事が好きだぞ!!!!!」
(ノウン、必死な形相で迫る。)
♠ノウン:「拙はお前に初めて会った時から!お前と共に戦った時から!拙はお前に惚れていた!!
自分の身を削ってでも人を守るその献身!拙はお前を守りたいと思った!!
拙はお前にいなくなって欲しくない!!!」
女;大火:「な……なんだよ急に……!」
弓彦:「タイガくん!!!!!!」
女;大火:「オニトツギ?!?!」
弓彦:「僕も君を守りたい!!君とずっと一緒に居たいんだ!!
頼む!何処にも行かないでくれ……!」
女;大火:「なになになになになになに?!?!」
鉢頭摩:「モテモテじゃの。」
女;大火:「急に沸くな!!」
鉢頭摩:「ずっとおったのじゃ。」
♠ノウン:「タイガくん!」
弓彦:「タイガ!」
女;大火:「ええええええ?!?!?!」
牢乎:「見つけた。」
鉢頭摩:「ぐえっ」
間。(鉢頭摩、牢乎に捕まる。)
牢乎:「やあ、ハドマ様。」
女;大火:「……えぇ?」
鉢頭摩:「しっしまったっ!!ロウコに見つかってしまったのじゃ!出歯亀しすぎたのじゃ!!!」
女;大火:「ど、どういう事だよ師匠。」
牢乎:「んー?タイガくん、滅茶苦茶、術中にハマってない?」
女;大火:「え?」
弓彦:「どうしたのタイガちゃん?」
牢乎:「タイガくん、君は男の子?女の子?」
女;大火:「………………はっ!!」
♠ノウン:「タイガ?」
女;大火:「俺!男だ!!!!!
あっぶねぇ~~~~~!!!もう全然女のつもりで居たぜ!!!!」
♠ノウン:「ど、どういう事だ……?」
牢乎:「どうやら、ハドマ様によって色々と弄られてたみたいでね。」
弓彦:「え!?ハドマちゃんが!?」
牢乎:「この人は、虚聞飛鳥間華蔵閣 鉢頭摩(きょぶんあすまけぞうかく はどま)。
タイガくんをこの“泡沫の夢”に閉じ込めている張本人さ。」
女;大火:「きょぶんあすま……ってお前――――!!!!!」
牢乎:「そう、適当人間である虚聞飛鳥間華蔵閣 一(きょぶんあすまけぞうかく はじめ)と関わりのある人。」
弓彦:「ロウコさん……“泡沫の夢”ってどういう事ですか?」
♠ノウン:「ま、まさか拙たちは……」
牢乎:「大丈夫だよ。君たちが想像している様な事は無い。
ただ単に、“タイガちゃん”の身体の中に“タイガくん”の心が閉じ込められていただけさ。」
鉢頭摩:「閉じ込めたなんてそんなそんな。完全な善意じゃよ。
ワシは思うのじゃ。幸せな方が良い、と。」
女;大火:「そりゃそうだろ。」
鉢頭摩:「……。」
(鉢頭摩、凄い形相で女;大火を睨む。)
女;大火:「な……なんだよ……」
鉢頭摩:「お主……であれば何故自分をいたずらに消費する。何故自分を雑に扱うのだ。」
女;大火:「は、はあ??」
鉢頭摩:「ワシはそんな生き方、幸せだとは思わぬ。
故に、幸せな時を切り取り、繋ぎ合わせ、流転させ、恒久的平和を作り、ワシはお主をこの世界に閉じ込めるのじゃ。」
女;大火:「何を勝手な事を!」
鉢頭摩:「オニトツギ!ノウン!お主らもその方が良いじゃよな!」
弓彦:「……。」
♠ノウン:「……。」
鉢頭摩:「そして何よりも、ロウコ。お主自身、そう思っとるじゃろ。」
牢乎:「……僕は──」
女;大火:「うるせぇ!!!!!」
鉢頭摩:「ッ!!」
女;大火:「俺が……俺一人が助かろうとするなんて考えてると思ってんのか!!!」
♠ノウン:「っ!!」
女;大火:「俺が与えられた幸せだけで満足出来るワケも無ェ!!!」
弓彦:「っ!!」
鉢頭摩:「しっ!しかし!!」
牢乎:「僕は。」
鉢頭摩:「っ」
牢乎:「……タイガくんを信じている。
タイガくんだけじゃない。」
(牢乎、弓彦とノウンを見る。)
牢乎:「タイガくんやあの子たちは、きっと苦難を乗り越えて、明るい明日を目指せるって。」
鉢頭摩:「……。」
間。
鉢頭摩:「……しかし、もしもそうじゃなかったら。」
間。
鉢頭摩:「不確定な未来よりも、確かな今の幸せの方が良いではないか。」
牢乎:「それを信じてあげるのが、僕たち大人の責務じゃないかな。」
鉢頭摩:「……。」
女;大火:「え。」
間。
鉢頭摩:「大人?」
牢乎:「そうだよ。この人大人。なんなら僕なんかよりう~~~んと長生き。」
鉢頭摩:「平安時代から生きとるぞ!」
女;大火:「ば……ババア!!!」
鉢頭摩:「今をときめく、のじゃロリババアじゃ。」
弓彦:「いや、ババアとかそういう尺度では無いと思うよ。」
♠ノウン:「妖怪の類いだな。」
鉢頭摩:「……オニトツギやノウンはどうなのじゃ?
