「ともしび」 は、子どもたちが自分の気持ちや考えを整理し、言葉で表現できるようになることを支援する活動です。
特別支援教育の現場での経験をもとに、感情の言語化や内言語の育成に役立つ教材やワークを開発・提供しています。
活動の柱は、次の3つです。
教材づくり
五感日記や心の扉ワークなど、子どもの心を整理するオリジナル教材を制作しています。
相談とサポート
保護者や教師、子ども本人からの相談に応じ、学習・生活の中での困りごとを一緒に考えます。
広がりの場づくり
教育現場だけでなく、一般家庭でも使えるツールを発信し、だれもが「自分の気持ちを大切にできる」環境づくりを目指します。
「ともしび」という名前には、
一人ひとりの心に小さな光をともすことが、やがて周囲を照らす大きな灯火につながる
という願いが込められています。
「ことばにならない気持ちに、火を灯す。」
私たちは、困りを抱える子どもたちの根本にあるのは、
感情や経験が心の中で渦巻いたまま整理されず、
内言語として育たず、発信できないことにあると考えます。
それは、学びの遅れや人間関係のつまずきという形で表れますが、
本当の困難はもっと静かで、もっと深く、見えない場所に潜んでいます。
私たちが目指すのは、
その内なることばが“発火”する瞬間を支えること。
無理に言葉にせず、色、形、身体感覚、沈黙の中で感じ取り、
やがて詩や祈りのような形で、
自分の内から外へと届く「ことばの芽」が生まれるその瞬間を待ち、見守り、灯していきます。
この場では、
「話さなくてもいい」が出発点です。
「ことばにならないまま」が、まず尊重されます。
子どもたちはやがて、自らのタイミングで“火を灯す”ように、自分の声を見出していきます。
**内言語が発火すれば、
世界とのつながりが、再び生まれる。**
それこそが、本当の意味での「学び」のはじまりだと、私たちは信じています。
内言語発火ワークとは、子どもたちが心の奥に抱く言葉や、まだ言語化されていない感覚、さらにアフェクト(微細な情動の動き)を整理し、外へ表出する力を育むための教育的アプローチである。言語は個人の内的世界と外界を橋渡しするだけでなく、感覚と心、認識の三者をつなぐ働きを持つ。私たちは何かを「感じた」とき、それを言語や象徴で捉えることで初めて意味づけし、他者や社会と共有可能な形に変換する。この意味づけのプロセスこそが、自己の内面を理解し行動に反映するための基盤であり、内言語発火ワークの核心にあたる。
心理学の分野においても、身体感覚と認知・感情の関係は数多くの研究で示されている。米エール大学のジョン・バーグ教授とコロラド大学ボールダー校のローレンス・ウィリアムズ氏が行った有名な実験(科学誌Scienceに発表)では、被験者にホットコーヒーやアイスコーヒーを短時間持たせ、その後、他者の性格特性を評価させるという方法を用いた。結果として、身体的に温かい刺激を受けた人は、他人をより「心が温かい人」だと判断し、他者への信頼感や寛大さが増す傾向が見られた。この研究は、身体的な温度感覚と社会的な心理評価の間に直接的な関係があるわけではないにもかかわらず、人間の感覚が言語的・概念的な比喩を通じて社会認知と結びつくことを示している。つまり、身体感覚や情動を整理し言語や色・象徴に置き換える行為は、認識や他者理解を拡張する有効な手段になり得るという示唆である。
内言語発火ワークでは、このような研究的背景を踏まえ、心の感覚と身体の各部位を結び付け、それらを色や短い言葉、絵などの表現で可視化する。たとえば「胸のあたりがざわざわする」「頭が重たい」など、抽象的な身体感覚を色(赤・青など)や言葉に置き換える。これにより、ストレスや心の変化、感覚的な揺らぎが外化され、客観的に見つめることが可能になる。また、感情と色・言葉を結び付けて「タグ化」することで、自分の感情に名前を与える行為が習慣化し、アフェクトを精緻に認識できるようになる。これは、感情が「漠然とした不安」として滞るのではなく、「今は緊張で胸が硬くなっている」など、より具体的に言語化されることを意味し、その時点で心理的負担が緩和されやすくなる。
さらに、こうしたワークを繰り返すことで、子どもたちは自分の心の動きや身体感覚を客観的に捉えるメタ認知を育てることができる。感情や感覚を外部化し言語で整理する過程は、自分の内面を第三者的に眺める力を育み、行動や感情を適切にコントロールする基盤を形成する。特に、困り感を抱える子どもたちは、社会とのすり合わせにおいて自分の感覚や思考をどのように表現すべきか苦労することが多い。内言語発火ワークは、言語や色、絵を媒介として内的世界を整理することで、そうした子どもたちがより豊かで柔軟に他者と関わるための自己理解と自己表現の力を育むことを目的としている。
参考文献:John A. Bargh & Lawrence E. Williams (2008). Experiencing Physical Warmth Promotes Interpersonal Warmth. Science, 322(5901), 606–607.