このページは,私が2008~2011年度に神戸大学大学院経済学研究科で担当した「計量分析演習」の内容と講義資料をまとめたものです。授業内容は,厳密な理論よりも修士論文の執筆を念頭に置いて実証分析への応用を重視しています。
(2018/12/09 ときどき資料をほしいとリクエストをいただくので公開しますが,内容はかなり古くなっているので留意して下さい)
Jeffrey M. Wooldridge (著),Introductory Econometrics: A Modern Approach,South-Western Pub
この教科書は,非常にわかりやすい直感的な説明と豊富な例が特徴です。難しい数学はほとんど使われていないので,統計学に関する基礎知識があれば初学者でも十分に読むことができます。
これを読めば,計量経済学の基本を一通り学ぶことができます。Undergraduate向けの教科書ですが,扱われているトピックも豊富で実用的です。特にChap 4までは完全に理解できるまで繰り返し読んでください。実際に実証分析を行い修士論文を執筆するためには応用力が大切ですが,基礎的な理論をおろそかにすると,間違った分析方法を選んでしまったり結果を間違って解釈してしまったりしてしまいます。教科書で理解できないところがあれば,参考資料として紹介した他の入門書も併せて読んでみてください。
さらにChap 12までを読めば,だいたい自分の研究テーマについて,どのような分析方法を適用できるか,どのようなデータが必要かなどがわかってくると思います。その後は,自分が用いるデータや分析方法に応じて,Chap 13以降や,他の中級以上の教科書の対応する部分を読めばよいでしょう。
この教科書はかなりの大部で,日本語訳もないのですが,読みやすい英語で書かれているので理解できるまで繰り返し読んでください。中国人留学生で英語が苦手な方には中国語版もあります。
教科書の例で用いられているデータは,すべてコンパニオン・サイトから入手することができるので,教科書に載っている分析結果はすべて自分で再現することができます。
統計学の基礎(特に,確率分布,推定・検定)を正確に理解していることが必要です。「統計学のポイント整理」に重要な事項をまとめてありますので,参考にしてください。また,教科書のAppendix A~C(数学および統計学)も参考にして下さい。
実際に統計データを用いた分析を行うには,Stataなどのソフトウェアが必要です。下の参考文献に挙げた松浦『Stataによるデータ分析入門』の第1~3章までを読みながら,実際にStataで作業を行ってみてください(統計学の復習にもなります)。
Stataは専門家の間では非常によく用いられているソフトで,特にマイクロ・データを扱うための機能が充実してます(もちろん,時系列分析などにも十分な機能を有しています)。
Stataには複数のエディション(MP,SE,IC)があり,価格にも大きなバリエーションがあります。MPが最上位で,複数のCPUをサポートしています。SEは複数のCPUをサポートしていませんが,メモリが許す限り大規模なデータ・行列を扱えます。ICは扱えるデータ・行列に制限があります。詳しくは大学生協のホームページや代理店のホームページなどを参照してください。
どのようなデータを分析するかによってエディションを選べばよいのですが,通常はICで十分です(多くの大学で教育用端末にインストールされているのはICだと思います)。
計量経済分析のためのパッケージには,Stata以外にも様々なものがあります。あくまで電卓と同じで,道具に過ぎないので自分にあったものを使うのが最良です。特に使い慣れたパッケージがない場合はStataを推奨します。
無償で利用することができる計量経済分析のパッケージもあります。なかでも,Gretlは直感的なインターフェイスで,使い方もすぐに理解できます。計量経済学でよく使われる分析方法はほぼマウスでメニューを選択することで行えます。また,Rを用いればよりフレキシブルな分析が行えます。Rは簡単に使いこなせるとは言い難いですが,基本的な機能だけを使ってみたいのであれば,Rコマンダーなどの直感的なGUIも用意されています。授業の課題など小規模なデータの分析であればこれらのフリーウェアでも十分です。
下記2つは良書だと思います。Stock and WatsonはWooldridgeと並ぶ定番の教科書です。山本は初歩的な内容ですが,計算が丁寧でわかりやすいです。
浅野・中村は行列を用いて書かれており,日本語で書かれた中級の教科書としては定番です。Hayashiは標準的な大学院修士レベルの教科書なので,大部ですが研究者を目指す方は通読してください。Greenも大学院修士レベルの定番ですが,さらに大部なので辞書的な使い方に向いているかもしれません。
下記はStataを使う際に参考になると思います。
何を研究したいかということが具体的に決まっていないと,何を勉強するべきか,どのような資料・データを集めればよいかという今後の方針が定まりません。具体的に何を研究するかを決めるのは分析者自身ですが,テーマを選ぶ参考になる文献として以下を紹介しておきます。
また,実証分析に不可欠なのはデータです。分析に必要なデータを収集して整理することができれば実証分析の半分は完了したといっても過言ではありません。しかし,現実には分析に必要なデータが簡単に入手できるということはまずありません。そもそも意図するデータが存在しないということありますし,データがあっても一般には公開されていないこともあります。また,申請し許可を得なければ利用することができないデータもあり,申請から利用開始までに時間がかかる場合もあります。
修士論文は,限られた時間で執筆しなければならないため,まず研究テーマを具体的に定め,自分の主張を裏付けるためにはどのようなデータが必要であるかということを考えて,できるだけ早い段階でデータの入手可能性に関して調べておくことが必要です。
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