このまま幸せなタイガを閉じ込めた方が良いと思うじゃろ?」
弓彦:「……ねえ、タイガ……くん。」
女;大火:「なんだ。」
弓彦:「君の生きる世界には、ボクたちみたいな人が居るの?」
女;大火:「……ああ。概ね似たような人が居るな。」
弓彦:「……そっか。」
♠ノウン:「……では、帰れ。」
鉢頭摩:「お主たち……!」
♠ノウン:「拙は、タイガを愛している。
それはこの世界だけでは無い。きっと、他の世界の拙も……
……拙がタイガにいなくならないで欲しいと思っているのなら、他の拙も同様だ。」
弓彦:「うん。ボクも……他の世界のボクもきっと同じだと思う。
どんな苦難も君と乗り越えたいって思ってる。」
鉢頭摩:「く……っ」
牢乎:「ハドマ様が何を知っているかは、分からないけれど、
貴女が見た幸せではない彼らの旅路は、きっとまだ道半ばだ。
彼らなら、僕たちの知らない“ハッピーエンド”へ、更にその先へと。」
鉢頭摩:「……本当に良いのじゃな。ロウコ。これは他でも無い、お主の──」
牢乎:「良いって言ってるじゃないか。」
鉢頭摩:「むぅ……。」
間。
女;大火:「………………でもまぁ、この世界の俺は、愛されもんで良かったぜ。」
弓彦:「何を言ってるのさ!」
女;大火:「っ」
♠ノウン:「拙たちはお前を愛しているぞ。」
女;大火:「それはこの世界の、女の──」
♠ノウン:「お前の世界の、お前の知る拙たちだ。」
弓彦:「ボクたちがそうなんだから、きっとそうだよ。」
女;大火:「……っ」
弓彦:「君は自分一人で勝手に考えて、勝手にどっかに行っちゃう。そんな気がする。」
女;大火:「……。」
弓彦:「そうなったら、ボクは、ボクたちは君を地の果てまで探し出すから、覚悟しててよね。」
女;大火:「……はは……参ったな。」
鉢頭摩:「…………これはこれで、若々しくかわゆいの……。」
女;大火:「ほら、さっさと俺を元に戻せ。」
鉢頭摩:「げに粗暴な子じゃ。
……さ、目を瞑るのじゃ。」
女;大火:「……。」
鉢頭摩:「次に目を覚ます時、きっとお主は何も覚えておらぬ。
……が、努々忘れるな。」
女;大火:「は?」
鉢頭摩:「…………幸せになるんじゃぞ。」
女;大火:「好きで不幸になろうとは思ってねーよ。」
鉢頭摩:「……そうか。」
女;大火:「……じゃあな、お前ら。」
♠ノウン:「ああ。」
弓彦:「またね。」
女;大火:「……。」(目を瞑る。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~尊海屋敷、自室~
♠男;大火:「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!」
(男;大火、目を覚ましてガバッと起きる。)
♠男;大火:「…………!」(自分の身体のあちこちを触る。)
間。
♠男;大火:「……ふぅ~~~……」
間。
♠男;大火:「……なんで安堵してんだ俺?」
牢乎:「どーしたのータイガくーん。」
♠男;大火:「師匠。」
牢乎:「朝から大きな声出して、怖い夢でも見たのかい?」
♠男;大火:「実は──……」
牢乎:「実は?」
♠男;大火:「……ん?どんな夢見てたんだろ。
…………でも、そんな悪い夢でも無かった気がする。」
牢乎:「……そっか。それは何よりだ。」
♠男;大火:「?」
牢乎:「何はともあれ、朝食を食べよう。せっかく“弓燁(ゆみか)”ちゃんが用意してくれたんだからさ。」
♠男;大火:「はーい。」
(男;大火と牢乎、去る。)
間。
鉢頭摩:「……ワシは、お主たちの幸せな明日の到来を願い、祈っとるよ。」
間。
鉢頭摩:「今日はこれにて終幕。」
───────────────────────────────────────
END